(特定非営利活動法人サンカクシャ 代表理事 荒井佑介さん)
小中学生の学習支援を経て、若者支援NPOの設立へ
「子どもが生まれて高校を退学しちゃって。人生やり直したいし、この子のために頑張りたいから高卒認定試験のための勉強を教えてほしい」
私が以前、小中学生向けの学習支援団体で勉強を教えていた女の子から、ある日このような連絡を受けたのが、私が今、サンカクシャの代表として若者支援をしている最初のきっかけと言えると思います。
その学習支援は中学生までが対象でしたが、他にも高校進学後に勉強を教えてほしいという子や、トラブルに巻き込まれてしまったという子からの連絡が相次ぎました。
そのような子たちと会うための場所がなかったので、ファミレスやマクドナルドで勉強を教えたり、話を聞いていたところ、その姿を見た地域の方々が、場所を貸してあげようかと申し出てくれて、豊島区で築80年の古民家を使わせてもらえるようになりました。そこに若者たちが集まってきて、20~30人ぐらいが利用するようになってしまい、自然発生的に高校生年代の若者たちの居場所づくりが始まりました。
(当時、学習支援を行っていた時の様子)
私が、孤立や貧困などさまざまな困難を抱える人たちを支援する活動を始めたのは大学時代に遡り、約15年前になります。最初はホームレス支援に関わり、小中学生向けの学習支援を経て、高校生以降の若者の居場所づくりを始めました。4年前に15〜25歳前後の若者を対象とするNPOとしてサンカクシャを立ち上げ、現在は主に18歳から20代前半の社会から孤立した若者が、さまざまな経験を積みながら社会と繋がり、自分の道を進んでいけるようサポートしています。
本記事では、私が日々若者と接している現場で起こっていることや、そこから見えてくる今、必要とされる支援、若者に寄り添い続けるNPOが抱える課題についてお伝えしたいと思います。
路上での出会いから感じたこと
若者支援に至るまでの経緯をより詳しくお話しすると、大学入学後、学校があまり好きになれず、1年生の時に街をふらふらしていたら、新宿駅で階段に急に座り込んだ中年男性がいて、「大丈夫ですか?」と声をかけると「俺はホームレスだ!」と言って、一方的に身の上話を聞かされました。それからそのおじさん達と交流する中でホームレスの実状を教えてもらい、ホームレス支援に携わり始めました。
その活動の中で、比較的年齢の若いホームレスの方に多く出会い、自分とあまり年齢が変わらない若い人がなぜ路上に出でしまうのかということに感心を持ちました。そこで当事者に話を聞くうちに、幼少期からいろんな課題があったということがわかってきて、そこから子どもの貧困に関心を持つようになりました。
その頃、ビッグイシュー(※1)が埼玉支部を立ち上げるタイミングで、インターンとして手伝いをしていたのですが、ちょうど埼玉県で子どもの貧困対策のための学習支援「アスポート事業」が始まることを知り、自分の地元で子どもの貧困問題の対策が展開されることに興味を持って参加したのが、学習支援を始めたきっかけです。
その後、池袋の学習支援団体でボランティアをして、そこで出会ったのが冒頭に書いたエピソードの子たちです。その後もずっと関わり続け、気づいたら居場所を運営していて、4年前、29歳でサンカクシャを立ち上げ、現在に至ります。
※1:「BIG ISSUE」という雑誌を制作し、ホームレスの人にそれを路上で販売する仕事を提供し自立を支援する事業
15歳・18歳で途切れがちな公的支援
2010年ぐらいから「子どもの貧困」という言葉が社会に広がり、学習支援や子ども食堂が地域で生まれていく中で、ほとんどの支援は小中学生に集中していると感じていました。小中学生の支援が手厚くなることはとても良いことなのですが、自分が中学生のサポートをしていた時に、高校進学後も彼らの抱える問題が解決してはいないことに気づき、継続したサポートが必要だと痛感したんです。
一方で公的な支援制度をみてみると、当時は「子ども支援」というと対象は中学生までを指すことが多く、あとは幼児期の支援を早期にするという傾向が強かったように感じていました。それから、地域という観点では、東京都では小中学校は市区町村の管轄ですが高校は都の管轄で、中学校と高校の連携はありません。
(サンカクシャの活動:ゲームをしたり、会話をしたり自由に時間が過ごせるサンカクシャの居場所「サンカクキチ」)
さらに、児童福祉法で規定されている児童福祉施設は、原則18歳までしか支援ができないため、18歳になると公的支援が途切れやすいということもあります。このように、公的支援には15歳と18歳で支援が途切れやすいという問題があります。
また、私が地域で支援をしていた時に、ボランティアの支援者は子育て世代や定年を迎えた方が多く、年齢の隔たりから思春期以降の子たちの対応は難しくなってくるということもありました。ここに年齢が近い私たちが関わる余地があったということも、15歳以降の若者の支援に注力してきた理由の一つです。
