キャリア教育・社会体験

中高生が大人の一日に密着し、本気の「働く」に触れる教育プログラム-「第一回まちのジョブシャドウイング in 日南・串間」開催レポート

第一回まちのジョブシャドウイング in 日南・串間

「ジョブシャドウイング」という言葉をご存じですか?

ジョブシャドウイングは、中高生が働く大人に影(シャドウ)のように密着し、働く様子について観察する教育プログラムです。アメリカでは、600万人以上の中高生が参加しているとも言われており、日本でも様々な地域でNPOや自治体などが中心となって行われています。

このプログラムを移住先の宮崎県日南市および隣の串間市で開催しましたので、その様子を報告します。

職場体験やインターンシップでは、中高生が「できること」の範囲しか触れられない

中高生が仕事の現場に行く、というと職場体験やインターンシップを思い浮かべる方も多いと思います。公立中学校における職場体験の実施状況は、98.1%。公立高等学校におけるインターンシップの実施状況は81.8%。日本のほとんどの中高生が実際の仕事の現場を見る機会を得られている、といっても良いと思います。

※出典:国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター 平成28年度職場体験・インターンシップ実施状況等調査結果

一方で、現場からは「毎年、受け入れ先を探すのが大変」「受け入れ先が飲食や小売りなどのサービス業に偏る」「マンネリ化しており、当初の目的が見失われている」などの課題が聞かれます。

実際、私も身近な中学生にどういう基準で職場体験先を選んでいるのか聞いたところ「先輩から美味しいまかないが出ると聞いた」との理由でした。「行き先が飲食店ばかりで、自分の興味のある職業がそもそも受け入れ先にない」ということも背景にありました。

送り出す学校の準備や、受け入れ方にも課題はあると思いますが、難しくさせているのが「何か体験をさせなければならない」ということだと思っています。「小売店に行ったら窓ガラスをずっと拭いていた」とか、「飲食店で皿洗いばかりになった」という話はよく聞きますが、そういったことが起きるのは中高生に任せても問題がないのがその程度の仕事だからです。

ジョブシャドウイングの良いところは「見学」で良い、ということです。

その結果、今回は大事な契約書を交わす打ち合わせに同席したり、市長が海外からのお客様と会談する場に参加したり、「体験」が前提の職場体験やインターンシップでは入れないようなシビアな仕事の現場に同席できました。体験には体験なりの良さがあると思いますが、それによって制限されていることも多いと感じています。

下記は、今回のジョブシャドウイングの概要と受け入れ先になって下さった社会人の方々の一覧です。

<開催概要>
事前学習会:7月30日(月)13:30~17:00
本   番:7月31日(火)~8月3日(金)※この期間のいずれか一日
振り返り会:8月4日(土)13:30~17:00
対象:日南市・串間市の中学2年生~高校2年生
参加人数:14名(定員20名)
参加費:500円/名(保険代として)
申込方法:FAXもしくはインターネット上で申し込み
後援:日南市・串間市・日南市教育委員会・串間市教育委員会
URL:http://machino-jobshadowing.info/

まちのジョブシャドウイング・社会人一覧(まちのジョブシャドウイング・社会人一覧)

「仕事内容を知る」ではなく、「働く意義を考える」

今回のジョブシャドウイングで私が大事にしたことは、どんな仕事にも通じる、「仕事とは何か」「働く意義とは何か」を考えてもらうことです。そこで事前課題として、以下の5つの問いを投げかけ、参加者に考えてもらいました。

1.どんな商品やサービスを提供する仕事ですか
2.その商品やサービスを利用するお客さんは、どんな人だと思いますか?
3.お客さんの要望に応えるために、どんな工夫がされていると思いますか?
4.同行する大人は、どんな人(性格、能力、知識など)だと思いますか?
5.同行する大人は、働く上でどんなことを大事にしている人だと思いますか?

