子どもを産み育てること。これほど素晴らしく、愛おしいことはありません。どんな親御さんも、未来に希望と覚悟と不安を抱きながら、我が子の誕生を待つことでしょう。生まれてからは、一気に親としての生活が始まります。我が子の可愛さを噛み締めながらも、怒涛のような子育てのハードルにヘトヘトな毎日。あっという間に日々が過ぎ去ることでしょう。
そんな日々の中、絶対に見逃さないで欲しいこと。それは、我が子に関する「あれ、他の子と違うかも」「あれ、こんなことが出来ないのかな?」という感覚です。これは、お子さんの発達に関するとっても重要なサインであり、親御さんが一人で悩んでも解決しにくい問題です。
「あれ?」という感覚は、もちろん取り越し苦労の場合もあります。しかし、ちょっとした発達の遅れや、何らかの発達障害に関連する場合もあるのです。
いずれの場合も「療育」は、薬にはなっても毒になることはありません。何もなかったら、「良かった」と切り替えれば良いのです。療育は早ければ早いほど効果が大きいので、不安感や世間体などで、お子さんの発達のチャンスを見逃さないよう、まずは考えるより先にとって欲しいアクションを3つご紹介します。
アクション1.Webの発達チェックリストと照らし合わせてみる
まずは、「発達障害 子供 チェックリスト」とインターネットで検索し、複数のサイトを確認してみましょう。
お子さんの特徴として注意してみるべきポイントがわかってくると思います。乳幼児健診や母子手帳などにも使われている幼児期の自閉症チェックリストM-CHATの項目も検索すると出てきますので、参考にしてください。以下に、よく取り上げられる行動を書いておきます。
国立精神・神経センター精神保健研究所:日本語版「乳幼児期自閉症チェックリスト修正版」(Modified Checklist for Autism in Toddlers/M-CHAT)
・つま先立ちや、抱っこ時の反り返りがある。
・歩き出しが遅い、手先が不器用である。
・人の手をクレーンのように使って要求を叶えようとする。
・アイコンタクトが少ない。
・指差しが少ない。
・名前を呼んでも振り向かない。
・自分の見つけたものを持ってきて見せる、指差すといった行動がみられない
・3才になっても言葉が出ない。
・かけられた言葉のおうむ返しやTVなどの真似が多い。
・独り言が多い。
・要求語ばかりを話す。
・並べ遊びや何かを横目で見るといった感覚遊びをする。
・ごっこ遊びをしない。
・子ども同士で遊ぶことができない。
・くるくる回るものや水などを好む。
・特定の並べ順や道順、服装、などにこだわる。
・こだわりや要求が叶えられないと奇声をあげる。
・ひっくり返るなど癇癪を起こす。
・理由もなく癇癪を起こす。※癇癪(かんしゃく):ちょっとしたことにも感情を抑えきれないで激しく怒り出すこと
「あれ?」という感覚に加え、以上の行動に3つ以上心当たりがあったら、アクション2に進みましょう。アクション1と並行して、保育園や幼稚園、祖父母に意見を聞ける場合は聞いても良いですが、お母さんの感覚を1番に信じて行動してください。
アクション2.保健所や療育センター、区役所の福祉課などに連絡する
子育てに悩んでいて、かつ上のリストに3つ以上心当たりのある行動がある場合は、地域の窓口にすぐに相談してください。
ネットで、「○○(お住まいの地域)区 子育て支援」や「○○区(市) 療育」と打ち込むと、最寄りの窓口につながる情報が出てきます。とにかく電話をして、「子どもの発達が気になるのですが、評価や支援をうけるにはどうすれば良いですか?」と伝えれば、適切な窓口につないでくれるはずです。
療育センターの医師の診察などは数ヶ月待つのは当たり前、な所も多いですから、やはり早く動き出す必要があります。乳幼児健診が近い場合には、検診の場で相談してもよいでしょう。障害や療育などの言葉にどうしても抵抗がある場合は、子育て支援の場にまずは出かけてみるのも一つです。
アクション3.自分でも療育を学ぶ、探す
アクション2がきちんと行われ、お子さんに療育の必要性があった場合には、遅かれ早かれ地域の療育をうけることが出来るようになるでしょう。ただし、ここでもう一つ行動することが、とっても重要です。
残念ながら、日本の地域で受けられる療育は、量や質ともに必要十分とは言い難いのが現状です。地域の受け皿が足りておらず、回数が月に1回と極端に少ない場合もあります。
また、内容も、地域ごとに専門性にばらつきがあり、結果的に経過観察に近くなってしまう場合も少なくないのです。お子さんの幼少期は何者にも代え難い貴重な時間で、療育の効果も1番出やすい時期です。ぜひ、しっかり情報収集を行って、お子さんに合った最適な療育を探してみてください。
海外などの研究で最もエビデンスが示されている療育方法は、応用行動分析(ABA)と言われる指導法です。
お子さんの癇癪に代わるコミュニケーション行動を教えたり、言葉が出ていない場合は音声の模倣など言語につながるスキルを1つ1つ丁寧に指導したりと、お子さんの具体的な行動の変化を生み出すには、個別の集中的な療育が重要です。
地域にそういった指導をしてくれる場所がない場合は、テキストやメーリングリストで家庭療育をサポートしてくれる親の会もありますので、ぜひ、ご家庭でも療育を行ってみてください。
「様子を見ましょう」は要注意!
最後に、1つ気をつけてほしい言葉があります。それは、「様子を見ましょう」という言葉です。これは、人が決断に確信をもてない場合や決断を先延ばししたいとき、色々な場で使われる便利な言葉です。私が出会った親御さんの多くは、「あの時、様子なんて見ないですぐに動き出していれば良かった。」と後悔されています。
子どもが療育によって最も可能性を広げられる時期は、基本は就学前の2、3年であり、そう長くはありません。我が子の未来の可能性を最大限に広げてあげるために、行動しながら悩む、考える、をモットーに、すぐに一歩踏み出してほしいと思います。
NPO法人ADDS共同代表、慶應義塾大学社会学研究科訪問研究員・博士(心理学)慶應義塾大学大学院心理学専攻博士課程修了。
専門領域:応用行動分析、前言語期コミュニケーション、発達心理学に基づく発達障害児の早期療育、ペアレントトレーニング、療育と育児ストレスとの関連、人材育成プログラム開発など
保護者が家庭でできる療育プログラムの研究開発と効果検証を進め、28年度科学技術振興機構研究開発成果実装支援プログラムに最年少で採択。「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデル」の責任者として全国で療育モデルの実装に取り組む。
著書:「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典
「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典
療育現場や親御さんの間で、絶大な効果があると今、大評判!画期的方法論ABA(応用行動分析学)をもとに、その子の特性に合わせた教え方、伝え方を大公開!
本書ではこのABAをもとに、様々な声かけやアイデアをご紹介していきます。著者の2人は、これまで約20年にわたり、現場で実際に取り組み培ってきたプロ中のプロ。あらゆる状況を想定した、そのノウハウはどれも説得力があるものであり、かつ、効果があるものばかりです。