社会的養護就職・就労政治・制度

引きこもり、ニート、うつ病…社会的困難を抱える「若者」を総合的に支援する政策が、今求められている

ビッグイシュー・オンライン編集部より:2014年12月14日(日)、東京・新宿の損害保険ジャパン日本興亜本社ビルにて、「若者政策提案書・案」の発表シンポジウムが開催され、若者支援団体のスタッフや若者問題に関心を寄せる方など、100人以上が集まりました。当日の様子を一部紹介します。

10年以上ホームレス支援をやり続けて気付いた「若者支援」の必要性(挨拶:佐野章二/ビッグイシュー基金理事長)

佐野:この若者政策提案・検討委員会を始める前、2014年の3月に『社会的不利・困難を抱える若者応援プログラム集』という冊子をつくった。そのときの委員会の委員長が宮本みち子先生。

プログラム集の制作と同時に、若者支援に関わる団体と一緒に研究集会も開いたが、その場で宮本先生が「市民と若者支援にたずさわっている者が、長い目でこれからの若者応援をどうしていくか考えないといけない。政策提言も必要である」と話された。その言葉から始まったのが若者政策提案・検討委員会だった。

佐野章二/ビッグイシュー基金理事長

ビッグイシューでは、2007年3月頃から20、30代の販売希望者が増えてきた。2008年9月のリーマンショック以降、その数はさらに増えた。NPO法人のビッグイシュー基金だけでなく、有限会社ビッグイシュー日本の活動まで含めると、私たちはホームレス支援を11年間やってきたが、若い人への対応となるとどうしていいかわからない。

これまでは中高年の販売者がほとんどで、彼らはそれまでの肉体をかけてやってきた仕事に誇りを持っている。ところが若くてホームレス状態になった人は、すぐに「自分が悪い」と思ってしまう。これまでの販売者とはまったく違っていた。だから、一人ひとりに個別対応をしないといけなかった。

「若年化したホームレス」対策をするのではなくて、引きこもりやニート、心の病などで社会的不利や困難を抱える若者を応援する動きが必要。そこから最悪の場合にはホームレス状態になってしまう若者もいる。

だから、若者全体をどうしていくか考えないと、我々の仕事は成り立たない。この『若者政策提案書・案』は、現時点では「案」。今日のシンポジウムでの発言や提案を含めて、あらためて『若者政策提言書』を作ることができればいい。2015年のはじめには発行して、5,000部ほどを配りたいと思っている。(※2015年2月15日に『若者政策提案書』を発行しました。)

文科省、厚労省それぞれの若者政策はあるが、日本全体の、ましてや世界につながるような若者政策はない。これを、市民が議論して、当事者の実感に近いものをつくっていくチャンスだととらえたい。

問題提起「いま、なぜ若者政策が必要か?」(宮本みち子委員長/放送大学副学長)

宮本みち子委員長/放送大学副学長

宮本:一昨年、そして去年と、ビッグイシュー基金と若者の問題でいろいろと仕事をしてきた。「若者支援」という言葉自体は新しく、2003年には若者自立挑戦プランが4省庁大臣による1回の会議を経て決まった。仕事につけない若者が急増する時代に対して、国が責任をもってやらなければいけないという段階に入った。

若者支援

この10年、若者支援はある種〝流行″のように扱われてきた。

リーマンショックの時期には、若者の首切りがたくさん出たので盛り上がる。あるいは、長期不況の中で大学生の就職が厳しくなるとこの言葉が大流行する。そんな風に、この10年で3回くらい大きな波があったが、また2年くらいたつと元気がなくなっていく。

一番の理由は、権利として若者の福祉が確立していないこと。だから、財政が厳しい中で若者支援にお金を割くのか、それとも次に待っている別のいろいろな課題に乗り換えるのか、とこういう話になる。よく10年もったとも思う。

今年は労働市場の状況がよくなってきて、若い人の就職がよくなっていると言われる。こうなると若者支援は後退する。

しかし、実際は就職がよくなったというのは一部の新卒者にだけいえることで、いい就職ができるような大学生は飛ぶように売れるが、その流れに乗れない若者は依然として厳しい状態のまま。あるいは就職できても条件が悪いという状況。また、すでに非正規で働く若者の状況は改善されない。

全国160ヶ所まで広がった地域若者サポートステーションは、ニート状態にある若者支援ということで始まったものだが、昨秋の行政の見直し作業のなかで、無駄である、成果が上がってないということで、廃止寸前までいった。なので、本日最初に話したいことは、「若者支援は流行ではないのだ」ということ。これを皆さまと確認したい。

若者支援や若者政策とは何か。

若者支援や若者政策とは何か。大きく整理するとこうなる。

若者政策

1)大人の世界に踏み出し、生活の基盤を築き始める時期の若者を守り育てることを、「社会理念」として打ち立てること。短期、中期、長期とあるにしても、社会理念として打ち立てるということは、長期にわたって、若者が生活基盤を作り、社会のメンバーとして成長し生きていくことができるようになることを、みんなで共有するということである。

