近年、子どもが様々なチャレンジをしていく原動力として、注目を集めている「自己肯定感」。
2019年3月に「『自己肯定感」育成入門」を出版された平岩国泰さんに、前編に引き続き、子どもの自己肯定感についてお話を頂きました。後編では、子どもたちがチャレンジを避けるようになった背景、一歩踏み出してもらうためには親ができることを伺いしました。
特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクール代表理事。
1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。30歳のとき、長女の誕生をきっかけに“放課後NPOアフタースクール”の活動を開始。
2011年会社を退職し、日本の子どもたちの「社会を巻き込んだ教育改革」に挑む。“アフタースクール”は活動開始以降、5万人以上の子どもが参加。グッドデザイン賞を過去に4度受賞、他各賞を受賞。2013年より文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年より渋谷区教育委員、学校法人新渡戸文化学園理事を務める。
背景には「失敗」を恐れる大人たちがいる
前編では、「チャレンジしようとしない」子どもと、その背景にある「自己肯定感の低さ」について書かせていただきました。「挑戦しない子どもが多い(増えている)」という私の仮説が本当だったとして、なぜ、子どもは、挑戦しなくなったのか。もう少し考えてみましょう。
私はこの変化について、周囲の教育関係者や保護者たちと、何度も話し合いました。あれこれ考えていたときに、「子どもは社会の鏡」という基本的な言葉を思い出しました。そして、ふとこんな考えが浮かびました。
「変わったのは、私たち大人の方なのではないか」と。
大人の失敗経験が減り、寛容力が下がった結果として、子どもが挑戦しなくなっているということなのではないか。
どこに行くにしても、何をするにしても、その場で効率の良い方法や他の人の評価を調べる、ということができるようになり、いわゆる「外れる」ことが極端に減りました。人は失敗をしなくなり、ちょっとした失敗が「ありえない」などと言われるようになりました。「不寛容社会」と言われる状態も、そのような時代の産物でしょう。
私自身、子どもが生まれて、これまでになく「恥ずかしいこと」「思うようにいかないこと」を経験しました。上の娘を育てている時に、抱っこしていた娘が乗客の多い電車の中で泣き出したことがありました。何とかあやしてしのごうとしましたが、まったくダメでした。その時の、周囲の冷ややかな視線は忘れることができません。
大人が「恥をかきたくない」「面倒を増やしたくない」から
逆に言えば、それまでの大人としての自分の生活ではそこまで「失敗して恥ずかしい」「周囲に迷惑をかける」という経験がほとんどなかったのです。そこでまた、気づきました。
子どもに失敗させると、親が恥をかく、面倒ごとが増える。そのため、親である大人が「子どもが失敗しないように」手を打つ。
なぜなら大人が「恥をかきたくない」「面倒を増やしたくない」からです。その時代において、「子どもが挑戦をしない」のです。子どもたちが失敗したがらなくなったのは、そもそも大人たちが失敗を恐れているからだというのが、私のたどりついた結論です。
ですから、親がまず、「失敗を悪いものと思い過ぎない」ということが大事なのではないかと感じます。
なんとなくの不安や思い込みから解放するには?
では、すでに挑戦に対して尻込みするようになってしまった子どもを、「失敗はよくないことだ」というなんとなくの不安、思い込みから解放するには、どうすればいいか。
それは、まわりの大人が失敗を笑い飛ばす、あるいは「失敗から学んだ」経験を話す、ということです。
アメリカの著名な歌手、ピーター・ヤロウさんという方がいます。
彼は「Don’t Laugh at Me(私を笑わないで)」という、多様性の理解やいじめ防止を目的とした、全米で5万人以上の教員が研修を受けて実施されている子ども向けのプログラムを広めた人物でもあります。
以前に、その活動をお手伝いする機会がありまして、その中のあるセッションに、私は非常に感銘を受けたのです。
それは、教員たちが「うまくいかなかった体験」を子どもたちに語るというものでした。まず、教壇に立つ先生が自分の弱みを語るということに驚きました。そして、子どもたちが熱心に聞いて、笑い飛ばすこともなく共感を持つということに新鮮な感動を覚えました。
(放課後NPOアフタースクール:大人と対等の勝負も子どもたちの大好物)
「大人の失敗話」は、価値の転換
「大人の失敗話」は、子どもにとっては、いわば価値の転換です。子どもにとっては「なーんだ、大人や先生も失敗することがあるんだ!」という驚きがあります。
同時に、そうした「気づき」をきっかけに、「大人にも、自分たちが普段見ている顔とは違う顔、違う面があるんだ」という多角的な捉え方を身につけることにつながると思います。
さて、実際にやってみると、大人の「うまくいかなかった話」は、子どもに予想以上に"受け"ます。子どもにとっては「大人なのに失敗してる」こと自体が新鮮で、面白いことなんです。
ドラマティックでなくていい。懸命に○○したのに、全然ダメだった話。いい年の大人なのに○○してしまった話。こうした失敗エピソードを時には親がすすんで話してあげてください。
人間味や弱さを、ときには明るくさらけ出して一緒に笑うことで、親と子どもとの距離がぐっと縮まり、本音も言いやすくなるでしょう。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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