不登校・ひきこもり

不登校の子どもに未だ「学校復帰」を目標とする「適応指導教室」-政策と現場が乖離する(学校)適応指導教室という実態

中学生

不登校の子どもたちが16万人を超え、過去最高を更新し続けています。子どもたちが不登校になった際に、行く先の候補としてまず挙がるのが、自治体が設置している教育支援センター(適応指導教室)やNPOなどの民間団体が設置しているフリースクールです。

今、この自治体が設置している教育支援センター(適応指導教室)のあり方に疑問を抱く状況が生じています。

「学校復帰」ではなく、「社会的な自立」を目指した支援が第一

2017年2月には、「教育機会確保法」(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が施行され、採決にあたって「児童生徒の意思を十分に尊重して支援が行われるよう配慮すること」「不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること」などの附帯決議が付されています。

不登校の子どもたちに対する支援のあり方として、文部科学省は、これまでに再三にわたって、子どもたちの「学校復帰」ではなく、「社会的な自立」を目指した支援を行なうように周知してきました。

文部科学省は、令和元年10月25日に通知した「不登校児童生徒への支援の在り方について」の中でも、以下のように記載しています。

不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方

(1)支援の視点
不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。また、児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。

(3)不登校の理由に応じた働き掛けや関わりの重要性
不登校児童生徒が、主体的に社会的自立や学校復帰に向かうよう、児童生徒自身を見守りつつ、不登校のきっかけや継続理由に応じて、その環境づくりのために適切な支援や働き掛けを行う必要があること。

自治体が設置する教育支援センター(適応指導教室)とは?

各自治体で行っている不登校の子どもに対する支援の現場は、今、どのような状況になっているのでしょうか?

自治体が不登校の子どもたちに対する支援策として、主に設置している教育支援センター(適応指導教室)は、以下のように定義されています。

不登校児童生徒等に対する指導を行うために教育委員会及び首長部局が、教育センター等学校以外の場所や学校の余裕教室等において、学校生活への復帰を支援するため、児童生徒の在籍校と連携をとりつつ、個別カウンセリング、集団での指導、教科指導等を組織的、計画的に行う組織として設置したものをいう。なお、教育相談室のように単に相談を行うだけの施設は含まない。

令和元年5月13日に文部科学省が公表した「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果では、約63%の自治体がすでに設置運営しており、設置していない自治体については、約41%の自治体において設置予定、または何らかの検討がなされているとしています。

現在、小学生が4,011名、中学生が約16,710名、高校生が約145名在籍をしています。

令和元年5月13日に文部科学省が公表した「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果

未だ援助目標として「学校復帰」を重視する現状

最も驚くべき結果は、教育支援センター(適応指導教室)の援助目標として、「学校復帰」を重要と考えている施設が最も多く、全体の約69%を占めていることです。

平成27年度の調査と比較すると、その割合減り、「社会的自立」や「居場所の提供」を重要と考えている施設の割合が増えているとしていますが、以前として7割近い施設で「学校復帰」を目標として重視していることになります。

令和元年5月13日に文部科学省が公表した「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果

施設の設置者は、市区町村の教育委員会が大半となっています。また、施設を運営する職員状況を見ると、常勤職員の約75%、非常勤職員の約66%が教育職系職員や退職教職員となっており、「学校復帰」を重視する現場の状況も想像に難くありません。

本調査結果の中では、学校復帰者数の状況にも報告されており、小学校で約42%、中学校で約35%、高校で約43%とされています。中学校では、学年が上がるにつれて復帰率が高いようです。設置している各自治体は、このような復帰率を参考指標として比較し、議員が質問をしたり、教育支援センター(適応指導教室)の評価としているところもあります。

令和元年5月13日に文部科学省が公表した「教育支援センター(適応指導教室)に関する実態調査」結果

政策と現場の乖離を是正するために必要な市民の声

「適応指導教室」と名称自体も強い違和感を感じますが、実態は(学校)適応指導教室になっており、政策と現場(自治体)での理解が乖離している状況になっていると言えます。

現在は、「学校復帰」を目的・目標としなければならないという論拠はありません。乖離を是正するためには、各自治体が制定している設置条例の改正が不可欠となります。

そのためには、当事者家庭や支援関係者からこのような乖離した状況を是正するべく市民の声を上げ、地域の中での問題意識を高めていくことがまず必要です。また、市区町村議会で現在のあり方を議論し、新たな教育支援センター(適応指導教室)に変化させていくことが求められています。

そして、官民や経済的な状況に関わらず多様な学びの機会が提供され、子ども一人ひとりの意思を十分に尊重した支援が広がることが重要だと思います。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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