2)どのような状況にあっても、若者が将来に向かって成長できる環境であること。この見通しが、すべての若者に見えていることが大事だと思う。困難に陥ってもセーフティネットがちゃんと張られていて、間違っても路頭に迷うことがない。一度つまずいても立ち上がることができると実感できる社会を目指すということ。

3)長期的な視野に立って、若者への社会的な投資をしていくことが必要。少子高齢化の中で重要な労働力として必要だという狭い意味で考えるのではなく、社会全体の広い意味での担い手であることが重要。若者に社会投資をしないときにどうなるのか。仕事につけない若者が急増するだけでなく、この社会全体が格差の非常に大きい社会になり、その状況を放置することになる。生活基盤を築くことのできなかった若者たちがどんなに多くても、「あの人たちはああいう人なのだ」、「努力が足りない」「運が悪かった」ということで誰も関心を持たない社会になってしまう。これでは若者だけでなく、高齢者にも失業者にも障害者にも冷たい社会になることを意味している。

4)教育、労働、福祉、保健医療、文化などがそれぞれ若者に関する施策を行っているが、行政組織は国も地方自治体も分野がバラバラになっている。それを「若者政策」として取りまとめようと思うと、これがなかなか厄介。どこにどう散らばっているか、十分には理解できない。「これに関してはあちらに聞いてくれ」となっている。それでも、この10年の間に、若者に関して分野横断的でトータルな政策が必要であるというコンセプトはある程度共有されてきた。だから、進歩はしている。

なぜ若者政策が必要なのかを、『若者政策提案書・案』にも書いているが、日本型の青年期モデルは崩壊している。これは、工業化時代、高度経済成長時代につくり出されたモデル。学校教育と会社組織が太いレールでつながっていて、学校を卒業したら会社にストレートに入っていく。失業率が低くて結婚する率の非常に高い時代特有の青年期モデルだった。でも、この10年、15年の間に起こった若者の問題を踏まえて、工業化時代の日本型青年期モデルの崩壊に対応した新しい仕組みが必要。

内閣府で2年前に子ども・若者の社会的排除問題に関する研究が1年間行われた。若者の社会的排除は、生まれてから大人になるまでの、かなり長期にわたって作りだされるものだ。いろいろな形で子ども・若者の問題に関わる方々がそれぞれのケースをもちよって、詳細な分析を行って類型にまとめたものが下記の図になる。

社会的排除のプロセス:3つのパターン

社会的排除のプロセス『社会的排除にいたるプロセス~若年ケース・スタディから見る排除の過程~』平成24年9月社会的排除リスク調査チーム、内閣官房社会的包摂推進室/内閣政策統括官<経済社会システム担当>より

第Ⅰ類型は、知的障害や発達障害など本人のもつ生きづらさが原因で、最も早い時期に問題が表出する。そのことが若者期にもそのまま続いていく。第Ⅱ類型は、子ども期の貧困や児童虐待などの家庭環境が問題で、子ども期に表出し、若者期まで続いていく。第Ⅲ類型は、いじめや不安定就労など、学校や職場の環境の問題で、比較的遅い時期に表出する。

3つの類型による違いはあるものの、幼少期、学校期、社会に出てから、と各々の段階で生じた問題が若者期に合流する。そういう意味での総合政策が必要となる。

「若者の政策とは何か」をまとめると、

1)若者の生活を成り立たせるすべての要素が対象になる。
→行政組織は異なっていても、それらを集約すればすべての若者が対象になることが重要。

2)相互に関連する要素から成り立つ、総合的な政策である。
→2003年に若者自立挑戦プランが出たときには「雇用問題」として出てきた。しかしその問題を深掘りすればするほど、雇用問題は様々な要素がいろいろな形でかみ合っている。主要な課題が雇用問題でない若者もたくさんいる。

3)若者の生活条件の向上を目指すものでなければならない。
→親はどうであれ社会事情がどうであれ、若者の生活条件向上を目指す政策体系が必要であり、それを若者政策という。

4)異なる部門間の協力体制によって改善に取り組む体制づくりをする必要がある。
→この10年間にいろいろな施策が登場したが、異なる部門間の連携体制をどれだけ作れたのか。これをチェックしてみる必要がある。

これから、4人の委員の方たちに説明をしてもらうが、私たちは、若者政策を時間の推移に伴って4つの柱で考えてみた。

脆弱な若者を支える法制度

若者政策

1)学校教育の改革とオルタナティブな学びの場を作ること。戦後確立した近代的な学校教育制度が今の多様で多面的な子ども・若者の実態に対して対応できていない。とりわけいろいろな問題を抱えている子ども・若者が、そこから巣立っていく場として多くの問題を抱えている。

