都市部での待機児童問題が頻繁に取り上げられるようになり、保育園や保育士の不足など保育の「量」について、よく議論されるようになりました。
2015年に「子ども・子育て支援制度」が施行され、場所の確保が難しい都市部では、専用の園庭や建物をもたず、空き家やマンションなどの一室を保育の場として使用する小規模保育が認可事業となり、大きな広がりを見せています。
従来の中規模保育よりも場所が狭く、運動や生活面などで支障が出たり、保育士資格取得者の比率に対する規制が緩くなることで、保育の「質」に影響が出るのではないかという懸念がされています。
近年、幼少期の保育・教育が子ども自身のその後の人生に影響を与えていることも様々な研究から明らかになっています。
「まずは、保育所に入れることが第一!」という声とともに、「子どもにとって良い保育・教育を受けさせたい」という声も少なくありません。
我が子をどんな保育園に行かせるか考えた時、園の規模や保育士数など、どの点が保育の「質」を考えるうえで重要なのか親としては知りたい点です。先日、保育の「質」を考えるうえで、興味深い研究結果が公表されました。
小規模保育園と中規模保育園の1歳児クラスを比較した研究
慶應義塾大学の藤澤啓子氏・中室牧子氏は、東京23区及び三鷹市、神奈川県横浜市及び大和市において、六事業体(NPO法人5,社会福祉法人1)により運営される小規模保育園20園(A型11園、B 型7園、C型2園)及び中規模園7園の1歳児クラスを対象に行った研究結果を公表しました。
この研究では、小規模保育園および中規模保育園の保育環境を定量的に評価し、保育の質に関わる諸要因(保育環境、担当保育士の保育士資格取得に至る学歴及び保育士歴、園規模、子ども対保育士比)と子どもの発育状況との関連を検討しています。
なお、「保育の質」については、国際的に広く利用されている保育環境評価スケール乳児版(ITERS-R)を用いて、トレーニングを受けた調査者が保育園に実地調査し、7つの要素(空間と家具、個人的な日常のケア、聞くことと話すこと、活動、相互関係、保育の構造、保護者と保育者)から構成される37項目について保育環境を評価しています。
ITERS-R は、また、「子どもの発育状況」については、乳幼児発達スケール(Kinder Infant Development Scale)を用いて、クラス担当保育士が子ども一人ひとりについて、乳幼児発達スケールに回答しています。
重要なのは「保育環境の質の良さ」と「保育士歴の長さ」
この研究の結果によれば、全般的には小規模保育園の方が中規模保育園よりも保育環境の質が良好であることが示されました。また、「保育環境の質の良さ」と担当保育士の「保育士歴の長さ」は、1歳児学年末における「子どもの発育状況」に関連することが明らかになりました。
「保育園の規模」や「子ども対保育士比」、「担当保育士の保育士資格取得に至る教育歴」は、「子どもの発育状況」に関連性は認められませんでした。
(独立行政法人経済産業研究所:保育の「質」は子どもの発達に影響するのか―小規模保育園と中規模保育園の比較から)
研究結果から園の規模ではなく、子ども達が保育の中で生活し遊びや学びを経験する環境がどのように整備・保障されているかという保育環境の質の向上、保育士が健康的に長く業務ができるような労働条件や労働環境の整備に対する投資が重要であると指摘しています。
また、研究の中で見られた発達と保育の質を表す様々な変数の関係はあくまでも因果関係ではなく、相関関係である点には留意が必要であり、調査対象のサンプルサイズが小さく偏りがあるため、小規模保育園の方が中規模園よりも保育の質が良いと結論を出すのは時期尚早であるとしています。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。