放課後

子どもの新しい放課後の居場所「しゅくだいカフェ」とは?(後編)-地域密着の中小企業が拠点となり、全国に広がりはじめる!

2019年3月、大阪市東淀川区の「しゅくだいカフェ」=「放課後スペースviva!」を運営してきたメンバー(本川誠・中井まひる・武田緑)が理事となり、一般社団法人宿題カフェ運営サポート協会(SCUSK / すくすく)を設立しました。「地域で『しゅくだいカフェ』を始めたい!」という企業や団体の方に向けて、オープンまでと、その後の運営継続のサポートをしています。

子どもの新しい放課後の居場所「しゅくだいカフェ」

「しゅくだいカフェ」は、運営自体にそれほど専門性が必要なく(向き不向きはありますが)、思いがある方ならどなたでも始めやすいのが特徴です。近年、広がりを見せている「こども食堂」も同様の「始めやすさ」が特徴ですが、「しゅくだいカフェ」は、食事を出すわけではなく、衛生面などの配慮が必要ないことからさらにハードルが低い形態となります。

ですが、意味はとてもあります。子どもたちは今、将来のために力をつけることや、意味ある時間を過ごすことを求められがちです。「雨風がしのげて、冬暖かくて、夏涼しいところ」「ただいていい場所」が、地域にあることはとても重要です。

前編でも書いたように、専門家ではない「まちの大人」が、こどもたちと関われるチャンネルを拓いていくことで、こどもたちを支えるネットワークの裾野を広げていくことを目指し、「しゅくだいカフェ」というこどもの居場所のスタイルを全国に広げる動きがスタートしました。

地域密着型企業のブランディング事業として

「しゅくだいカフェ」が始まった大阪市・東淀川区でも、地域の思いのある方々のボランティアで、こども食堂や学習支援などの取り組みがここ数年でどんどん生まれています。しかし、その頻度や、関われる子どもたちの数にはやはり限界があります。

さらに裾野を広げていくために私たちが着目したのが、地域密着の事業をされている「地元の中小企業」の皆さんです。実際、「しゅくだいカフェ」を始めたメンバーのうち、本川さんと中井さんは、それぞれ新聞販売と福祉用品レンタル・内装工事などの事業を、東淀川区内の方を「お客さん」として展開している「地元の企業の人」です。本川さんはこう言います。

地域密着型のサービス業は、商品やサービスを売る前に地域の皆さんから信用を得ておくことが基本です。本来、その会社でしか売っていない特別なもの以外、そこで買う理由ってないですよね。それでも、『この会社から買いたい』と思ってもらうには、地域の皆さんに応援してもらえるブランディング事業が必要だと考えたんです。

しゅくだいカフェ・本川誠

しゅくだいカフェを全国に広げたいと思った理由は2つあって、ひとつは、全国の子ども達とその親に、『安心・安全に学び遊べる場所』と『幸せな夜の2時間』を届けたいから。そしてもう一つは、地域密着型の中小企業を助けになりたいからです。地域密着型の中小企業はどこも限られたリソースで地域のために頑張っています。

私自身が、地域密着型の中小企業の社長で、売り上げの減少、人手不足、リスクコントロールなどに長年悩んできました。でも、『いえサポ』や『しゅくだいカフェ』を始めたことで、それらの悩みの大半が解決したんです。こうした地域貢献のブランディング事業は社長の悩みの解決の糸口です。そのことを広く伝え、『まだまだ諦めるのは早いですよ』と全国の中小企業の背中を押したい気持ちがあります。

福島県・会津若松にできた「寺子屋キッズ21」

記念すべき全国展開の最初の拠点となろうと手をあげてくれたのは、福島県・会津若松で新聞販売店を営むココロコーポレーションの竹重智さんでした。

ちょっとコワモテな見た目に反してチャーミングでやさしい方で、こどもが大好き。これまでにも紙飛行機大会や中学生新聞など、「この街でも地域の子どもたちが楽しめたり成長できることを!」と思い、自分なりに、地域貢献に取り組んでこられた方です。

福島県・会津若松で新聞販売店を営むココロコーポレーションの竹重智さん

いろんな事情があって、約30年前から娘さんを1人で育ててきたという竹重さん。「当時は、死に物狂いで仕事と子育てに奔走し所々記憶がない」というぐらいだったそうです。

娘さんに寂しい思いをさせてしまったり、苦労をかけてきたなぁという思いと、1人で子育てをしてきた時に感じていた大変さ、そして「メシを食わせてもらっている会津若松に対する恩返し」の思いが重なって、本川さんの呼びかけにいち早く反応してくれました。

