キャリア教育・社会体験

中高生がリアルな起業体験を通じて得た気づきと学びとは?-「にちなん起業体験プログラム」開催レポート(後編)

中高生が「起業家」に。本物のお金を使ってゼロから事業を立ち上げる社会体験プログラムが、宮崎県日南市において開催されました。企画して、売って、決算して。果たして利益は出たのでしょうか。本物のビジネスと同じ流れを体験することで、中高生の気づきはより深いものになったようです。前編に引き続き、開催レポートです。

にちなん起業体験プログラムとは、中高生が「起業家」となり、本物のお金を使ってゼロから事業を立ち上げる社会体験プログラムです。事業計画を立て、商品を準備し、実際にオンラインショップを運営します。

前編では、このプログラムの内容やねらいについてお伝えしました。後編では、具体的にどのような事業が生まれ、どのような結果に終わったのか、ご報告します。

にちなん起業体験プログラム(地元ショッピングモールでの1日限定のテスト販売の様子)

「売りたいもの」を売るのか、「売れそうなもの」を売るのか

今回は、14名の参加者を4~5名の3つのグループに分けました。申込みの際に、どんな商品を取り扱いたいか、アンケートをとります。

回答を踏まえ、地元の特産品を扱いたいと答えた子たち1グループと、ファッションや小物を扱いたいと答えた子たち2グループで編成を行いました。

最終的に誕生したのは、以下の3つのショップです。

にちなん起業体験プログラム

<オンラインショップ>

※すでに販売は終了しており、商品を購入することはできません。

●Mosstore(もすとあ)

●ChouChou(しゅしゅ)

●AM‘(えーえむだっしゅ)

にちなん起業体験プログラム(各チームの商品)

さて、皆さんはこれらの商品を買いたいと思うでしょうか?

運営側は商品の良し悪しについては何も言いませんでした。もちろん、考えるにあたってのフレームワークを提示したり、話し合いのサポートをしたりはしました。

しかし商品への評価は、出資してもらえる額や商品が売れるかどうかが全てです。本人たちの決定に委ねるようにしました。

商品は「企画」するより「売る」方が難しい

販売は、地元ショッピングモールでの1日限定のテスト販売を経て、2カ月間のオンライン(一部、直接販売)で行いました。売上の結果は以下の通りです。

にちなん起業体験プログラム

テスト販売では全てのグループが好調な売り上げとなりました。苔のテラリウムを販売したMosstoreは5個という結果ですが、これは元々商品を5個しか用意していなかった(そんなに売れると思っていなかった)ためで、開始30分で完売してしまいました。一方、オンライン販売になると苦戦します。

テスト販売で売れた理由は、市役所の方や保護者など関係者が買いに来てくれたこと、また通りがかりの方も中高生が頑張っているということで買ってくれました。

しかし、オンラインの場合は自分たちからアプローチをしなければなりません。自分のSNSで告知するなり、友人や先生にプレゼンするなり、できることはあったはずですが、そういった泥臭いことを十分にやらなかった結果だと見ています。

にちなん起業体験プログラム(収支計画とにらめっこ。価格をいくらにするか、商品をどれだけ用意するか、手探りで設定していく)

なお、直接販売は途中で生まれたもので、状況は様々です。

Mosstoreの場合、地元の酒造と連携し、焼酎とセットにした「コケ呑みセット」を企画。お酒は法律の関係上こちらで販売することができないため、酒造側に10個を買い取ってもらい、店舗で販売してもらうという形をとりました。

一方でChouChouとAM‘については、最終手段として友人や家族などに手売りしたもので、決算当日に慌ててお願いして買ってもらう姿もありました。

にちなん起業体験プログラム(地元ショッピングモールでの1日限定のテスト販売の様子)

