(photo from Progress Report ‘Fukushima Kids Summer Camp in 2013 started !!’ )
2011年3月11日に発生した東日本大震災から2014年3月11日で三年が経過しました。確かに一部を除いては震災直後の映像に出てくるような瓦礫はなくなり、進捗に差はあるものの町は、段々と復興に向けて歩みを進めています。
しかしながら、一見しただけではわかりにくい子ども達の問題は、時間が経つごとに複雑化・深刻化していることが明らかになっています。震災による直接的な被害だけでなく、多様な間接的な被害を被り、震災前に比べて生活や学習環境が一変した子は数多くいます。震災から三年が経過し、現在の子ども達の現状について報じている調査結果・メディアをまとめました。
◆震災で困窮の子ども 全国で5.8万人(NHK:2014年3月1日)
国は、東日本大震災で保護者が仕事を失ったり死亡したりして、経済的に困窮している子どもを対象に、学費や給食費などを支給する支援制度を設けています。文部科学省によりますと、昨年度1年間にこの制度の対象になった子どもは、被災地だけでなくすべての都道府県にいて、合わせて5万8352人に上りました。前の年度より9000人余り減っていますが、依然として経済的に厳しい状況に置かれている子どもが多いことが分かりました。内訳では、幼稚園児が1万1540人、小中学生が2万9038人、高校生が7011人となっていて、都道府県別では宮城県が最も多く3万2181人、福島県が1万3060人、岩手県が4732人となっています。
日本国内で「子どもの貧困」の問題が指摘されている中、震災によって追い打ちをかけられた状況になっています。今回、はじめて数値が公表され、各都道府県や年齢の内訳がわかり、全体としてどのような状況になっているのかがわかるようになりました。今後、数年が経過し、他の復興や震災に関する予算と同様に、震災としての特別な枠組みから通常の就学援助のような枠組みに移行されている可能性もあります。
◆被災の子ども 支援の有無で格差広がる(NHK:2014年2月27日)
東日本大震災から3年になるのを前に、被災した子どもを継続的に支援してきた人たちが東京都内で会合を開き、支援が届いているかいないかで子どもたちの間に心理面や経済面の格差が広がっているという現状を報告しました。この中では、適切なケアを受けられず心理的な傷を抱えたまま自暴自棄になったり不登校になったりしている子どもがいることや、家庭の経済状況を察して高校進学を諦めて働く子どもがいることなどが報告され、支援が届いている場合とそうでない場合とで格差が広がっているという声が相次ぎました。
支援を受けている家庭はいくつも重複して受けている一方で、支援の対象となっていても全く受けていない家庭もあります。行政やNPOの様々な支援がありますが、その情報を得て上手く活用していくためには、保護者のITリテラシーやネットワークが必要です。支援がなかなか届かない家庭にどのようにアクセスをしていくのかが、行政やNPOのこれからの課題の一つです。
◆被災地の小学低学年、25%「精神的ケア必要」(読売新聞:2014年2月27日)
東日本大震災の被災地で、小学校低学年の児童の4人に1人が「不安になりやすい」「やる気が出ない」などの問題を抱え、精神的なケアが必要な状態にあるとみられることが、厚生労働省や岩手県教育委員会の調査で分かった。震災発生時は就学前の子どもたちで、津波の恐怖や生活環境のストレスなどを理解できる年齢になったことが影響しているとみられる。阪神大震災では発生から 3~4年後に「配慮が必要」とされた児童生徒数がピークとなっており、専門家は「心のケアはこれからが正念場」と指摘している。結果をまとめた国立成育医療研究センターによると、問題行動のため精神的ケアが必要と判断された子どもの割合は、被災3県で25・9%。三重県では8・ 5%にとどまった。問題行動を示した子どもの多くが「津波を目撃した」「家族が離ればなれになった」「友人が亡くなった」などの経験をしていたという。
2つの調査から震災時の影響が特に色濃く出ているのは、未就学児や低学年の子ども達です。強いネガティブな影響に対して、十分に受け止め・消化することが出来ない状態が続いていたり、人の役に立ったり、力になるという経験が大人よりも出来ないため、無力感が蓄積しています。子ども達が成長していく中で、いかに過去の体験を自分なりに解釈して、乗り越えていくことができるか心のケアが重要な局面に迎えています。
◆増える児童虐待 避難都市 ゆがむ母子(産経ニュース:2013年9月16日)
児童虐待の対応件数が昨年度、仙台市を除く宮城県と福島県でいずれも前年度から1・2倍増え、全国平均より増加率が高かった。ただ同じ被災地でも地域差がみられる。突出して増えたのは東京電力福島第1原発のある「浜通り」地方を管轄する浜児童相談所の管内。前年度の56件から120件と2・1倍増えた。福島虐待問題研究会「エフパネットふくしま」の影山和輝理事(48)は「浜通りの中心都市であるいわき市で、地域の異常事態が2年半続いていることを考える必要がある」と指摘する。
震災によって生活環境が大きく変わり、親も強いストレスを感じています。同じ地域に住んでいても補償される額も全く異なっていたり、生活再建に必要な支援の格差が生まれてきたりもしています。記事の中でふれられているように、深刻な虐待が増えているということではなく、虐待につながる又は虐待と疑われる行動が増えていると考えられます。深刻なケースが増加する前に、親自身のストレスが低減できるような取り組みが必要だと考えられます。
◆男女とも平均下回る 小5、中2全国体力テスト 原発事故影響続く(福島民報:2013年12月15日)
文部科学省は14日、小学5年と中学2年を対象とした「平成25年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)の結果を発表した。本県は昨年に続き8種目の合計点が小5と中2の男女全てで全国平均を下回った。全国平均との差は前回調査と比べていずれも縮まったものの、県教委は「東日本大震災、東京電力福島第一原発事故による生活環境の変化や、屋外活動の制限などの影響が体力低下の一因として考えられる」としている。
通常であれば、外遊びやスポーツなどを通じて、子ども達の体力や運動能力を伸ばしていきますが、今、福島ではそれが出来ません。食べ盛りの年齢の子どもであれば、運動不足から肥満になってしまう子も出てくると考えられます。スポーツ振興だけでは、運動に苦手意識のある子はなかなか参加しません。NPOや行政などが屋内でも体を動かすことができる場所を設けるなど支援を行っていますが、それでも十分な状況とは言えません。子ども達が自由に体を動かして遊べる環境づくりが急務です。
◆高齢の里親、悩み深く 孤児「死んじゃ駄目」(共同通信:2014年3月1日)
岩手県内で孤児51人を育てる里親35組のうち、祖父母や両親のきょうだいなど3親等以内の親族里親の平均年齢は68・1歳。宮城県の親族里親は平均63・1歳。高齢の里親の健康問題も課題だ。岩手県大船渡市の児童養護施設を拠点に、里親家庭を訪問している 金野祐樹 (こんの・ゆうき) さん(41)は「里親の年齢面でこの先心配な家庭が幾つもある。子どもを育てる人がいなくなってしまうことが一番の課題」と感じている。
両親を失って精神的にもお大きな負担を感じている子が、さらに育ての親も早くに失ってしまうことはさらに深い悲しみを感じることにもなります。日本は、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童に対して、国際的にみても里親での受け入れが少なく、施設中心の社会的養護を行っています。このような高齢化の減少は、里親のみならず、保護者や民生委員などでも同様の傾向があります。被災地のみならず里親となる家庭が広がるように制度の見直しも必要となってきています。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。