2)若者が生きていく生活基盤づくり。ある若者は親に守られ、学校に守られ、やがて社会に巣立っていき、生活基盤をつくっていくわけだが、いろいろな理由があって、誰の支援も受けられない若者は、生きていくための生活基盤をどうつくっていくか。これに関して、日本では経済給付の問題は大きい。また、教育と職業訓練の保障の問題。とりわけ職業訓練の保障は、若者に関してはまったく権利として確立していない。この間、いろいろな国の施策があったが、いかなる状態であっても職業訓練を受けて働く条件を見つけることが、権利として確立していない。160ヶ所まで広がったサポステをばっさりと切るという発想は、職業訓練をすべての若者が、その個々の状況に合わせて、いつでもどこでも利用できるという状況になっていないことと表裏一体だと思う。

3)若者の社会参加を支える仕組みづくり。社会参加は広い意味でいっている。社会のどこかに居場所があり、人とつながり、社会的な関係性のなかにいることができる仕組みづくりということ。

4)働く場をつくること、多様な働き方を増やすということ。ややもすると、国の若者労働施策は、「働けること」を大前提としている。でも、人によって働くことへの距離は違う。多様なニーズをくみとったうえで、働く場をつくっていくこと、働くための支援が必要になる。10年にわたり、若者支援の取り組みが広がった。民間ベースでやってきて、そこで得たノウハウは貴重なものだ。また、対象となる若者の状態が、10年前に比べると非常によくみえるようになってきている。それをどのようにして若者政策として確立するのかということがある。

4つの柱を整理したが、若者を支える法制度について話をする。

たとえば、サポステをいきなり廃止すると話が出た。これは単年度事業なのでいつでも廃止が可能だということ。「来年は予算を出さない」と言えば160団体は事業ができなくなる。これが高齢者だと、介護保険制度は法で守られているので、いきなりはやめられない。障害者の分野もかなりの程度は法制度が確立している。けれども、若者の場合、法制度がほとんどない。

若者を支える法制度

勤労青少年福祉法は、1970年に確立して現在まで動いているが、これも再検討して新しい時代の若者の労働法に変えていく必要があるということで、この数ヶ月ほど厚労省で議論をしている。うまくいけば来年1月の国会に提出するところまでなっている。

子ども若者育成支援推進法は、内閣府の管轄で制度として確立した。これをもとにして全国に包括的な若者の支援体制作るということで努力は続いている。

現時点では県、基礎自治体を含めて、71の自治体が子ども若者支援協議会をつくった。まだ71しかない。横断的組織を作ることがどんなに大変かというのがわかる。この法律は来年で4年目。5年に1度見直し作業をするが、その前段階の検討作業が内閣府の委員会で今年行われた。これをよりよいものに変えていくことが求められている。

それから、生活困窮者自立支援法が来年4月から始まる。いま準備段階で、全国のすべての基礎自治体が取り組むことになっている。まだまだこれからたくさんの山坂を乗り越えないといけない。この中に若者の困窮者支援もしっかり入れることが重要。子どもの貧困対策法も大綱が秋にできている。本日も、子どもの貧困対策法を実のあるものにすることがテーマのひとつになると思う。

財政難の中で予算的な措置が十分とられない中で、どうやって意義のあるものにしていくのか。これらの法律は完全なものではなく、法律の精神を活かすのは私たちである。そして、それを改良していく不断の取り組みが必要だと考える。

そして最後に、若者の生活を保障する政策の重点を少しまとめてみた。ポイントだけ話すと「移行期の試行錯誤を認める」というのは、成年期へ移行、大人になるための移行のプロセスという意味である。

いま、その時期が非常に長くなり、日本だけでなく、すべての先進工業国のなかで成人期への移行は長期化して、きわめてリスクのあるものになっている。そういわれてから、すでに10年、20年がたっている。この移行期の「試行錯誤」を若者たちに認めていく。試行錯誤ができて、つまずいたらセーフティネットもなしに落ちていくような社会ではないものにしていく。それは大変重要。

若者を支援する政策

それから、「失業と離転職が『負の経験』とならない社会体制をつくること」も必要。これは若者だけでなく、すべての年齢の働く人に共通すること。「積極的労働市場政策と仕事の多様化」も挙げさせていただいたが、働けるための支援サービスを豊富にしていく。

そして社会の一員となるための仕事というものを重視する。そのためには「仕事を多様化する」必要があるということも付け加えたい。最後に、「若者の社会保障制度を構築する必要がある」ということだ。中身に関しては4人の委員からのちほど出てくるかと思う。

時間が限られているので、雑駁な説明であったが、今日はいろいろとご意見をいただき、この提案書を改良していきたいと思っている。本日はよろしくお願いいたします。

Author:ビッグイシュー・オンライン
ビッグイシューは市民が市民自身で仕事、「働く場」をつくる試みです。2003年9月、質の高い雑誌をつくりホームレスの人の独占販売事業とすることで、ホームレス問題の解決に挑戦しました。ホームレスの人の救済(チャリティ)ではなく、仕事を提供し自立を応援する事業です。ビッグイシューの原型は1991年にロンドンで生まれました。
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