不登校・ひきこもり

学校へ行かずに考える時間も子どもの成長とって大事な時間-不登校生の保護者会「ぼちぼちの会」会長・木村素也氏インタビュー(後編)

不登校生の保護者会「ぼちぼちの会」会長・木村素也氏

福岡県福岡市で38年にわたる教員生活を送り、その間に立ち上げた『不登校支援の親の会』の活動をサポートし続けている元能古中学校校長の木村素也先生。先月掲載の前編(不登校で悩む当事者と家族が支え合うコミュニティを築く!)に続き、後編では不登校と向き合う保護者、学校教員、支援者それぞれの立場からのご質問に答えます。

「僕はずっと教員でしたので、学校の先生からの質問は身内に答える感覚があります。ただ気をつけなければいけないのは、保護者や子どもにとっては『学校に行く、行かない』、教員にとっては『学校に来る、来ない』という視点の違いがあることです。この視点を踏まえながら質問にお答えしました」

不登校対応に悩みを抱えている方々の、明日のヒントがあるかもしれません。

木村 素也(きむら もとや)
不登校生の保護者会「ぼちぼちの会」会長・元福岡市立能古中学校校長
福岡市立中学校の教員として学校に行けない生徒の進路や生活面の支援及び保護者の情報交流や支援の場作りを目指して活動。38年間にわたる教員生活を2014年3月に福岡市立能古中学校校長を最後に退職。現在、福岡市子ども総合相談センター嘱託相談員、太宰府市就学支援委員会副委員長、不登校生保護者の会「ぼちぼちの会」会長として、不登校生の保護者の会を中心に活動している。

もし、我が子が不登校になったら

保護者からの質問:我が子が「学校に行きたくない」と不登校気味になってきた時に、子どもの本音にしっかりと耳を傾けること以外に親ができることはありますか?

親子で会話のやりとりが出来てもそれ以上に状況が進展せず、しばらく状況が滞ってしまっています。次にどのようなアクションを取れば良いのでしょうか?ただ待っていることも、何か提案することも逆効果になってしまいそうで悩んでいます。

子どもが「学校に行きたくない」という時点でかなり困っているわけです。ほとんどの場合、ここに来るまで子どもとしてはいろいろ悩んできたはずで、そこまで親や周囲の大人が受け入れてくれなかったという体験をしているのです。

行かなくなったとたんに親が突然「本音を話してごらん」といって話すでしょうか。多くの場合、子どもはそこに至るまでに「そんなことは気にしすぎだ」「たいしたことじゃない」など何か言ってもなかなか受け入れてもらえない経験を積んでしまっています。

大人と子どもの感覚の違いを理解できていません。言葉と態度が違う経験も多くしています。「勝手にしなさい」「好きにしなさい」と言われても怒られているのか許容されているのか迷います。いろいろと選択肢を提案されても、漠然としたものを提示されては判断できません。

正しい判断をするためには、①必要な情報、②冷静な判断力、③多くの経験などが必要ですが、今、学校に行けなくなって間もない子どもには無理なことが多いのです。そのための「待ちましょう」であって、ただ呆然と見守るための時間ではないと言うことです。

あまりことを急ぎすぎて、これがだめなら次これをというようなことは避けたほうがいいと思います。

得てして大人は結論を急ぎすぎですが、子どもにとって大きな決断ほど時間がかかるものです。経験者に聞いても、学校に行かなかった時間はずっといろいろなことを考えていたと言っていました。考える時間も子どもの成長にとっての大事な時間です。他の子どもと同じ時間軸で判断できない子どももいますから、その子の成長に合わせてみてください。

保護者からの質問:我が子が不登校になった際に、木村先生のような理解のある先生ばかりではないのが現状だと思うのですが、親は学校以外にまずどのようなところに相談したり、助けを求めたら良いのでしょうか?

私は「不登校」の専門家がいるとすればそれは「教員」だと思います。学校に行けないのですから学校でその問題を解決することしかできないと思うのです。

スクールカウンセラーや心療内科のお医者さんや心理センターのカウンセラーさんなどの協力を得ながら組織的に取り組んでいくのが大切かもしれません。しかし、子どもは学校の中で困り感を持ち、それがあるレベルを超えたとき、学校に行けなくなっているのですからこの問題は学校でしか解決することができないと思っています。

「助けを求める」というのは何ですが、まずは担任を中心とした学校組織と協力することが一番大切です。学校との信頼関係が一番大切ですから。不登校は誰の責任とか誰が悪いという問題とはちょっとこちらにおいておきましょう。

一つでも本人が困り感を持っているものを片付けていくことで行きやすくなることは大切です。学校以外のところはサポートをするところであると思ってください。そして、どうしても学校が無理と思ったとき次善の策としての「教育機関」を考えてもいいのではないでしょうか。

もし、自分のクラスに不登校が出てきたら

学校教員からの質問:不登校が出やすいクラスというのは、どんなクラスでしょうか?不登校が出ないように教員として普段、どんな点に配慮をしたり、努力をすれば良いのでしょうか?