オープン当初から新聞掲載に加え、テレビ取材が入るなど、地元の注目度も高く、またもともと地域貢献活動に熱心で地域内のネットワークも濃いこともあり、月額寄付サポーターがたくさん集まっています。

地元のNPOの方がタブレットを寄付してくださったり、ご近所の方が食器を寄付してくださるなど応援者もじわじわ。先日はとある常連の子の親御さんがメダカをくれたそうで、みんなで育てはじめたのだとか。

月に一度、その月生まれの子の誕生会をしてその時はケーキを振る舞うなど、独自のアイデアで、子どもたちの楽しい時間と空間を生み出してくれています。

福島県・会津若松にできた「寺子屋キッズ21」

「仕事が大変な時も、ここの子たちが癒しなのよ」「元気をもらいに俺もここに来るの」と笑って語ってくれる竹重さんは、子どもたちに「シゲセン」と呼ばれ、愛されています。

徳島県・徳島市にできた「ファミリースペース富田」

東淀川・会津に続き、「しゅくだいカフェ」がオープンしたのは徳島県。運営者は、こちらも地域で新聞販売店を営む七田伸也さんです。

「ファミリースペース富田」七田伸也さん

「地域に根を張り、その街に生きる方々と、息長くお付き合いを重ねていく。それが、私の考える新聞販売店の在り方です。これまでにも、生活支援サービスや「健康教室」などに取り組んできましたが、この『しゅくだいカフェ』も、地域のこどもたちの支えになる場をつくりたいとの思いでスタートすることを決めました」

オープンした今年4月当初は、初日は子どもが誰も来ず、不安な思いもされましたが、今では毎日子どもたちで賑わい、すっかり楽しい居場所として認識されています。

徳島県・徳島市にできた「ファミリースペース富田」

1学期間運営してきて、どう感じられているかを伺うとこんな答えが返ってきました。

・始めてみて学ぶことや感動が多く、本当にやって良かった。
・驚くほど地域の皆様から応援を頂いた。
・色々と問題が起こるかな?と心配していたが、特に何も起こらなかった。
・日を追うごとに、「近所の子」が「大切な地域の宝物」に思えてきた。
・初対面の大人でも臆することなく接していける子どもたちの順応性に凄さを感じた。
・困った時に助けてくれる人はいるんだと思った。特にボランティア先生の多さには感動した。
・子どもの見守りって、お互いにその子を知っていて、関心を持っているからできるのだと気がついた。

地域で「しゅくだいカフェ」をはじめませんか?

「こども食堂」も同じだと思いますが、実際にこどもたちと出会い関係が築かれていくと、目の前の子たちが、抽象的な「こども」「近所の子」から、「〜ちゃん」「〜くん」と現実的・具体的な存在に変わっていきます。すると、こどもに対する認識が変わっていきます。具体的にこどもと関わることで、大人の側が変わっていく、ということです。それが、「こどもの居場所」の持つすごい力だと思います。

「しゅくだいカフェ」を広めていこうとしている本川さんが新聞販売店の方なので、現在は新聞販売店の方を中心に「『しゅくだいカフェ』をやってみたい!」という機運が高まってきていますが、もちろん、主体となられる方や団体の業種は問いません。カフェのオーナーの方や、空き物件を持っている家主さん、紳士服屋さんなど、様々な方からのお問い合わせを頂いています。

こどもと関わった経験や、こういうボランティア活動・市民活動・地域貢献活動の経験が全くない方も、「宿題カフェ運営サポート協会」が立ち上げから伴走し、サポートします。ぜひ、まずは気軽にはじめて頂いて、そして、簡単にはやめられなくなってくださるといいなあ(笑)と願っています。

アナタのまちにも「しゅくだいカフェ」をつくりませんか?

アナタのまちにも「しゅくだいカフェ」をつくりませんか?

「しゅくだいカフェ」の取り組みを全国に広げるべく、「一般社団法人宿題カフェ運営サポート協会(SCUSK)」が立ち上がりました。地域でしゅくだいカフェを始めたい!という企業や団体の方に向けて、オープンまでと、その後の運営継続のサポートをしています。ご興味がある方は、下記からお問い合わせください。

詳細はコチラから

Author:武田緑
人権教育・シティズンシップ教育・民主的な学びの場づくりをテーマに、企画や研修、執筆、現場サポート、教育運動づくりに取り組む。主な取り組みは、全国各地での教職員研修や国内外の教育現場を訪ねる視察ツアー「EDUTRIP」、多様な教育のあり方を体感できる教育の博覧会「エデュコレ」、立場を越えて教育について学び合うオンラインコミュニティ「エデュコレonline」、学校現場の声を世の中に届ける「School Voice Project」など。
著書に「読んで旅する、日本と世界の色とりどりの教育

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