「子ども食堂」が全国各地に増えています。「食」を切り口に地域の中に出会いの場を作り、子どもと関わっていく営みの「子ども食堂」に、行政も補助金を出すようになりました。
一方で、「子ども食堂とは?」「子ども食堂は、子どもの貧困対策になるのか?」といった議論も起きるようになってきました。「子ども食堂」については、「無料塾」(学習支援)が広がった時以上に、広がりに勢いを感じています。
ここ10年近くで新たに広がった「無料塾」(学習支援)や「子ども食堂」と、従来の子ども・子育て支援事業を実施している場所で、「子どもの貧困」を意識した取り組みがとても増えました。月1回、週1回かもしれませんが、少しでも子どもの手の届く距離にこのような場が増えてきたことは、市民の意識として大きな前進になっています。
一方で、子どもたちの手の届く距離にあっても「活かされていない」「気づかれていない」「継続して来てもらえない」「問題解決につながらない」といった現状も目の当たりにしてきた10年間でもありました。今回は、その中で問題解決につなげていくために必要な「家庭支援」について書いてみたいと思います。
親の抱えている悩みや困りごとの解決をする支援は少ない
子どもの貧困対策への取り組みとしては、主に「学習」「食」「交流」「キャリア」などの子どもに対する直接的な関わりと学校を中心としたものが多くを占めています。
親に対しては、主に就労支援と社会保障制度、その手続きのサポートが多く、あくまで社会保障的な支援であり、家庭を支えるという直接支援が十分にあるというものでもありません。
子どもは、家庭、学校、地域で生活し、成長していきます。サードプレイス・第3の居場所といった言葉もあるように、最近では、子どもの育ちの環境としての地域のあり方、地域に必要な社会資源について議論も増え、実際の活動も増えています。
学校についても、スクールソーシャルワーカーの配置や、NPOなどとの連携による子どもの困難解決に向けた取り組みも出てきています。まだまだ不十分ですが、「対子どもだけ」へのアプローチは形ができています。
そして、最後は家庭の環境となるわけです。家庭には、複数の家族が生活しています。子どもへのアプローチを個別丁寧に取り組むことは大事なのですが、実際の生活バランスで言えば、家庭で過ごす時間が圧倒的に多いわけですから、当然、その家庭環境へのアプローチも必要になります。
しかし、親(おとな)への支援は、指導が多く、実際に親の抱えている悩みや困りごとの解決をする支援は少ない状況です。この問題を解決することで、子どもの育ちの環境は、大きく変化します。
家族それぞれの支援の意識だけでは、家庭環境は変化しない
子どもは、日中の生活空間が違う兄弟姉妹とも一緒に生活しています。それぞれの困難が家庭で吹き出した場合、一番弱い部分に負のエネルギーが向かうことは容易に想像できると思います。
しかし、親には制度の担当者、兄弟にはそれぞれの担任の先生や活動現場のスタッフなど、支援に関わる人たちがそれぞれ別々であることが多く、他の家族へ関わるきっかけがつかめず、家庭へのアプローチができません。結果、子どもが過ごす時間が一番長い家庭環境が変化しないということになってしまうのです。
そこで、関わる子どもを通して獲得した視点を、さらに家族の状況に応じて複眼化し、それぞれの情報を重ねていくと新しい糸口が見つかるかもしれません。例えば、「エコマップ」(援助者が利用者を支援するために、利用者、家族、社会資源の関係性を図にしたもの)でも、子どもだけの視点で見ることと、家庭の視点で見ることの違いがわかると思います。
(ワークショップで作成したエコマップの例)
「仁の物語」から考えるエコマップ
例えば、「山科醍醐こどものひろば」と、「幸重社会福祉士事務所」が作成した「貧困を背負って生きる子どもたち」シリーズの動画を見ながら考えて見ましょう。
親、仁(兄)、智(弟)という3人家族の家庭です。まずは家庭・地域が舞台になります。それぞれの登場人物とその人物の舞台を想像してみてください。
登場するケースワーカーなら親を中心に、エコマップなどを作成して支援の糸口を探っていくことになるでしょう。それとは別に主人公の仁君については、学習会の現場で仁君のエコマップを描いてみたりして、どんなことができるかを考えるかもしれません。
もちろん動画の中にある情報だけではわからないことも多いですので、一部は「存在するであろうつながり」も補ってみてください。さらに後半:仁の物語を見ると、特に仁君のエコマップは、完成していくと思います。
次に、こちらの動画は、学校が舞台です。智君のエコマップは、どのようになっていくでしょうか?作成は、スクールソーシャルワーカーを中心にすることになるでしょう。
最後に、それぞれ3つのエコマップを比較してみてください。
違いはありましたか?それぞれの登場人物、その舞台、担当者(エコマップ作成者)だけでみると情報が限られることと、家族の関係性や、資源が限定的になることも想像して頂けたのではないでしょうか?
もし、このエコマップが一つになり、家庭を取り巻くエコマップができれば、より親支援から子どもへ、子ども支援から親へとアプローチの道筋が見えるかもしれません。
あくまでもこれは一つの例です。これを実現するならば、その子どもが育つ環境を具体的にイメージし、それぞれに関わる方々が情報を共有し、アクションにつなげられれば、これまで届かなかった家庭にも届くようになると思います。
子どもの貧困を解決していく上では、家庭、学校、地域、そして、社会そのものの環境が変わっていく必要があります。学校、地域での活動が徐々に増えていく中、ぜひ、家庭への意識と社会への働きかけを増やしていけるよう、手を取り合い、まなざし合わせをはじめてみてはどうでしょうか?
そして、それを意識した時に、今の「子ども食堂」や「無料塾」(学習支援)の活動がどのように広がりや深みなどを持つのか議論し、チャレンジして欲しいです。
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク、子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち
子どもの貧困対策事業をご支援ください!:NPO法人山科醍醐こどものひろば
「ひとりぼっちの夜の家で育つ子どもの気持ちを知っていますか?」 あなたの力で寂しい夜を過ごす子どもにほっとする一夜を。
子どもたちは生まれてくる親や社会(地域や時代)を選ぶことはできません。今の時代は親の自己努力や従来の地域のつながりだけで、子育てが何とかならない時代に突入しています。だからこそ、そのような子どもに責任のない「子どもの貧困」を軽減するために、市民の力を必要としています。NPO法人山科醍醐こどものひろばの子どもの貧困対策事業をご支援ください。