性教育・性の健康

もっと話そう、ちゃんと学ぼう「これからの性教育プロジェクト」(前編)-体の仕組みを学ぶだけではない!ライフスキルとしての性教育

一般社団法人“人間と性”教育研究協議会の水野哲夫氏、一般社団法人「にんしんSOS東京」の中島かおり氏、NPO法人「ピルコン」の染矢明日香氏、「#なんでないのプロジェクト」の福田和子氏

7月12日に日本財団ビルで、「これからの性教育プロジェクト」の第一回目となるイベントが開催されました。「これからの性教育プロジェクト」は、日本の子ども・若者たちに「性の健康と権利」としての包括的性教育を豊かに保障することを目指すプロジェクトです。

今回のイベントには、子育て世・保護者、国会議員、地方議員、教育・福祉・医療関係者など、約150名が集まりました。先駆的な取り組みを行っている4名の有識者が活動を報告し、日本の性教育の抱える課題について述べました。

前編では、「これからの性教育プロジェクト」の立ち上がった経緯と、一般社団法人“人間と性”教育研究協議会の水野哲夫氏、一般社団法人「にんしんSOS東京」の中島かおり氏の報告をお伝えします。

「これからの性教育プロジェクト」が立ち上がった経緯

東京都足立区の区立中学で3年生の生徒を対象に行われていた性教育の授業に対し、2018年3月の東京都議会文教委員会で都議が中学の学習指導要領にない「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」という言葉を使っての授業は不適切だと批判しました。

これに対して、「10代の望まぬ妊娠や出産を防ぎ、貧困の連鎖を断ち切るためにも、授業は地域の実態に即して行われ、生徒と保護者のニーズに合ったものだ」と実際に足立区教育委員会や授業を実施した中学校の校長は反論しています。教育活動に対する政治的な圧力とも捉えられます。

2003年に性教育の授業内容が都議会で問題視され、校長や教員らが処分を受けた「七生養護学校事件」では、2009年に東京地裁で「都議らの行為は政治的な信条に基づき、学校の性教育に介入・干渉するもので、教育の自主性をゆがめる危険がある」として七生養護学校側が勝訴しています。2013年には最高裁判所が上告を棄却し判決が確定しています。

このような状況にも関わらず、同様の問題が起こっていることに対して、有識者が中心となり、ライフスキルとしての性教育の必要性を訴えるプロジェクトを立ち上げました。

国際スタンダードから考える日本の性教育の課題(一般社団法人“人間と性”教育研究協議会の水野哲夫氏)

一般社団法人“人間と性”教育研究協議会の水野哲夫氏

性教育の国際的指針として、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(以下、ガイダンス)という2009年に発表された国際文書があります。

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このガイダンスは、ユネスコ(国際教育科学文化機関)・UNAIDS(国連合同エイズ計画)を共同スポンサーとして、UNIFPA(国際人口基金)・UNICEF(国連児童基金)・WHO(世界保健機関)と世界各国の実践者と、専門家によって開発され、8カ国語に翻訳されています。日本では行政が黙殺しており、民間が翻訳・出版しています。

2018年1月に新しいバージョンが発表されています。このガイダンスの発表によって、ヨーロッパや東アジア(台湾・中国・韓国)の性教育に影響を及ぼしており、EUでは26カ国中20カ国が性教育を義務化しています。

ガイダンスが提唱している「セクシュアリティ教育」は、1999年に世界性科学会で採択されている「性の権利宣言」における「包括的性教育」と同意義のものです。

日本で性教育というと、体の仕組みを学ぶようなイメージを持たれますが、人間関係から学びがはじまり、家族とは何かを考えていくものであり、かなり幅広い内容になっています。6つの基本構想ごとに項目が示され、年齢ごとに具体的な学習目標や内容が示唆されています。

日本では、これまで積極的に性教育に進めてこられなかっただけでなく、抑圧されてきた歴史があります。性教育は何歳からはじめるべきなのでしょうか?日本では、ある国会議員が「子どもに性教育は必要なく、結婚してからで良い」という趣旨の発言がされていましたが、ヨーロッパでは、0歳からを対象とした生涯に渡って学ぶものとされています。

みんなの「わからない、知りたい」に応える~にんしんSOS相談窓口の現場(一般社団法人「にんしんSOS東京」の中島かおり氏)

一般社団法人「にんしんSOS東京」の中島かおり氏

「にんしんSOS東京」は、2015年に助産師6名、社会福祉士1名で設立した団体です。現在は、22名体制で事業を運営しています。365日電話とメールによる無料相談窓口を設けており、時には相談者に同行して必要な支援につないでいます。

東京都のホットラインは単発相談が基本となっていますが、私たちは継続相談も実施しています。行政委託ではなく、民間での運営となります。日本は新生児死亡率が世界一低い国であり、医療につながることができれば、赤ちゃんもお母さんも安全に生きていくことができます。

2016年1月から2018年3月までに、全国の1,223名の方からご相談を受けました。緊急性の高い相談をイメージされる方も多いと思いますが、もっと手前の「わからない」「どうしよう」という相談も多く受けています。

相談を頂く方の年齢は、10代から50代まで幅広いのですが、主に10・20代が多く、10代が30%で、20代が37%となっています。性別では、女性が84%、男性が16%となっています。ネット検索から「にんしんSOS東京」を知ってご連絡を頂くケースが多く、10代ではyoutube(NPO法人Child First Lab.さん制作した動画)経由での相談が突出しています。

最も多い相談は、「避妊の失敗、生理の遅れ」で58%となり、次に「思いがけない妊娠」に関する相談が22%となっています。

私たちの受け取るSOSは氷山の一角であり、今もどこかで一人きりで孤立している方が大勢いると思います。「妊娠したかも」というのは大きな恐れや不安となります。

具体的かつ適切な情報提供はその子どもや若者が主体的に判断して生きていくために必要です。信頼できる誰かと出会うことで、「一人で抱え込まなくていいんだ」「誰かを頼っていいんだ」と思える人が増えていって欲しいと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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