この5つの問いには2つの役割があります。

1つ目は当然ながら「考える視点を提供する」こと。特に顧客を意識させることに注力しました。事前に仕事について調べるとなると、商品・サービスの内容や業務内容に終始しがちです。しかし、大事なのはその商品や業務がどうして必要なのか、その先にどんな顧客がいて、どんな課題やニーズに応えようとしているのか、そこを考えてほしいと思っていました。

2つ目の役割は「仮説を立てることで主体的な観察につなげる」ということです。見学にしても体験にしても、そこから何を読み取るかは本人次第です。同じものを見ていても、気づきの量や切り口は人によって大きく変わります。

しかし、仮説を立ててそれを検証するという形をとることで、観察の質を高めることができます。これは前職で取り組んでいたWEEKDAY CAMPUS VISIT(高校生に大学の普段の授業を体験してもらい、進路選択に役立てるプログラム)から学んだことです。

私自身は、職場体験であろうと、インターンシップであろうと、就職活動であろうと、細かい商品・サービスの内容や業務内容の理解は必要ないと思っています。結局は入ってみないと分かりませんし、技術革新によって大きく変わる可能性もあります。

それよりも、その仕事にどんな意義や価値があるのか、誰に対してどのように役立っているのか、そういったことを考え、またその視点をもって様々な仕事を見られるようになることが大事だと考えます。

日南市マーケティング専門官の田鹿さんと、アイドルプロデューサーのMAKI先生の打ち合わせ。受け入れている社会人同士の打ち合わせが入ることも(日南市マーケティング専門官の田鹿さんと、アイドルプロデューサーのMAKI先生の打ち合わせ。受け入れている社会人同士の打ち合わせが入ることも)

子どもを子ども扱いすることで「学ぶ」機会を奪っている

ここで、高校生の参加者の気づきをいくつか共有いたします。

Aさん(高校2年生)

Q. 今回のジョブシャドウイングを通じて、学んだことを教えてください。

自分自身も地域活性化のために地域の魅力を発信する高校生団体を作り、リーダーをしています。同行した方も、同じくまちづくりのリーダーとして長く活動されている方でしたが、実際の仕事を見ることによって、「常に初心を忘れない」「低い姿勢を持って接する」「客観的に見る」「他人の意見をしっかり聞く」「新しいことに挑戦する」「高齢者を上手につかう、生き生きとした場をつくる」といった様々な大事なことを学びました。

Q. 今後の働き方や生き方を考える上で、どんなことを大事にしたいと思いますか?

自分も町を変えたいと思っているのですが、そのためにはお金や人脈や知識が必要だと学びました。多くの収入を得られるよう、また知識をつけるためにも勉強をしっかり頑張りたいと思います。人脈を築くためには人と積極的にかかわり、交流を大切にしたいです。さらに町を変えるという点では、ダメなところではなく、良いところに目を向ける姿勢を大事にしたいと思います。

南郷包装の工場にて、発泡スチロールの材料を見せていただく(南郷包装の工場にて、発泡スチロールの材料を見せていただく)

Bさん(高校2年生)

Q.今回のジョブシャドウイングを通じて、学んだことを教えてください。

仕事=大変というイメージは前からありましたが、認識が甘かったです。仕事はやっぱり大変だという思いが強まりました。けれど、人と関わることができる場でもある、という新しい考えもうまれました。また、私は人前で話すのが苦手なのですが、それは上手く話せなくなるからであって、話すこと自体はむしろ好きだということを発見しました。それは事前学習会や振り返り会で人と話すことで気づけたことで、今回のジョブシャドウイングに参加できて本当によかったです。

Q.今後の働き方や生き方を考える上で、どんなことを大事にしたいと思いますか?

