カナダ

幼稚園から高校までプログラミング教育を行うカナダ(後編)-社会とのつながりの中で活きたSTEM教育を行う

21世紀に向けて、カナダではSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)の分野で活躍できる人材の育成を目指し、行政と産業が協力して教育改革に取り組んでいます。

この取り組みで大変興味深いのは、ただ知識を教えるだけでなく、体験型のプロジェクト形式で、チームとしてコミュニケーション力、問題解決能力、分析能力、創造力を向上しながら最先端技術を使って実際に開発する楽しさを教えていくところにあります。

前回の記事(前編・中編)では、具体的にどのようなSTEM教育をしているかお話しましたが、今回はそういった教科を教えている先生や、その教育を推進する上で家庭教育の重要性についてお話したいと思います。

Coquitlam School District:サマースクールで行われたSTEM教育のプログラムの様子(Coquitlam School District:サマースクールで行われたSTEM教育のプログラムの様子)

世界的に表彰された人間味溢れるMr. Sean Robinson先生

カナダの教員は四年制大学を卒業した後、1年間教員育成の専門プログラムに通学し、教科を教えることだけでなく、人間教育についても学びます。そして、カナダの先生は副業が出来ることから豊富な経験を持っている先生も大変多いのが特徴です。今回は、コクイットラム教育委員会のリバーサイドという高校で活躍しているMr. Sean Robinson先生についてお話します。

リバーサイドセカンダリースクールは、バンクーバーから1時間ほど郊外にある閑静な住宅地にある学校です。日本の中学2年生から高校3年生までが通学する公立高校です。幅広いコースを提供している中で、特に有名なのが21世紀に向けて全校生徒が最先端技術に触れられる教育内容や教育環境を提供しています。中でもSTEMを教えている先生の取り組み方が大変評判です。STEM教育がより社会に役立つ技術者、人材を育成する橋渡しになっています。

Robinson先生は、先端技術を教えながら生徒に仲間と協力する素晴らしさを教えたり、専門家とつながる機会を設けたり、生徒主導型で生徒のアイディアをもとに社会課題を解決に取り組むプロジェクトを行い、革新的な取り組みをしている先生です。素晴らしい先生を表彰する「The Varkey Foundation Global Teacher Prize」のファイナリストにも残りました。

教室の中だけで終わらない指導方法

Robinson先生が最も大切にしているメッセージは「Connection(つながり)」と「技術で社会のために何ができるのか?」です。Robinson先生の教育は教室の中だけで終わりません。地域や、企業、世界ともつながるようなプロジェクトや指導方法です。

実際に、この先生の生徒達が社会に役立つように先端技術を使ったプロジェクトとして生み出したのは、太陽光熱で天気予報をするシステムや、太陽光熱でラップトップやランタンを動かす方法です。天気を測定する装置をデザイン、設計し、構築し、学校の屋根に設置して、そのデータを分析するところまで学生がチームとなって行いました。

また、太陽光熱を利用したランタンやラップトップの開発では、リバーサイドの学生が別の州の学生と一緒に研究し、実際に電気の需要が足りてないウガンダやケニアに紹介したりしました。

生徒達は最先端技術を使って社会貢献する活動を実体験しました。生きた教育は生徒のやる気を伸ばし、創造性を豊かにします。

Robinson先生は先生同士のつながりも大事にしていて、実際にウガンダや諸外国に出向いてConnection(つながり)を大切にしたSTEM教育について講演されました。ぜひ、一度こういった先生に日本に訪れてほしいものですね。

STEM教育の推進に、親はどんなことができるのか?

もちろん、素晴らしい先生との出会いも大切ですが、今回の記事を書きながらもう一つとても重要な事が分かりました。

カナダで2015年に行われたLet’s Talk Scienceという団体の調査で、76%の生徒が高校を卒業してからの進路や専攻を決めるのに両親の影響が一番あると答えています。先生の影響は、残りの26%です。カナダと日本の文化的な違いがあるかもしれませんが、カナダでは家庭での教育もSTEM教育を推進するには大変重要な役割を担っていることが分かりました。

それでは、実際の家庭教育ではどのような取り組みが出来るでしょうか?Let’s talk scienceの創設者Bonnie Schmidt氏やAmgen CanadaディレクターのLeann Sweeney氏が推奨しているポイントをいくつかご紹介します。

1.家庭での会話にSTEMの分野を取り入れる

家族がSTEMの専門家である必要はありません。子どもが興味を持ったことに関して、「Why ?(なぜだろうね?)」「How come?(どうしてそうなるんだろうね?)」といった質問を子どもに投げかける事が大切と言っています。

そして、子どもが興味を持ったことを探求できるような環境を提供するのが一つの役割と言っています。そして、21世紀に向けて、STEM分野は産業としてとても重要になるので、将来のためにそういった知識を身につけることがどれだけ役立つか子供に伝えることも重要な役割と言っています。

2.日々の生活にSTEM教育を取り入れる

難しいことをやる必要はないのですが、お料理を一緒にしながら化学のことを少し取り入れたり、一緒に家庭菜園や植物を育てながら生物について学ぶ環境を作ったりすることが大切と言っています。

ここで重要なのは、子どもが興味を持つための取り組みという点です。塾に行っていい点数を取っていい大学にいくという目的ではなく、STEM分野が社会でどのぐらい大切になるのか、社会にどう役に立っているのかといったことも会話にぜひ取り入れてほしいです。

3.地域にあるSTEMプログラムを紹介する

カナダでは、国を挙げて学校教育でも、地域の科学博物館や自然公園でもSTEM教育を推進しています。ロボテイックスの大会を開催したり、科学博物館では体験型の実験教室を多く実施したりしています。家族としてそういった場所に子どもを連れていくことも子どもに興味を持ってもらうためにはとても効果があります。

興味を持ち、感動した経験が子どもの成長を促す

今回、私が本記事を書いている上で印象的だったのは、実際に義務教育で教えられているSTEM教育のレベルの高さと、ただの教科としての学びだけでなく、実際の産業とのつながりや、創造性、協調性、問題解決能力、分析力、リーダーシップ力といった人間力の重要性もきちんと教えていることでした。

興味を持ち、感動した経験が子どもの成長を促す

体験型のプロジェクト形式の教育は実際にチームで計画、開発していく作業が多いので、その工程を通じて、将来社会に出たときに必要になるスキルが身に付きます。

そして、STEM教育では実は家族の役割が重要である事が分かりました。カナダの教育の強みは教育と地域産業や企業、そして、大事な影響力を持つ家族が連携をとっていることだと思います。

Robinson先生は、「教師の仕事は、こういった最先端技術を生徒が身近に感じ、興味を持ってもらい、実際の産業への入り口を用意すること」と言っています。詰め込み式の教育に比べ、実際にプロジェクトを自分で体験しながら勉強することはより実戦的でありますし、個人の創造性を豊かにし、たくさんの達成感や成長を促します。

私がとても尊敬している定年を迎えられた生物の先生は教育で一番大事なのは、知識を教えることではない、感動した体験をどれだけ子ども達に経験させてあげられるかだと。子どもは感動したこと、興味を持ったことは自分で自然に学んでいくと言っていました。

日本でも体験型の学習の重要性は少しずつ広まってきているときいています。21世紀に向けてたくさんの感動体験をした子ども達が豊かな社会を創生していってくれることを楽しみにしています。

Author:細越美和
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。

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