社会的養護

ランドセルの寄付は迷惑?支援者と現場のミスマッチ-子どもを支援する前に知っていて欲しい実状

3keysの学習支援・教室型指導の様子(3keysの学習支援・教室型指導の様子)

起こりやすい支援のミスマッチ

私が運営している特定非営利活動法人3keysは、すべての環境の子どもたちが自立するために必要な支援や情報が十分に行き届くことを目的に、格差の下にいる子どもたちへの支援を届けています。

対象としている子どもたちの親は、貧困、精神疾患、離婚、DV、無業者、生活保護等、精神的にもしくは経済的に自立していないことが多く、子どもたちに十分な学習どころか、愛情や安定した生活の提供も難しい家庭も少なくありません。

そのような子どもたちは状況がさらに悪化し、育児放棄や虐待に及ぶと行政の下で保護され、児童養護施設等の施設に保護されたり、里親の下で育てられるなどしています。

3keysが現在、特に対象にしているのはそのように行政の保護下で暮らすことを余儀なくされた子どもたちです。このような子どもたちを総称して社会的養護下の子どもたちと呼びます。

このような子どもたちを支援していると、ありがたいことに企業や他NPO、個人の方からあらゆる支援の申し出を受けることがあります。特に多いのが、以下の3種類です。

①感銘を受けた本やぬいぐるみ、古着など、使い古しのものの寄付

②オンライン教材や、タブレットなどの高度のツールの提供

③1日のイベントやワークショップの実施や、1~2か月限定の学習支援

3keysではそのような寄付やイベントと子どもたちをつなぐためのあっせんも行っていますが、基本的に上記のものは支援のミスマッチが起こりやすかったり、提供数に対して希望数が少なかったりすることが多いのです。

図1は3keysの支援対象である、児童養護施設で外部にどのような支援を求めているか、2011年に調査されたものです。

勉強サポートや、マンパワーの増強など、日常的な支援や継続的な人手を介した支援のニーズは非常に高いのに対して、プレゼントや本、イベント実施などの非日常的な支援はほとんど求められていないことがわかります。

児童養護施設に聞いた外部から欲しい支援

児童養護施設の過酷な労働環境

まず前提として、子どもたちが保護されて行く児童養護施設等は、他の福祉や教育現場と同様、子どもの人数に対して大人の数は少なく、労働環境もかなり厳しいです。

具体的には児童養護施設の場合、大人一人で5.5人の子どもたちの親代りとなり24時間体制で運営されています。

24時間勤務はできないため3人で3交代制となっていますが、1人親が6人近くの子どもを育てている状況と変わりません。

それに加えて1人の子どもの病院の付き添いや、学校で3者面談の付き添いが入ると、残りの子どもたちを見るために別の人が残業をすることになったりもします。

18歳を超えて施設を出た子どもたちとも継続的に連絡を取り合い、トラブルがないかも確認しているので実質は10人以上の子どもたちのことを常に頭の中で把握していなくてはいけないという、とても厳しい環境です。基本的には日常的なケアを行うのに手いっぱいな状況であることが前提です。

そんな中でなぜ①~③の支援にミスマッチが起きているのかについて、今回はまず①の使い古しの物や思い出の品の寄付について紹介します。

最初に断わっておきたいのは、このミスマッチについては決して支援をしたい側だけの責任ではないと思っています。

現場が現状を適切に伝えていないことや、NPOや支援現場が本当はいらないものも相手を傷つけないように受け入れすぎてしまった結果なのかもしれません。

しかし、日常的なケアで圧迫している支援現場にとって、不要なものを受け入れ、必要なものとそうでないものをわけ、不要なものを処分したり、在庫を抱えたりするのも実は大変な作業なのです。

そうでなくても少ない時間を、より子どもたちへの愛情や支援に回してほしいと思う気持ちが強く、誰かしらがこのミスマッチの現状を伝えないといけないのではと思い、この記事を書くに至りました。

また地域や施設によってはニーズの差も多少あると思います。私たちが見ているのは主に東京を中心とした都市部で、都市部は支援を行い人も地方に比べたら多く、地方に行くと状況は変わる可能性もあります。

日本では日常的に必要な物や学費などは保障されている

ランドセルの少女

3年ほど前にブームになったタイガーマスク現象があります。児童養護施設等に匿名でランドセルが全国各地で贈られた現象です。

そのブームは年々少なくなっていますが、今年もタイガーマスク現象が起きたとニュースで見ることが今でも時々あります。実は一部支援現場では「ありがた迷惑」と言われたこともあったり、「社会と現場でこれだけ認識の違いがあるのか改めて実感した」という声もあがりました。

小学校1年生が何人もいるわけではない中でランドセルを換金して他に必要なお金にあてたというケースもいくつかの施設で聞いたりもしました。似たようなエピソードで震災支援の現場で聞いた話があり、1万足以上の靴下が送られたが使い道がなく、在庫を抱えられないので寄付先を探しているとのことでした。

まずおさえるべき前提の一つ目は、そもそも日本では最低限の衣食住が危ぶまれることは、生活保護を受けたり、行政の支援を受けるところまでたどり着けば、基本的には保障されます。