とにかく一生懸命にやること、そして自分を持つことを大事にしたいです。そのためには行動する勇気を持ち、自信をつけていきたいと思います。

くしまアオイファームにて、サツマイモの説明を受ける(くしまアオイファームにて、サツマイモの説明を受ける)

参加者の気づきの中で最も多かったのは、「コミュニケーションの大事さを知った」という意見でした。

ある参加者は「学校でもコミュニケーション力が大事だと言われてはいたけど、ピンと来ていなかった。社内の人に指示をしたり、商談の場で雰囲気を和ませたりといった様子を実際に見ることで、人との関係づくりが仕事のベースになっていることに気付き、初めて重要性が分かった」と言っていました。

中高生が来てくれるとなると、「あれも伝えたい」「これも知って欲しい」とつい説明を長くしたり、退屈しないかと色々と見学に連れて行ったり、あれこれ「おもてなし」をしがちです。

しかし、実際には中高生はこのように自分で気づき、学びとして言葉にすることができます。今回はそれぞれの受け入れ先と事前に打ち合わせを行い、おもてなしにならないよう何度もお願いをさせていただきました。

もちろん、ずっとデスクワークでは心苦しいからと打ち合わせをあえてその日に入れるなどの調整は入りましたが、少なくとも職場見学ツアーにはならずに済んだと思います。社会人の方にも「参加の様子や感想を見て、川原さんが子ども扱いしないでほしい、そのままを見せてほしい、と散々言っていた意味がわかりました」と言っていただきました。

大人は何でも「教え」ようとしますが、それによって自ら「学ぶ」機会を奪っていることに気付かなければならないと思います。

NPO法人ごんはるにて、特産の飫肥杉を使ったバッグを制作する様子。作業中にも参加者が用意してきた質問に答えていただく(NPO法人ごんはるにて、特産の飫肥杉を使ったバッグを制作する様子。作業中にも参加者が用意してきた質問に答えていただく)

まちぐるみで子どもを育てる

移住して1年足らずでジョブシャドウイングを企画するなんて大変だったのでは、と言われますが、実は大きな苦労はありませんでした。市も教育委員会も協力的で、後援をすぐに決めてくださり、学校へのチラシ配布にも協力してくれました。社会人も、「地域の子どもたちのために良い企画だと思う」と、ほとんど二つ返事でOKしてくださりました。

日南市の人口は、5.3万人で高校が3校、中学校が11校あります。串間市は1.8万人で高校も中学校も1校ずつです。これくらいの規模のまちだからこそ、このようにスムーズに実施することができたと思います。お互いの顔が見える、だけど詳しく知っているわけじゃない、そんな距離感の規模です。

都市部であれば、「たった一人を受け入れても今後何かにつながる見込みはない」と断られていたかもしれません。もっと小さい規模のまちであれば、「ジョブシャドウイングなんてしなくてもまちの中ではつながっているから、もっと外の世界を見せてあげたい」となったかもしれません。

振り返り会には受け入れた社会人の方にも来てもらい、中高生の発表に対してコメントをいただきました(振り返り会には受け入れた社会人の方にも来てもらい、中高生の発表に対してコメントをいただきました)

中高生が仕事の意義を知り、考えるための手段は数多くあり、ジョブシャドウイングはその手段の一つに過ぎません。また、ジョブシャドウイングそのものもどういった形でやるのかは主体ごと、地域ごとに変わるはずです。私自身も、このまちの大人がこのまちの子どもを育てる一つの窓口として、このジョブシャドウイングをまちの人と一緒に育てていきたいと思います。

Author:羽田野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

学校内外の教育支援や企業研修のご依頼をお受けいたします!

現在、宮崎県内を中心に、①学校内で行われるキャリア教育やプロジェクト学習、進路指導などを支援(学校支援事業)、②学校外での教育プログラムの企画や教育に携わる社会人向けの研修(社会教育事業)、③社員の採用や育成に関するコンサルティングや、社員研修の企画・講師(企業研修事業)などを行っています。宮崎県外の場合、オンラインでのご相談や、同様の活動をされている方のご紹介も可能です。お気軽に下記・ホームページよりご連絡ください。

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