近年、様々な場面で「生徒が企画しました!」という商品やサービスを見かけます。しかし、企画は思い付きでできても、売るには地道な行動が必要です。

販売まで行うこともありますが、学校行事や地域のイベントでは集客する必要はありませんし、中高生が頑張っているという点も加算されます。

オンラインの場合、競合として多種多様な商品があり、到着まで待つ時間や送料等を負担してまで買ってもらうのは至難の業です。

オンラインショップの運営になったのは、コロナ禍を受けた偶然でしたが、オンラインショップだからこその厳しいリアリティがあると感じました。

最初から最後まで自分たちでやり切ることで、全体像が見えてくる

最終的な決算は、それぞれこのような形になりました。

にちなん起業体験プログラム

模擬出資は、1株1,000円で受け付けていましたので、例えば、Mosstoreに1株だった場合は1,436円が支払われる、という形です。最後の駆け込み販売もあり、どのグループも多少の利益を乗せてお返しすることができました。

ちなみに商品の仕入れですが、Mosstoreの苔は私有地で採取するしかないため、山を保有している人を探して採取させてもらっていました。他の瓶やピンセットなどはお店で購入。また、苔の採取や扱いについては、地元のNPO団体で苔テラリウムのワークショップなどをされているところがあり、そこの方に指導を受けていました。謝礼もお支払いしています。

他の2つは地元でユニフォームやグッズなどの制作をされている事業者さんにお願いし、刺繍やプリント等の加工をしてもらいました。

にちなん起業体験プログラム(事業者さんとのプリント・刺繍加工の打ち合わせの様子)

最後に、参加者の気付きを共有したいと思います。

・自分たちで商品を作ることの難しさを学ぶことができた。商品を作るにあたって、たくさんの人の協力があると気づくことができた。(高校1年生)

・商品を決めて準備すること段階まではできても、利益を出すために宣伝などをして販売するということがとても難しく、大変でした。ただ、起業をして利益につなげるためにもそこが一番大事な部分だなと思いました。(中学3年生)

・自分が欲しい商品だけでなく、買う人の視点からも考えなければならなかったので難しかった。ネット販売という点も、見た人の意見が直接聞けなかったので、情報や写真をたくさん伝えないといけなかったし、商品の魅力を伝えるのが難しかった。(高校2年生)

・自分の意見をしっかり言うこと、考えたり思ったりするだけでなく、行動に移すことが大事だと思った。また、人のお金を扱うのは簡単ではなくて、責任重大だということを学んだ。(中学2年生)

にちなん起業体験プログラム(「にちなん起業体験プログラム」の参加メンバー。途中の欠席などはあったものの、最終日は全員揃って終えられました)

このプログラムでは、ビジネスの仕組みを知るだけでなく、もっと広い意味での仕事の成り立ちや大事なこと、また学校で学んでいる教科がどう将来に繋がっていくのかということも実際に体験できたのではないかと思います。

一方で、パソコンの扱いの苦手さや、分からないときに質問もせずに待ってしまうことなど、社会に出た時に課題と言われるような姿がこの場でもハードルとなりました。

次年度の第二回に向けて、改善すべき点は多々ありますが、学校と社会を繋ぐ一つのシミュレーションの場として手応えを感じる試みとなりました。

Author:羽田野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

学校内外の教育支援や企業研修のご依頼をお受けいたします!

現在、宮崎県内を中心に、①学校内で行われるキャリア教育やプロジェクト学習、進路指導などを支援(学校支援事業)、②学校外での教育プログラムの企画や教育に携わる社会人向けの研修(社会教育事業)、③社員の採用や育成に関するコンサルティングや、社員研修の企画・講師(企業研修事業)などを行っています。宮崎県外の場合、オンラインでのご相談や、同様の活動をされている方のご紹介も可能です。お気軽に下記・ホームページよりご連絡ください。

この記事が気に入ったら
「いいね!」や「フォロー」をお願いします。
最新情報をお届けします。
Eduwell Journal
タイトルとURLをコピーしました