厚生労働省では、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定め、児童虐待防止のための広報・啓発活動などを行っています。ピンク(乳がん)や赤(エイズ)などの啓発活動や支援の意志を示すために身に付けるアウェアネス・リボン(Awareness ribbon)として、児童虐待では、オレンジ色のリボンが一つのシンボルになっています。
特に多くの方々に知って欲しいと周知に力を入れているのが児童相談所全国共通ダイヤル「189」(いちはやく)です。それぞれの地域の児童相談所に電話がつながり、子どもの虐待の通報や相談が24時間できます。「189」は、「110」「119」と同様に、ぜひ、知っておいて欲しい番号の一つです。2019年12月から通話料も無料化されることになっています。
児童虐待相談対応件数は過去最高!通告は主に警察や近隣知人から
2019年8月には、平成30年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)が厚生労働省から公表されました。
件数は15万9850件で、前年度より2万6072件(19.5%)増え、過去最多を更新しました。内訳は、心理的虐待88,389 (55.3%)、身体的虐待40,256 (25.2%)、ネグレクト29,474 (18.4%)、性的虐待1,731 (1.1%)となっています。
児童相談所に寄せられる通告は、主に警察等(50%)、近隣知人(13%)、家族(7%)、学校等(7%)が行っているケースが多いようです。
児童本人からSOSの通告をしたケースは、全体の約1%です。児童本人から通告できるようにするためには、様々なハードルがあると考えられますが、子ども自身が受けているものが「虐待」とわからないということが根本的な一つの理由として考えられます。
身体的虐待(暴力)はわかりやすいですが、件数の多い心理的虐待やネグレクトなどは、「私は虐待を受けている」と子ども自身が認識することは困難です。
子ども自身の「児童虐待・マルトリートメント」や「デートDV」の認識を広げる
頼れる大人が周りにいない子どもたちのための相談窓口まとめサイトを運営する認定NPO法人3keys(以下、3keys)では、子どもたちに児童虐待・マルトリートメント(不適切養育)を知ってもらうために、子ども向け啓発アニメ動画を制作し、Youtubeでの動画配信を行っています。
2019年10月24日には、特設のサイトが公開されました。現在は、家族・親戚からの「児童虐待・マルトリートメント」を知ってもらうための動画4本と、恋人・パートナーからの暴力・デートDVを知ってもらうための動画5本を先行配信しています。
認定NPO法人エンパワメントかながわが、2016年に実施した「全国デートDV実態調査」では、交際経験のある中・高・大学生の38.9%がデートDVの被害に遭ったことがあるとされ、児童虐待・マルトリートメントと同じく、子どもたちにとって身近な問題と考えられます。
子ども向け啓発動画「ミーのなやみ」は、羊のキャラクターを中心に、「児童虐待・マルトリートメント」や、「デートDV」の各場面を、年齢・性別を問わない、重すぎず・軽すぎない表現で、各1分程度で伝えています。また、もし自分が同じような場面に遭っている場合に、すぐに助けを求められるよう、悩みに合った相談先の紹介を動画内で行っています。
「家族・親族編」は、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク・理事長の吉田恒雄氏、「恋人・パートナー編」は、認定NPO法人エンパワメントかながわ・理事長の阿部真紀氏が監修を行っています。
今後は、虐待やデートDVに続き、いじめ、体罰、性被害の啓発動画を制作し、順次公開していく予定としています。
多くの子どもたちに届けていくために必要なこと
従来、日本では、大人向けの情報として普及啓発されてきた児童虐待・マルトリートメントについて、子どもや若者向けに普及啓発がはじめられたことは革新的な取り組みだと言えます。また、書籍やウェブサイトなどのテキストではなく、Youtubeで短編動画として公開されたことは、多くの子どもや若者に広がっていくうえで有効的な方法だと思われます。
問題を認識して終わりではなく、3keysでは、10代のための支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」も運営しており、具体的な支援や相談に結び付けられることができる点も子どもや若者にとっては有益な点です。
(10代のための支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」)
こういった動画がソーシャルメディアで拡散され、目にする可能性もありますが、一般的にはキーワードを入力・検索して、情報を探していくため、そもそもこういった情報を探そうとしていなければ出会うことが難しいと考えられます。
3keysでは、学校現場・学習会・講演会などでの動画の活用を推奨しており、活用事例や感想なども募集しています。
学校などの場で「ミーのなやみ」のような動画を一つの教材としていくことは、まだ自分の置かれている状況に気がついていない子どもや若者にとっては、「あっ、もしかしてこれって私?」と知ることができる大変に重要なきっかけになります。
また、子ども自身が具体的なイメージを持つことで、周囲の友達に何かあった時に、SOSを出すサポートにつながるかもしれません。子どもたちとの接点のある教育関係者の方は、ぜひ、活用してみてはいかがでしょうか?
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。