確かにそのような土壌があるということは否定しませんが、どの担任でも不登校生を増やそうと思って運営している先生はいないと思います。
最初は先生や学校のルールに子どもを合わせようとするより、その子どもに合わせた枠を作って包みこみながら育てていくことを考えたらと思います。

「すべての子どもに学校の中に居場所を保障する」
「すべての子どもに学習を保障する」
「進路保障は教育の原点」

と思って実践すればいいのではないでしょうか。

一担任だけでできることではないので学校という組織としての対応が不可欠だと思います。個人的に責任を感じる先生もあるかもしれませんが、あくまでもかかわりのある先生ほどトラブルの原因になったりするものです。その先生を取り巻く環境や協力してもらえる経験を持った先生の有無などいろいろと条件は違うと思います。もう一度言いますが担任を中心とした組織的な対応が大切です。

なぜなら、子どもはまだ未熟で、多様なものですからこそ学校もそれに合わせた多様な対応ができる必要があるからです。一個人の対応ではそこに限界ができてしまいますから。

たとえ学校に行けなくなっても学校の外で「原則」を達成できるように努力することです。学校に行ける、行けないがすべてではないから。

学校教員からの質問:自分のクラスで不登校の子どもが出てきた際に、どのような行動を取れば良いのでしょうか?保護者と連絡を取り合ったり、家庭を訪問して本人に会って話を聞いたりと教員の立場から努力をしていても、立場上、再登校を迫っているようにも感じられ、逆効果になってしまう気がします。

まずは自分がどうしたいより「保護者やその生徒からどのように見えるのか」と言うことを意識することです。

普段からどのぐらい信頼関係があるのかによって進め方が違ってきます。保護者から十分話を聞くことから始めましょう。保護者は不安に思っているのですから信頼関係をしっかり築くところから始まります。

教員としての立場も大切ですが、同じ大人として子どもにどう向き合っていくのかを一緒に考えていく姿勢が大切です。批判をしたり、指導しようとする態度は感心しません。

例えば、「子どもに学校に来るように入ってください」「連れてきてください」「親が甘いからわがままを言っているのではないですか」など。

生徒に接するときも「どうして学校に来ないのだ」「何かあったのか」「明日は出てきなさい」などと本人ができないことや、言いたくないことを無理に聞き出そうとして焦ると顔を合わせなくなります。まずは信頼関係をしっかり築いてから、一緒に考えていくという姿勢が大事ですね。

不安が大きくなっている子どもはいろいろなことに敏感になっています。大人が思っている以上に深読みする傾向にあるので、教師のほうもこの子どもをこうさせたいという指導的態度より、一緒に考えていこうという共感的態度のほうが好ましいですね。

無理して子どもと話さなくても保護者を支援することによって間接的に子どもを支えることもできます。保護者と連絡を取り合ったり、家庭を訪問して家族の人と話すことも大切だと思います。私はその子の兄弟と仲良くなっていました。一見遠回りみたいだけれども長い目で見れば信頼関係を作る方法かもしれません。

これからの不登校の子どもに必要な支援とは?

支援者からの質問:不登校の子どもたちに対して、以前に比べて様々な行政・民間での支援が行われるようになってきていますが、今後、特にどのような点が改善・充実すると良いとお考えでしょうか?これからの不登校の子ども達の支援に必要なことを教えてください。

まず「不登校」ということが完全になくなると言うことはないと思っています。現在の日本の教育の現状から「学校」というものに代替できる「教育機関」はありません。従って何らかの原因で学校に行けなくなることは大変不利益なことです。「学校に行けるものなら行ったが良い、行けるものなら行ける環境を整えましょう」と周囲も含めて支援をしていきます。

しかし、それでも行けないと言うこともあるでしょう。そのときはフリースクールや在宅教育などの多様な教育の場所(セーフティネット)を準備することも必要です。法的な整備や教育内容の担保なども含めて一人ひとりに応じた教育を保障できるといいでしょう。

親も子どもも不登校という経験したことのない未知の世界に踏み込み、先が見えずに不安になっている状態です。ある程度の見通しや正しい情報があれば待つこともできると思うのです。そのために成長モデルになる先輩や経験者の話は有効だと思います。

ほかの先人が経験したことを追体験すること、経験からくる情報やスキルなどが必要です。そういう意味でも「保護者の会」や「不登校生の会」などに参加するのもいいでしょう。一人ひとりが自分に合った支援資源を有効に利用することが大切です。

Author:学びリンク株式会社
不登校支援・通信制高校紹介などの専門出版社。進学ガイドブック、単行本、フリーペーパー、専門誌などの出版、Webサイト「通信制高校があるじゃん!」などの運営、通信制高校・サポート校合同相談会、セミナー、講演会の主催しています。

不登校支援の輪をつなげよう!-「不登校生の保護者会」を通じて学んだこと

不登校支援の輪をつなげよう!-「不登校生の保護者会」を通じて学んだこと

2014年3月に、福岡市立能古中学校校長を退任した著者、木村素也。38年にわたる教員生活は、不登校の子どもたちとその家族を支援するために多くの時間が費やされてきました。著者は、福岡で「不登校の保護者の会」を設立した人として知られています。子どもたちと同様に苦戦し、しかも孤立してしまいがちな不登校生の家族を励ましてきました。

本書では、元中学校校長の著者だから見える学校と家庭、親と子の適切な関係作りを示します。「スクールカウンセラーとの付き合い方」「医者に求めていいこと、求めてはいけないこと」など、不登校家庭の具体的な困りポイントを解決します!また、我が子を理解するために必要な大人の心構え、子どもとしっかりコミュニケーションを取るためのコツなどを掲載。

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