途上国のようにまだ行政の制度すら整備されていなくて、栄養失調でおなかが膨れている子どもがたくさんいるという状況ではありません。

児童養護施設で暮らしている子どもたちは基本的に日常的に必要な物や学費などは保障されており、ランドセルなど学校に行くために必要な費用はそこから捻出されています。

施設で暮らしていなくても就学援助という制度があり基本的には学用品が購入できないほど困窮している場合には社会保障で補うことができます。

小学生ならば1,000円程度、高校生は5,000円程度の月々のお小遣いも支給されています。それくらい当たり前だが途上国に比べたら先進国である日本の社会保障は整備されているのです。

日本がどれだけ先進国で最低保障として保障されるものが途上国とは大きく異なることがまずあまり知られていません。

むしろ子どもたちは他の子どもたちと同じように学校に通っていて、生活をしているので、誰か知らない人から贈られたものを喜んで使う子どもは小学生以上になると少ないです。

施設からは「もらい癖がついたり、自分はかわいそうな子どもだと必要以上に思ってほしくないので、色んなものを与えすぎないように調整している」という方針を持っている施設もあります。

そういう福祉や社会保障の前提の違いがまずひとつおさえるべきポイントです。

ランドセルの寄付も、最初の発起人は施設で実際に育った人だと言っていたが、現在の保障内容に比べたら昔はさらに整っていなかったのでそのような誤解が起きたのかもしれません。

本当に必要な支援をするにはコストがかかる

もう一つは顔の見えない相手にぴったり合う支援はとてもコストがかかるということです。

地域社会があり、「隣の家のはな子ちゃんが来年小学生に上がるからランドセルがそろそろ必要で、うちのみち子ちゃんと仲もいいからランドセルをおさがりであげようかな」と具体的に相手のことが想像できて、本当に喜ばれるかどうかを検討できる時代ではないのです。

それに最低限の水準が上がりすぎており、みんな必要なものはある程度は自分で購入できるようになっているのが当たり前な中、恋人や家族の誕生日プレゼントですら相手が本当にほしいと思うものをあげることは難しいのが今の社会です。

ましてや顔も見えない子どもたちで、日ごろどのような生活をしていて、学校の友達はどのようなことを当たり前としているのかもわからない中で、子どもが本当に喜ぶ、もしくは役に立つ物品の支援はなかなか難しいだろうという前提にたった方が良いです。

昔の顔の見える関係性の中で成り立っていた、おすそわけとは少し前提が違うのです。

3keysで”Book For Kids” という古本を換金して学習支援費用に充てる仕組みをBookOffと連携して作ったのは、施設現場で抱えられる古本の数には限りがあったり、仕分ける手間がなく要望が少なかったのに対して、古本の寄付数が多かったので、より有効に活用したいという思いから用意した支援の仕組みです。

また、寄付をしたい人と施設をつなぐ機能を用意したのも、寄付の要望があった際に施設のニーズを一軒一軒問い合わせていくのはとてもコストがかかる作業で、少ない人数で運営しているNPOとしてはとても厳しく、かといって善意や思いをなるべく無駄にしたくないという思いからです。

成蹊大学の学生さんが3keysに寄付する古本を大学周辺で募集している様子。ダンボール80冊分ほど集まった(成蹊大学の学生さんが3keysに寄付する古本を大学周辺で募集している様子。ダンボール80冊分ほど集まった)

最低限の保障であり、低い水準で暮らしている

ただ誤解を招かないように補足をすると、最低限のお金は保障されているものの、一般的な水準に比べたら、(福祉だと当然という考え方もありますが)低い水準で暮らしているのは確かです。

学校の友達が手に入れているものと比べて劣等感を感じている子どももいるだろうし、それによって自信を失っているケースもあるでしょう。

予算も最低限しか保障されない中で、支援現場でも本当はやってあげたいけど、できていないことも山ほどあると思います。

言いたいことは子どもに本当に役に立つ支援は存在するけど、各施設の方針や子どもたちの現状・年齢・性格によって異なるし、そこにぴったり合った支援を行うのはとても大変な作業であるということです。

社会は確実に変化しており、昔は通用していた前提や、本の中で読んだことのあるストーリーは現実的には適用されなくなってもきています。

ただ毎回そのようなことを考えることは難しいので、やはり子どもたちの近くで見ている人の声を聞いたうえで支援ができるようにすることが最もありがたがられる支援だと感じています。

Author:森山誉恵
認定NPO法人3keys代表理事。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事。東京都の「共助社会づくりを進めるための検討会」委員。慶應義塾大学法学部卒。大学時代、塾講師や家庭教師の経験等から教育格差の現状を知り、児童養護施設で学習ボランティアを開始。在学中、大学生を 中心とした学生団体3keysを設立。2011年5月に内閣府の雇用創出のための支援金を基に内閣府の認証の元、NPO法人化し、代表理事に就任。同年社会貢献者表彰。現在は現場の支援に加え現場から見える格差や貧困の現状の発信にも力を入れている。

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