NPO法人ダイバーシティ工房(以下、ダイバーシティ工房)が運営している民間シェルター「Le Phare」(以下、ルファール)では、10代の頃から頼れる先もなく、長い間、一人でギリギリの状態で踏ん張ってきた多くの若年女性とつながってきました。
ある利用者の方は、子どもの頃から家庭内不和が絶えず、自宅が安心できる場ではない状況で育ちました。学校に安定して通うことが難しい時期もあったようです。やがて高校を中退し、家を出るも生活に困窮するようになりました。そして、いくつかの支援機関と関わる中でルファールを知り、入居に至りました。
コロナ禍の影響も重なってアルバイトによる収入が減る、断たれることで元々困窮していた状況がさらに悪化したということも、相談を受ける中でよく聞く状況です。
そんな厳しい状況を経験してルファールに繋がった女性たちは、入居してすぐに体調を崩してしまうことがあります。
ルファールに辿り着く前はなんとか一日を乗り越えるという毎日が続いていたのでしょう。ルファールでの生活が始まり少し安心できたところで、張り詰めていた緊張の糸が切れ、それまでのストレスや疲れが一気に出てくることがあるのです。
「ルファール」での暮らしとは?
ルファールでの生活の中では、職員は今後の生活に必要な手続きのために役所に同行したり、就労、住居探しなど次のステップのために必要なことを情報収集したりしながら、本人が納得する選択ができるようサポートをしていきます。
しかし入居して間もない頃は体調不良で生活リズムも整わず、昼夜逆転の生活になることも珍しくありません。そんなとき職員は無理に起こしたり行動を促したりはせず、まずは心身の疲弊が和らいでいくのを待ちます。必要な場合には適切な医療機関にかかれるようサポートをします。
それぞれのタイミングで職員と関わったり話したりしたいと思うまでは、日々の生活で彼女たちからこぼれ出てくる言葉や小さな反応を一つずつ逃さずに受け止めるように心がけています。
(民間シェルター「Le Phare」:利用者さんの誕生日を一緒にお祝い)
例えば、自室からたまに出てきた際「ドアが閉まる音がこわい」と伝えられたときには音について配慮をしたり、何気なくでも「〇〇が食べたい」という話が出ればその日の夕飯のメニューにしたりなど小さなやり取りを一つずつ積み重ねます。
食事をとった形跡がある、お皿が洗って片付けてある、洗濯している、コンビニに行った、そんな些細なことからも少しずつの変化や回復を感じ取るようにしています。
入居後すぐに心身の体調を崩し、自室に籠っていたある利用者の方も、ある時から職員の誘いを受け、一緒に買い物や散歩に出かけるようになりました。
こうして日々をともに過ごす中で関係性が構築されていくと、徐々に女性たちは自分自身のことについて話をしたり、この先についての不安や思いを口にしたりするようになります。そういった状態になると、クリアしたい課題をより一緒に整理していくことができるようにもなります。
また職員との関係だけでなく、利用者同士で関係性が生まれることもあります。通所利用の高校生が年上の利用者のことを「お姉さん」と呼び、年上の方も高校生に優しくアドバイスをするといったやりとりも見られて、お互いに影響しあえる場が生まれています。
「ルファール」で生活する中での変化とは?
入居者の変化を見ていると、彼女たちが「本来持っていた力」を取り戻したのだと実感させられることがよくあります。
Bさんもそんな1人です。彼女は入居当初は昼夜逆転した生活を送り、職員に対しても少し警戒しつつ多くを語らない状況が続いていました。散歩に誘ったり一緒に料理を作ったりする中で徐々に会話が増え、3か月ほど過ぎた頃に自分が置かれてきた環境や自分自身のことについて話してくれるようになりました。
その頃、失業関連の手続きのためハローワークに通っていたBさんは、事務職に就きたいという希望を持ち始めていました。ハローワークの勧めもあり、必要なスキルを身に着けられるようにまずはパソコン講座に通うことを決心しました。
生活リズムが昼夜逆転していたこともあり、きちんと通えるか職員には心配もありましたが、Bさん本人は「私は用事があれば起きられる」と言い、その言葉通り毎回早起きし、自分で昼食用のお弁当も作り通い続けました。
継続して通い切ったことは、Bさんの大きな自信になりました。講座終了後は就職に向けて面接の練習や準備を進め、最終的には就労先を決め、独り立ちしていきました。
Bさんの場合、前向きな気持ちになり始めてから行動に移すまで比較的順調にいきましたが、必ずしも全ての利用者の方がそうであるわけではありません。
(民間シェルター「Le Phare」:クリスマスの際に利用者と一緒に食事会を開催)
彼女たちが行動し始めるまでのステップの中で、一見ネガティブに見えるような出来事や思いを経験することもあります。起き上がるのがやっとという生活からようやく回復をした頃に、再び「外に出て人に会いたくない」という気持ちが出てきた利用者もいました。
短中期シェルターという特徴上、その限られた期間の中で入居者の状況が思うように変化していくわけではありません。一気に変化しなくとも、焦らずに気持ちを受け止めて、少しずつ状況を前に進めていく関わりが必要となっています。
社会で孤立しないための仕組みをどのように作るか?
誰にも頼れないまま成人した若年女性へのサポート付きシェルターや居場所はまだ不足していると感じています。ルファールへの問い合わせに対して空きがないことも少なくありません。
シェルターで暮らす彼女たちがどんな半生を生き抜いてきたのかを聞くたびに、もっと早いタイミングでサポートにつながることができたら、現状はもう少し違っていたのではないかと思うことも多くあります。
安心安全な場所を提供するということはもちろんですが、さらに必要だと感じているのは、困難な状況に置かれている若年女性たちが社会の中で孤立しない仕組みをどのように作っていくかということです。
ルファールでは退所した利用者に対しては定期的に連絡を取ったり、必要に応じて食料支援を行ったりしていますが、地域の中で繋がりができたり、就労先で理解を得られたりするなど、社会全体での見守りも必要です。
1人ひとりの利用者と丁寧に関わりながら、社会的な繋がりが薄い方たちへはどういうサポートが必要なのか、彼女たちがまた困ったときに繋がるためにどうすればいいのか、引き続き試行錯誤していきたいと思っています。
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。