放課後カナダ

受験がないカナダの放課後の過ごし方-様々な体験から非認知能力を伸ばす放課後に

高校や大学のみならず、中学校でも受験をするのが一般的になってきている日本。以前に比べて子どもたちの放課後や家庭での過ごし方も変わってきています。もし、受験がなかったら、放課後の塾がなかったらと思ったことはありませんか?もっとのびのびと興味のあることを勉強し、友達とも楽しく過ごせたかもしれません。

「受験がないと子どもが勉強しなくなって、子どもの学力が低下する」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。今回は、受験がなくても優秀な子どもたちが育つカナダの教育システムについてお伝えしたいと思います。

受験がないカナダの放課後の過ごし方(photo by CITY OF SURREY:School Programs)

今回の記事を執筆する上で、まずカナダ人の優秀な3名の方にインタビューをしました。それに加えて私は20年以上カナダに住んでいますが、その間に出会ったたくさんのカナダ人たちのお話を参考にご紹介します。

自然の中で遊び、自分の興味のあることを学ぶ

インタビューをした一人は、現在、UBCというカナダでトップ3に入る大学で化学を勉強し、トップクラスの成績を収めている大学生です。もう一人は、私の友人でカナダのバンクーバーの教育委員会に勤務している先生です。最後の一人は、私の大学時代の親友です。優秀な成績をとって、その後、弁護士や検事になった人のお話です。

3人に「どのように幼少期過ごしましたか?」という質問をすると、UBCの大学生は、「田舎だったので、たくさんの友達と森を探検したり、馬に乗ったりしていた。あとはとにかく本が好きで、一年を通じて本を読んでいた。それとスピードスケートに興味を持ったので、アイススケート教室に頻繁に通っていた。」と答えてくれました。

学校の先生の友人は、「とにかく本が好きで本をたくさん読んだり、物語を書いていた。」と言っていました。検事になった友達は、「幼稚園から高校までモンテッソーリ教育の学校に通学して、工作やアートを通じて、体験的に楽しく勉強した。」と話していました。また、先の大学生と同様に、森の中でたくさん遊んだ経験もあったそうです。

3人に共通しているのは、とにかく地頭が良いという点です。理解力、スピード、暗記力、応用力、全てに関してずば抜けています。そして、勉強していることをとても楽しんでいます。

化学を勉強している大学生は、30年後に役立つだろうと思われる薬の製造に関する研究者を目指しています。学校の先生は、青少年育成に生きがいを感じており、先生になりました。検事の彼女は、ずっと言っていた夢をあっさり叶えました。

誰も塾に通学したことはありません。学校の勉強にしっかり取り組み、トップクラスの成績を収められるようになりました。カナダでは、公立も私立も基本的に州の文科省がカリキュラムを管理しています。

(photo by CITY OF SURREY:School Programs at the Surrey Nature Centre)

カナダの子どもたちの放課後とは?

放課後の活動は、習い事ばかりではなく、遊ぶ時間も大切にしている家庭も多いです。

小学校の下校時間の際は、お迎えに来たご両親が子どもを見ながら、そのまま残って遊んでいることも頻繁でした。放課後のプログラムでは、読む力を伸ばすクラスや、「Mini Chef」というお料理を学ぶクラス、「Second Up」や「Mind Up」といって、心配や不安の感情をどうコントロールするかといったクラスも、学校が地域と協力して開講しています。

小学6年生から中学生に対しては、宿題を一緒に行うクラブがあり、学校の先生が担当しながら塾のような役割を担っています。様々なクラブ活動もあります。

カナダの中学、高校にあるクラブ活動は、バレーボールやバスケットボール、野球、ラグビー、サッカーといったスポーツの他に、地域でボランティア活動をしたり、国連のことを学んだり、ロボットをつくるクラブや、ゲームを一緒に行うクラブなど本当に多種多様です。

高校になると、放課後の時間の使い方として、学校のクラブ活動とアルバイトに取り組む生徒が多いです。カナダでは、16歳になると大人の仲間入りで、そこからは自立していくためのライフスキルを身につけるようになります。高校の単位として、仕事経験は必須となっています。また「Peer Tutoring」といって、勉強ができる生徒が後輩を教えるシステムもあります。

放課後のプログラムについては、学校の施設内で行われているものは無料です。地域のコミュニティセンターが行っているものも、税金で運営されているため、安価で参加することができます。それぞれにコーチやスタッフがついて、子どもたちの活動をサポートしています。

カナダで良い大学に入学する上で、もちろん学校の成績も大切ですが、人間性も重要な評価の対象となります。勉強がとても出来てオール5の学生より、多少成績は劣っていても、生徒会やクラブ活動に取り組んだ経験のある学生を優先する傾向もあります。

人間性は、社会に出て、色々な人と一緒に働ける対人力、問題を解決する能力、精神的に安定していることなど、社会で働く上で必要となるスキルは、たくさんあります。近年、日本でも重要性が指摘されている、「非認知能力」にあたるものとなります。カナダでは、そのようなスキルが教科の成績と同じぐらい大切と考えられています。

受験がないカナダの放課後の過ごし方(photo by CITY OF SURREY:Heritage School Programs)

幼児期からの一貫した教育システム

人間の脳は、同じことばかりしている脳と、複雑なことや、想像力を働かせている脳では、実際の脳の発達状況が生物学的に変わってきてしまうことは、研究で分かっています。カナダの幼稚園や小学校では、五感を鍛えること、脳回路をしっかり作ること、そして、社会性、人間力、自己肯定感の基礎となる土台を作るようにしています。

キーとなるのは、「幼少期の教育で何を目的にしているのか」ということです。

カナダでは、小さい頃から子どもにたくさんの本の読み聞かせをしますが、それはまず英語がしっかり身につかないと、その後の学習に影響するからです。子どもは興味をもったら、あとは自分で学んでいきます。「プロジェクトベース」の体験学習を通じて、興味のあるテーマについて研究したり、分析したりしてより深く物事を理解する能力を伸ばします。

そして、最も大事にしていることは、Social Skill(社会性)、Life Skills(生きる力)、Self-regulation skills(自分の感情やストレスをどうコントロールするか)を学ぶことです。そして何よりも個人のSelf-confidence (自分の価値への自信)を育てることが不可欠だそうです。

受験がないカナダの放課後の過ごし方(photo by CITY OF SURREY:Day Camps at Surrey Nature Centre)

教育委員会に勤めている先生は、勉強の点数だけで子どもが評価されてしまうと、それがうまくいかない時にとても精神的に不安定になってしまうということと、生きる上で必要な知識は学問だけではないので、社会に出て必要なスキルを早くから身につけることが大切だといっていました。小学校では、特に社会性を身につける上で大切なことは、校庭で遊んでいる時だといっています。

将来的にどんどん国際化が進む中では、日本も諸外国と協力して社会を発展させていく必要があります。少子化問題は深刻ですから、今の若い人たちを大事に育て、全員に成功してもらう必要がある時代だと思います。受験して良い大学に入学することより、社会で自立できる力、全員の子ども達に成功してもらう教育システムの構築が必要になってきていると思います。

カナダの教育システムから学ぶことはたくさんあると思います。もう少し応用力や想像力、人間力も身に着けていけるように、日本の教育システムも新しい時代に合わせ、新しい方法を取り入れていく時かもしれません。

Author:細越美和
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。
2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。
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