古今東西問わず子どもを伸ばすための様々な教育方法が紹介されていますが、多くの方法に共通する概念に「子どもを褒めて伸ばす」という考え方があります。育児に関する本でも必ずといっていいほど「子どもを褒めよう」という言葉が出てきます。
確かに大人でも褒められて悪い気になる人はあまりいませんし、子どもを褒めること自体に異論を唱える人は少ないと思います。しかしながら、当然としてなんでもかんでも褒めれば良いということではありませんし、どのような褒め方が子どもの成長にとって効果的なのでしょうか?
褒め方で変わる子どもの考え方①
近年、米シカゴ大学の研究チームがある興味深い研究を行なっています。この研究には、様々な人種や民族、経済的裕福度などが異なる方々が参加して行なわれました。親の褒め方を分類化し、子どものその後の成長にどのような影響を与えていたのかを調べています。
具体的には、1~3歳までの幼児とその親50組の日常を一定期間ビデオで記録し、親が子どもを褒める方法を観察しました。そして、5年後、実験に参加した6~8歳になった子どもたちがどのように成長したのか調査しました。
<褒め方の種類と結果>
①過程を褒める言葉(Process praise):結果に関わらず、物事に取り組んだことの過程・努力について褒める言葉。(例.You worked really hard:よく頑張ったね! )
チャレンジが必要となる難しい課題に対しても、粘り強く取り組むようになった。また、困難に直面してもより柔軟に解決方法を考え出すことができ、努力によって自分自身をより良く変えることができるという考えを持っていた。
②個人を褒める言葉(Personal praise):子ども自身の特性や性格を褒める言葉。(例.You’re a very smart girl:とても賢い子ね!)
③一般的な褒め言葉(General comments):’Great’(例.すごい!)
チャレンジが必要となる難しい課題に対して、粘り強く取り組めなかった。また、個人を褒める言葉をよく用いる親の子どもは、チャレンジ精神に欠け、「頑張っても変わらない」と考える傾向がみられた。
個人の素養を褒めることは、「このままで良い」ということを暗に伝えてしまっていることになるのかもしれません。努力することそのものを褒められることによって、子ども自身がチャレンジしたり、一生懸命に取り組むことが大好きになるのは想像に難くないと思います。
褒め方で変わる子どもの考え方②
問題がむずかしいとやりたがらない子、むずかしい問題ほど目を輝かせる子。一度の失敗で、もうダメだと落ちこむ人、失敗すると、何がいけなかったのか考える人。このちがいはどこからくるのか?
米・スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)の研究では、思春期初期の子どもたち数百人を対象にある実験を行なっています。難しい知能検査の問題を解いてもらい、終わった後に子どもへ2種類の褒め言葉を別々にかけました。
その後、新しい問題を見せて、新しい問題に挑戦するか、同じ問題をもう一度解くのか、どちらかを選ばせるという実験を行いました。(①)また、さらに難しい課題をさらに課せてどのように課題に取り組むかを調べました。(②)
<褒め方の種類と結果>
・「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頭がいいのね。」
(失敗回避型)
①頭の良さをほめたグループは、新しい問題を避け、同じ問題を解こうとする傾向が強くなった。
②難問を解くことにフラストレーションを感じ、自分はちっとも頭が良くない、こんな問題を解いても楽しくない、と思うようになった。そして、自分は頭が悪いのだと考えるようになった。
・「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頑張ったのね。」
(チャレンジ型)
①努力をほめられたグループは、新しい問題に取り組むこと選択をする者が多かった。
②難問をだされてもいやになったりせず、むしろ、難しい問題の方が面白いと答える子どもがおおかった。なかなか解けない問題があったとしても、イライラしたりせず、「もっと頑張らなくっちゃ」と考えていた。
参照: Mindset: How You Can Fulfill Your Potential
この研究では、一つ目の研究と同じく、個人の素養を褒めることがその評価を維持しようとチャレンジをしなくなったり、評価そのものを落としてしまう中で自信を喪失させ、自分自身へのマイナスの印象を持つことにもつながっていることがわかる。
「やれば出来る!」と思えるようになる
褒めるという行為は、一つの報酬であるということを意識しなければなりません。その報酬は、何によって与えられているのかということがとても重量です。
テストの結果によって報酬の多い少ないが決まってしまうならば、できる限り報酬が少なくならないようにリスクを回避するような対応を取るのは当然のことかもしれません。
努力の量によって報酬の多い少ないが決まるならば、失敗を恐れることはないのでどんどんチャレンジをするようになると考えられます。
一回でそのようなことになるということではありませんが、積み重なったいく中で、そのような考え方が段々と強化され、思考が形成されてくるのではないでしょうか?
先述した研究に取り組んだキャロル・S・ドゥエックは、「自分の能力や知能に対する信念」(知能観/マインドセット)こそが、後続する学習のあり方、その後の人生のあり方を決めてしまうという説を展開しており、大きく二つに分類をしています。
・「Fixed Mindset」(こちこちマインドセット/固定的知能観)
自分の能力は固定的で、もう変わらないと「信じている人」は、努力を無駄とみなし、自分が他人からどう評価されるかを気にして、新しいことを学ぶことから逃げてしまう。
・「Growth Mindset」(しなやかマインドセット/拡張的知能観)
自分の能力は拡張的で変わりうると「信じている人」 は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると感じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する。
どちらのマインドを持った子どもの方が自分自身の人生を自ら切り拓いていくことができるようになるのかは容易にわかります。端的に言えば、前者は「やっても無駄」と思う人であり、後者は「やれば出来る」と思う人でしょう。
上記の二つの研究が示唆しているのは、「結果や素養を褒めるのではなく、過程や努力を褒める」ことが大切だということです。褒めることで子どもが伸びることは間違いのないことですが、どのような褒め方をするのかがその子の生涯に渡っての選択を決める大切な思考を形作っているということを忘れてなりません。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。