東日本大震災から3年。震災によって子どもたちの教育環境は一変しました。言うまでもなく、子どもの成長は、本人の生まれ持った能力以上に、その環境が大きく影響を及ぼします。子どもたちをめぐる教育環境は、この3年でどうなっているのか。被災地の子どもたちの「今」についてお伝えします。
毎日の生活だけで精いっぱい。前に進んでいる感覚がまるでない。
「あの日から3年が経とうとするけど、変わったことといえば周りの家庭との『差』を感じるようになったことですね。」
宮城県沿岸部の仮設住宅で暮らすあるお母さんがおっしゃった言葉が心に残りました。中学生・小学生の2人の男の子とご両親の4人で、仮設住宅で生活を始めてから約2年半。共働きで、お母さんも毎日遅くまでアルバイトをしながら生活を支えようとしていますが、前に進んでいる感覚がまるでないといいます。
「いつ、この仮設住宅を出るのか?」
「進学を希望するお兄さんの進学の道をどのように作ればよいのか?」
毎日の生活だけで精いっぱい。考える暇もなく時間が過ぎ、震災から3年が経とうとしていました。
一方で、再開した仕事が軌道に乗り始め、確実に前に進んでいく感覚を持つ同級生もいる。そんな中、「取り残された感覚」を募らせ、焦りすら感じはじめているといいます。
「みんなが大変だった」震災直後とは明らかに違った状況が、そこにはあります。
生活再建の二極化の要因は、一体何なのか?
私たちChance for Childrenが東北でサポートさせていただいている被災されたご家庭と接していても、この数年で「前に進んだ」という感覚を持つようになった方々がいる一方で、前述のように「取り残された」感覚をお持ちのご家庭も多くいらっしゃいます。
この差は、いったいどこで生まれているのか?その原因を突き止めるべく、私はこの数か月間、支援を受けられているご家庭の収入や所得の状況について、これまでにとったアンケート結果との相関を独自に調査しました。
そこで、一つ明らかになったのは、「震災前の収入が低かったご家庭のほうが、2011年~2012年に収入が低下している家庭が多い」ということです。
この調査については、サンプルが43件と非常に少ないため、慎重に取り扱う必要があり、あくまでも「傾向がある」とまでしか言えません。ただ、現場の感覚とは、そうズレていないと思います。
つまり、生活再建が進んでいるかどうかは、「直接的な被災の度合い」だけでなく、「震災前からの生活状況」が大きく左右しているのではないか?ということが考えられます。
果たして震災だけの問題なのか?
現地のスタッフは、「昨年からチャンス・フォー・チルドレンの教育クーポンの応募してこられる被災家庭では、明らかに『母子家庭』からの応募が増えた」と話します。
例えば、ある宮城県沿岸部の中学2年生の男の子は母子家庭で育ち、震災の被害を受けました。震災で住家は流され、仮設住宅で生活しています。お母さんは朝の「2時」に家を出て、弁当配達の仕事をしながら、どうにか生計を立てています。働いても、働いても一向に生活は楽にならない。子どもに勉強できる環境を与えたいと思っていても、ままならない。仮設を出れる見通しも立たない。今でも彼の家には集中して学習する勉強机すら、ありません。
お母さんは次のように話しました。
「母子家庭なので、働かないといけない。仕事があれば働かないと。最終的にはお金になってしまうのは悲しい話だけど、なんだかんだ言っても最終的にはお金。お金がなければ、どうにもならない。」
このご家庭が抱えている問題は、果たして震災だけの問題なのでしょうか?
私は、潜在的に存在していた課題に、震災を通じて「気づいた」だけに過ぎないと思います。
なぜなら、母子家庭の生活の大変さは、決して震災で始まったわけではないからです。
日本の母子家庭の貧困率は50%を超えており、世界的に見ても異常な数値です。日本の母子家庭の特徴は「母親が働いている」ケースが多いことです(全体の貧困率は15%)。これはつまり、ひとり親の母親が「働いても、生活が楽にならない」という状況を表しています。
繰り返しますが、これらは震災前から起こっていた社会問題です。そんな厳しい状況に置かれていた方々が、震災で大きな被害を受けたことにより、厳しい生活からなかなか抜け出せない。そんな状況にあります。
(阪神淡路大震災・救援物資の受け取り)
震災の影響のピークは五年後-阪神淡路大震災から見えるもの
子どもをめぐる環境、特に経済的な状況は子どもの成長に大きな悪影響を及ぼすことは明らかです。ここで私たちが学ばなければならないのは、20年前の阪神・淡路大震災の経験です。
阪神淡路大震災後の子どもの様子は、見事にそれを表しています。兵庫県が発表した調査結果によると、震災後、心の健康について教育的配慮が必要になった子どもの人数を要因別に見ると、「震災への恐怖」や「住家環境の変化」といった震災の直接的な影響については、震災後、横ばい又から徐々に減少する傾向にありますが、「家族や友人関係」「経済的環境」等に対して教育的配慮が必要になった子どもの人数に関しては、年々増加し、ピークが震災の5年後にやってきます。
今、東北で特に生活再建が進んでいない家庭の子どもが、いかに危険な状況にあるかがわかると思います。私は非常に危機感を感じています。
震災から3年。「復興」の本当の意味を問い直す。
私は、東北の子どもたちへの支援の考え方を大きく転換しなければならない時期が来ていると思います。これまでの3年間は、「被災の度合いが大きかった」方々の損失を補償するための支援が中心でした。これは復興支援として活動する以上、当たり前といえば当たり前です。
ただ、これからの被災地支援で求められているのは、「損失を補償するための支援」だけでなく、「震災によって気づいた、本当に困窮している方々に対する支援」ではないかと思います。
もちろん前者の支援もまだまだ不十分であり、今後も必要であることは間違いないですが、後者の支援の優先度を上げる必要性を強く感じています。特に後者の方々は、情報収集力が弱い場合も多く、支援者側が注意しなければ、十分にサポートが届きません。
(大学生ボランティア「ブラザー・シスター」による進路・学習相談)
東日本大震災から3年が経ち、改めて「復興」の意味を問い直しています。
私は失ったものを取り戻すのが「復興」ではないと思います。震災によって「気づいた課題」「表面化した課題」を解決することが「復興」だと思います。
私たちは、力を合わせて東北を震災前よりも良い社会にしなければなりません。それが実現できたとき、本当の意味で「東北が復興した」といえる日が来ると信じています。
震災から4年目が始まりました。被災地の支援は、これからが正念場です。私たちは東北の子どもたちのサポートに全力を尽くして取り組んでいきたいと思います。ぜひ、皆さまも一緒に取り組んでまいりましょう。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。著書「体験格差」、共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。
経済的に困難を抱える子ども達の学習機会をご支援ください!
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「スタディクーポン」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。