年齢が上がるにつれ、居場所を見つけづらくなる
2023年4月に発足したこども家庭庁が公表した「こどもの居場所づくりに関する調査研究」の中のアンケートでは、「家や学校以外に居場所がない」と回答した割合は、13~15歳35.5%、16~18歳38.5%、19歳以上41.2%と、13歳以降、年齢が上がるにつれ高くなっています。
(内閣官房 こども家庭庁設立準備室:令和5年3月こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書より抜粋)
また、19歳以上の若者の居場所がない理由は、「住んでいる地域に、そのような場所がないため」が48.1%と半数近くになっています。この結果は、私たちの現場での実感と一致しています。
(内閣官房 こども家庭庁設立準備室:令和5年3月こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書より抜粋)
サンカクシャは、設立当初から15歳〜25歳くらいの若者を対象としてきましたが、近年、高校生の居場所作りに取り組む団体が増えてきたこともあり、利用者の多くが18歳以上になってきています。18歳を超えて居場所が必要な若者の行ける場所が少ないため、関東近辺各地から問い合わせが来ている状況です。全国的に若者の居場所を増やす必要があると感じています。
人間関係を築けず、行き場を失う若者たち
サンカクシャにつながる若者の多くが幼少期から家庭環境で苦労しています。例えば、箸の持ち方が違うだけで親が手をあげたり、兄弟と比較されてその子だけ虐待のターゲットになってしまったり、「お前なんて産まなきゃよかった」というような言葉による暴力を受けるケースです。
こういった環境で育つと、人間を信用することが難しくなるので、学校や職場でも人の中にいると過剰なストレスを感じやすくなります。その結果、家に引きこもってしまう若者も多いのですが、逆に家を出てしまって過酷な環境に置かれている若者もいます。小さいうちは家にいる他に選択肢がありませんが、10代後半以降、自分の意思で家を出る選択をしたものの、社会の中で居場所を見つけられない若者がいるのです。
また、高校進学後は義務教育ではないので中退してしまうことがありますし、年齢が上がれば上がるほど交友関係が広がったり、アルバイトで働く機会も増えるので、社会の中で人間関係を築く力がないと、どこのコミュニティにも馴染めないということになってしまいます。
その結果、あちこちで傷つく体験を重ね、孤立感・孤独感が強まり、自信や意欲を失ってしまいます。周りは仕事をしてるのに自分はしていないというように、他人と比較して自己否定をするようにもなります。
(サンカクシャの活動:居場所では若者とスタッフが一緒に晩ご飯を作って食べる)
孤立した若者が安心して頼れる人を見つけられないと、犯罪の被害にあったり、「貧困ビジネス」と呼ばれるような若者から搾取する大人や危険なコミュニティに接触するリスクが高くなります。最近はSNSで簡単に誰とでも繋がれてしまうので、行動力がある子はトー横(※2)に溜まったりもします。
このように10代後半から20代半ばくらいの若者にはこの年代特有の課題があるため、小中学生までの子ども支援とも成人以降の幅広い年代を対象とする支援とも異なる支援が必要なのです。
次回は、現在、特に深刻化している、帰れる家がなかったり、家出をした若者が直面する住まいの問題について書いていきたいと思います。
※2:新宿歌舞伎町、TOHOシネマズ横の通路に溜まる若者たちのコミュニティおよびそのエリアを指す言葉。
特定非営利活動法人サンカクシャ・代表理事。1989年埼玉県出身。大学生時代からホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を多く見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。サンカクシャでは、15歳から25歳前後までの親や身近な大人を頼れない若者の「居場所」「住まい」「仕事」の3つをメインの支援として実施している。
親や身近な大人を頼れない若者をご支援ください!
人が生きていく上で、安心できる人とのつながりが欠かせません。それを獲得するための「居場所づくり」。また、生きていく上で必要なお金をどのように稼ぐか、どのように生きていきたいかも含めた「仕事のサポート」。そもそも、住まいすら失う若者も近年増えているため、生きていく基盤となる「住まいのサポート」。サンカクシャでは、これらを通じて、若者が生き抜いていけるように活動しています。ぜひ、若者の「いま」と「これから」を寄付でご支援ください。