アウトリーチ

積極的な「アウトリーチ」で、非行を未然に防ぐ取組みとは?-被害者・加害者のどちらも生み出さないために

近年、医療や福祉などの分野を中心に、サポートを必要とする方が施設へ来所する受け身の支形式ではなく、支援者がサポートを必要とする方に対して、積極的に働きかけを行っていく支援形式が広がっています。

来所型の支援は、問題が生じた後に対処療法として役割が中心となりがちですが、支援者が積極的に働きかけを行っていく支援では、問題を未然に防ぐ予防的な役割を果たすこともできます。今回の記事では、「非行」の予防に焦点をあてて考えます。非行が起きる前にそれらを未然に防ぐための取り組みとしてはどんなものがあるでしょうか?

「アウトリーチ」で非行を未然に防ぐ

非行防止活動として、一般的には少年の深夜徘徊や喫煙等の行為を見かけた際に警察が行っている補導が挙げられます。また、学校や地域の方による見回り活動や防犯パトロール、それ以外にも街頭でなされる啓発活動も広い意味で含まれるでしょう。実はこれらの取り組みとは異なったやり方で非行防止活動に取り組んでいる団体があります。

NPO法人「全国こども福祉センター」が行っている夜の街頭活動の様子(NPO法人「全国こども福祉センター」が行っている夜の街頭活動の様子)

上の写真は主に名古屋で活動しているNPO法人「全国こども福祉センター」が毎週実施している夜の街頭活動の様子です。この活動は、夜の繁華街で中高生や大学生ボランティアが着ぐるみを着て、街ゆく人に非行防止を訴えているだけではありません。

実は、この活動のメインは学校や家庭に居場所をなくして、夜の繁華街にいる子どもにこちらから積極的に声をかけて、その子と関係性をつくり、団体や活動に興味を持ってもらい団体の輪に加わってもらうことで、そういった子どもたちの「居場所」を作るきっかけとしてこの活動を行っています。

この活動のように、まず対象とする人を出向いて発見し、その人たちに必要な働きかけを行っていく方法のことを「アウトリーチ」と呼んでいます。

「アウトリーチ」は、支援を受けたい人が相談窓口に来て初めて支援を開始する受け身な支援とは異なり、本来支援を必要とする人を見つけ、支援が届かない人にもそれを届ける方法です。福祉の現場などで相談窓口に来ることができない人に対して訪問支援を行うなどの形で取り入れられ始めているほかに、最近では、子どもの貧困対策として、東京都文京区と5つの非営利団体が共同で運営する「こども宅食」がはじまっています。

「アウトリーチ」は、非行防止の分野においても、効果的な取り組みとして重要な意味をもっています。しかし、実際にはアウトリーチを活用した取り組みはほとんど行われておらず、非行が起こった後の事後の取り組み(矯正教育、立ち直り支援など)しかないのが現状です。

非行を未然に防ぐことの重要性

非行を未然に防ぐことがなぜそれほど重要なのか、まず大きな理由の一つに、(これは至極当然のことですが、)事件を防ぐことで被害者・加害者の双方どちらも生み出さないことが挙げられます。

そして2つ目に、非行が起きる前にそういった可能性のある少年を見つけ、関わりを持つことは、その子の抱える問題の早期発見・解決に繋がるからです。

非行して保護観察や少年院送致となった少年の多くは、家庭や学校において様々な点で問題を抱えています。しかも、それらの問題が複雑に絡まり合っているため、立ち直り支援には、非常に困難が伴う上に、時間がかかる場合があります。

どの子も最初は「学校でいじめられた」、「勉強についていけなくなった」、「家に帰っても親は仕事で誰も面倒をみてくれる人がいない。」といった一つの理由がきっかけですが、それが少年の交友関係や生活習慣などに影響して次第に多くの問題を生み、簡単には修復不可能な段階まで進んでいきます。こうした観点から、非行の未然防止に取り組むことは重要な意味を持ちます。

「発見」と「介入」の難しさ

では、なぜこれほど非行を未然に防ぐことが重要であるにも関わらず、実際にはほとんど行われていないのか。それは対象となる子どもたちを「発見」し、そこに「介入」していく際にいくつか越えなければならないハードルが存在するからです。

まず、対象となる子どもを「発見」する上で、どういった子が非行をする可能性のある子か皆さんは想像することができますか。その子がどんな格好で、どこにいて、どんなこと、どんな生活をしているのか想像することはできるでしょうか。単に非行少年と言っても、そのあり方は多様で、ましてやそうなる前の初期段階でそういった可能性のある子を見つけるのは簡単ではありません。

次に仮に見つけることができた場合、その子にどう「介入」することで関係性を作り、働きかけることができるでしょうか。彼らは病気のような何か見える問題があって誰かに助けを求めているわけではありません。大人から必要な支援だからという理由で支援を提供されても彼らはそれを受け取ろうとはしないでしょう。

では、先ほど紹介した「全国こども福祉センター」は、どのようにそのハードルを越えているのか。そこには「第三の居場所」というヒントが隠されています。

第三の居場所の重要性

非行の可能性のある子どもがどんな子かを見極めるのは難しいですが、非行をする子の多くは「家庭」でも「学校」でも居場所を失い、自分の居場所をなくした結果、非行という一つの問題行動を引き起こしています。

そして、そういった子どもは学校や家庭以外に自分の「第三の居場所」を探しています。SNSなどの「ネット」に居場所を見出す子もいれば、「不良仲間」との繋がりに見出すもの、中にはどこにも居場所を見出すことができず家に引きこもる子もいるかもしれません。

「全国こども福祉センター」では、夜の繁華街やその付近にいる子どもたちに声をかけることで、学校にも家庭にも居場所をなくした子を少しでも多く発見し、彼らと関係を作り、団体を「第三の居場所」として彼らに提供しています。また、彼らが居場所として定着しやすいように、街頭活動だけでなくスポーツなどのレク活動も行っています。

NPO法人「全国こども福祉センター」が行っているアウトリーチ研修の様子(NPO法人「全国こども福祉センター」が行っているアウトリーチ研修の様子)

以前は、この「第三の居場所」として、「地域」というものが存在していました。地域の大人たちが学校の先生や家族以外の存在として子どもたちを支えていましたが、今では地域関係の希薄化が次第に進み、スマホやSNSの普及などで地域の枠を飛び越えてつながることが容易になってきている面もありその力が弱まってしまっています。

これからますます地域の力が弱まる中で、家庭や学校だけではない「第三の居場所」を子どもたちのために作っていく必要があるのではないでしょうか。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

子ども・若者が創るアウトリーチ 支援を前提としない新しい子ども家庭福祉

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アウトリーチとは「手をのばす」という意味です。
全国こども福祉センターは、名古屋駅前の繁華街やSNSなどで、子ども・若者に対して声をかけたり、スポーツや社会活動に誘って、つながりをつくる活動をしています。
際立った特徴は、団体のメンバーである子ども・若者自身が、子ども・若者に対して声をかけている点です。
本書では、この新しいスタイルの児童福祉(子ども家庭福祉)の理念や活動内容を紹介しています。

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