オルタナティブ教育

子ども観や学び観を転換していく必要がある-多様な教育の博覧会「エデュコレ」主催・武田緑氏インタビュー(後編)

学校・NPO・フリースクール・インターナショナルスクールなどトータル80団体が集まり、それぞれの取組みを紹介し合い、交流する大規模なイベント・教育の博覧会「エデュコレ」の仕掛け人・武田緑さん(一般社団法人コアプラス・代表理事)。

前編では、エデュコレの成り立ちと、武田さんご自身が出会い影響を受けてきた多様な教育のかたちをご紹介いただきました。後編では武田さん自身の目指す教育についてお話を聞いていきます。

武田さん自身も、多様な教育に触れて学んできたというお話がありました。教育に関わる大人が、多様な実践のかたちに出会うことには、どのような意味があるのでしょうか?

武田緑さん(一般社団法人コアプラス・代表理事)

武田:大きく3つあると思っているのですが、1つはその人が無意識に持っている「固定観念」が自覚されるということです。教育というのは、誰もが「受け手」としての経験を持っていますよね。だからみんなが自分の 経験をもとにした「これがアタリマエ、ふつう」という価値観を持っています。

多様な教育に触れることで、教育って、学校って、授業って、「こういうもんだ」というイメージが崩れるんですね。それは教育者として選択肢が広がる、ということでもあると思います。

2つ目は、自分の「教育観」が、比較によってクリアになるということ。多様な教育に出会うと、自分がいろんな反応をするんですよ。違和感を抱いたり、共感したり。

自分が「よい・素敵・ワクワク!」となる教育のカタチはどういうもので、自分が「いやだ・違う・モヤモヤ」となる教育のカタチはどういうものなのか。こだわりたいことは、大切にしたいことは何なのか。学びの現場をつくる人にとって、その軸を明確に持つことはとても重要だけど難しいことです。多様な教育が鏡になって、自分の教育観をつかみやすくなります。

3つ目は、子ども・学習者の多様性に気づくことができるということです。学ぶ人は多様なので、自分が子どもだった時に、「すごく良かった!」と思う経験が、どの子にとっても「良い」かどうかって本当は分からないですよね。学校行事でクラス一丸となって盛り上がったことが最高の思い出だった人もいれば、その中で同調圧力で疲弊していた人もいる。

学校を苦しいと感じる子どもたちを受けとめているフリースクールの存在を知ったり、発達障害の子どもたちに合わせた環境づくりをしている塾の取り組みを知ったり、一人ひとりのニーズに個別に対応しようとしている先生に出会ったりすると、特に現場を持っている人にとっては、自分の目の前にいる子どもたちの多様性が見えやすくなると思います。

各学校や教育団体のブースで、熱心に話を聞く参加者の方:エデュコレ2014(各学校や教育団体のブースで、熱心に話を聞く参加者の方:エデュコレ2014)

今回開催されるエデュコレでは、多様な教育団体のブースが出る他に、トークセッションなどの特別企画も行われるのですね?

武田:はい。多様な教育に出会うことと同時に、自分なりの問いと、答えの方向性を持つ機会になれば、と思っています。

今回は、「これからの学校改革を進めるリーダーシップとは?」「どんな子も取りこぼされない仕組みとは?」「そもそも学びって?」「社会・世界とつながる教育とは?」「多様な教育関係者がつながるためには?」など、これからの教育を変えていきたい、もっとよくしていきたいと願っていらっしゃる方と一緒に考えたいテーマを、トークセッションでは取り上げました。トーカーのみなさんも、それぞれの現場で、活躍されているトップランナーの方ばかりです。

多様な教育の博覧会「エデュコレ」

多様な教育の博覧会「エデュコレ」

多様な教育から学び、活動を続けてきた武田さんが、今目指している教育とはどのようなものなのでしょうか?

武田:私は、もちろん「子どもたちのために学び育ちの環境を変えたい」というのもあるのですが、日本を「誰もが自分を生きられる社会」にしていきたいと思っているんですね。子どもたちが自分でいられる学び育ちの環境を保障することは、大人になった時にそんな社会のつくり手が増えていく、ということにもつながると思っています。

また、教育、特に学校教育が変わっていくためには、現場だけが頑張っても難しいと思います。いろんな要素が複雑に影響しあって、今の状況が存在しているので。だから、教室も、学校や教育組織も、地域やコミュニティも、社会全体も、変わっていく必要があると思うんです。

具体的には、それぞれがどういう状態になればいいと思いますか?

武田:教室や学びの場は、「学ぶことを強いられる」のではなく、「学ぶことが楽しい場」であり、子どものウェルビーイングを促進する場であること。1人ひとりのユニークさが祝福され、違いによって”自分”が損なわれないこと。自分とは違う他者と、豊かに出会い、共に生きること=コミュニティの一員として責任を持つこと学ぶ場になっていることが重要だと思います。

学校や組織は、学び合えるチームになっていること、地域・社会に開かれ、信頼されていること、そして子どものセーフティネット、学びのフィールドとして機能していること。

地域やコミュニティは、子どものセーフティネット、学びのフィールドとして機能するということに加えて、地縁型のコミュニティとテーマコミュニティがつながり、多様なステークホルダーが協働することで、課題が解決され、新たな豊かさが生み出される…というふうになればいいなと思います。

社会全体は、これからの子どもたちには「楽しい学び」が必要だし、子どもは多様で学び方も多様で、子どもには権利があり、力があるのだというふうに、子ども観、学び観が転換していく必要があると思います。それから、とても重要なのは、教育環境をつくっている1人として、当事者意識をみんなが持てるようになることではないでしょうか。

これからつくりたい教育のかたちを語り合う参加者のみなさん:エデュコレ2014(これからつくりたい教育のかたちを語り合う参加者のみなさん:エデュコレ2014)

なるほど。直接的に子どもに関わる教室や学び場だけではなく、より広い範囲を捉えて考えているのですね。

武田:ただ、これはあくまで、私が実現したいと思っているミッションです。多様な教育に触れながら、一人ひとりが「私の大事にしたいことってなんだろう?」「自分が目指す学び場ってどんなだろう?」「目の前の子どもたちや社会のためにできることってなんだろう?」ということを考えることこそが、大切だと思います。

思いを共有できる人とのつながりも重要ですね。

武田:はい、その通りです。一人では決して変えていけませんから。つながりをつくり、学び合い、もっというと、ムーブメントを起こしていくことが必要だと思います。エデュコレが、そんなきっかけの場になれば、一番嬉しいですね。

Author:武田緑
人権教育・シティズンシップ教育・民主的な学びの場づくりをテーマに、企画や研修、執筆、現場サポート、教育運動づくりに取り組む。主な取り組みは、全国各地での教職員研修や国内外の教育現場を訪ねる視察ツアー「EDUTRIP」、多様な教育のあり方を体感できる教育の博覧会「エデュコレ」、立場を越えて教育について学び合うオンラインコミュニティ「エデュコレonline」、学校現場の声を世の中に届ける「School Voice Project」など。
著書に「読んで旅する、日本と世界の色とりどりの教育
この記事が気に入ったら
「いいね!」や「フォロー」をお願いします。
最新情報をお届けします。
タイトルとURLをコピーしました