学校教員

「やりがい」だけの教育・学習支援業から脱却できるか?-以前よりも労働時間が増加し、疲労蓄積度も高水準

学校教員・教師

近年、国際調査から「世界一多忙な日本の先生」として報じられ、その労働環境の改善が求められています。一方で「人手不足や業務過多なのはどこも同じで、先生だけが忙しいわけじゃない」という意見もあります。日本の他の業種の仕事と比べてみた時に、「教育・学習支援業」の労働環境は、どのような状態になっているのでしょうか?

「過労死等防止対策白書」から見る「教育・学習支援業」の現状

政府は、10月7日に過労死等防止対策推進法に基づく初の「過労死等防止対策白書」を公表しました。この調査によれば、労働者1人当たりの年間総実労働時間は、平成2年の2,064時間から平成27年の1,734時間まで減少しています。

業種別の「月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合」を平成22年と平成27年で比較をすると、5年前に比べて多くの業種では、割合が下がっているのにも関わらず、「教育・学習支援業」では、割合が上がっています。

また、平成27年において、「運輸業・郵便業」18.3%、「建設業」11.5%、「教育・学習支援業」11.2%の順に、雇用者の割合が高い状況になっています。(※業種のカテゴリは、総務省「就業構造基本調査」に基づくものであり、「教育・学習支援業」=学校教員ではなく、教育関係の民間企業も含めた数値です)

業種別の「月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合」を平成22年と平成27年で比較

業種別の「正社員(フルタイム)の平均的な1週間当たりの残業時間」から「運輸業・郵便業」(9.3 時間)、「教育・学習支援業」(9.2 時間)、「建設業」(8.6 時間)の順に多くなっている。

また、その残業時間が20時間以上と回答した労働者の割合は、「運輸業・郵便業」(13.7%)、「建設業」(12.9%)、「教育・学習支援業」(12.8%)の順に多くなっています。別の国際調査(OECD国際教員指導環境調査)でも1週間の勤務時間は加盟国34の国平均の38.3時間に対し、日本は53.9時間で最長となっています。

業種別の「正社員(フルタイム)の平均的な1週間当たりの残業時間」

「所定外労働(残業)が発生する理由」については、教育・学習支援業では「業務量が多いため」、「仕事の繁閑の差が大きいため」、「予定外の仕事が突発的に発生するため」の3点が特に理由として多く挙げられています。様々な業種を含めての調査のため、大雑把な理由となってしまっていますが、以前の記事では、「教育・学習支援業」のより詳細な残業の理由を確認することができます。

同調査では、1か月間の勤務の状況や自覚症状に関する質問により判定した「疲労の蓄積度」(厚生労働省が平成16年に公表した「労働者の疲労蓄積度自己チェックリスト」により判定したもの)についても調べています。「疲労の蓄積度が『高い』、『非常に高い』と判定される者の割合」では、「教育・学習支援業」は38.4%とされ、「宿泊業・飲食サービス業」の40.3%に次ぐ高い割合を示しています。

1か月間の勤務の状況や自覚症状に関する質問により判定した「疲労の蓄積度」

「教育・学習支援業」が日本の他の業種と比べてみても労働時間が長く、疲労の蓄積度が高いことは、上記の「過労死等防止対策白書」から見ても明らかです。

2015年11月に厚生労働省が発表したが業種別の「新卒者離職率」でも「飲食業・宿泊業界」(離職率52.3%)に次いで、「教育・学習支援業界」(離職率48.8%)の離職率が高くなっています。労働環境が厳しい状況の中では、この離職率が改善していくことは難しいと考えます。

東京都では、2016年6月の副校長の募集に対して、定員よりも120人不足している現状も報じられています。このままだと新しく「教育・学習支援業界」を志す若者も減るだけでなく、管理職の希望者も減少していく可能性が高いと考えられます。

既存の職場環境だけでなく、採用・育成システムの改善も必要

文部科学省では、平成27年7月に「学校現場における業務改善のためのガイドライン~子供と向き合う時間の確保を目指して」を公表し、業務の効率化を促しています。他の業界の企業でも業務効率化を目指し、IT活用や業務プロセスの見直し、人事制度の導入改善など様々な手法を用いながら取り組んでおり、「教育・学習支援業界」にも応用できる点は多くあります。

「教育・学習支援業界」は、対人サービスの側面としての職務領域が不明確であり、顧客の要望によって広がりがちです。今一度、目的を明確化したうえで、止めるべきことを決め、担うべき職務を絞り込む必要があると思います。

既存の職場環境の改善を進める一方で、「教育・学習支援業」の採用・育成システムも改善していく必要があります。この点は、明らかに議論が遅れています。

学校教員であれば、教育職員免許取得に必要な教職課程が実際の現場に沿った形で変わっていなければなりません。時代に応じて、教育者に求められる内容は変わってきます。新卒採用に偏った形ではなく、企業経験のある方を中途採用者をより積極的に採用していくことも一助となります。

一般的には、新しく仕事に就いた後に、一定の研修期間が設けられ、同期とも交流を深めながら仕事をスタートさせていきます。しかしながら、教員は、入職後すぐに現場で責任ある立場を任されるようになります。中堅の職員が少ない中では、十分なフォローを行うことも難しい状況です。

以前にも増して多様な業務が求められている中では、スタート地点から求められるハードルは高くなっています。実際に働く教育現場の労働環境をよく理解したうえで、できる限り即戦力となれる力が身につく事前の教育カリキュラムでなければ、「教育・学習支援業」を志す若者個人にとっても、受け入れる側の教育の現場にとっても不利益な結果となります。

10月5日は、教師への感謝を示す日としてユネスコが制定している「世界教師の日」です。「教育・学習支援業」で働くことが人の成長に携わる「やりがい」だけでなく、それに伴った労働環境を整えていくことが急務です。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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