居場所

「子どもの居場所づくり」をはじめる際に、まず考えて欲しいこと-大人がやりたいだけの活動にしない方法とは?

子どもの学習支援

「無料塾・学習支援」「子ども食堂・生活支援」が注目され、全国各地に増えた2019年。「子どもの貧困」への一つのアプローチとして、行政の補助金や民間の助成金も増え、活動をはじめたいという方も出てきました。

しかし、活動をはじめてみると「思っていた活動や展開と違う!」という声もよく聞くようになりました。そこで、今一度、子どもの居場所づくりについて考えてみました。

地域の子どもたちの声を聞いてみることが第一

「居場所づくり」という活動をはじめる多くは大人です。その大人の多くは、社会や子どもの状況、見聞きする事前情報をきっかけにはじめています。そのこと自体は、とても良いことだとは思います。

しかし、それは、大人たちは「どんなことをしたら良いか」を考える段階で、すでに他の地域等で行われている活動やニュース、新聞で紹介された活動に何らかの影響を受けていることになります。「いいな!」「これだっ!」と思った活動だからこそ、「これをこの地域でもやりたい!」と気がつけば、大人がやりたい活動になってしまいます。

きっかけは、それでも構わないのですが、ぜひ、そこから一度、地域の子どもたちの話を聞いてみてください。「こんな活動しようと思うけど、どう思う?」ということでも良いと思います。子どもの声を聞いてみることで、「大人が子どもにしたい活動」から「子どもが大人としたい活動」になっていきます。順番を意識してみてください。

常に「やっている」ことを求められている現状

活動にやってくる子どもからしばしば「疲れた」「休みたい」「眠い」という声が上がります。活動にやってきて第一声が「疲れた」ということもよくあります。

子どもたちは学校では勉強を中心にやることがたくさんあります。朝から夕方までしっかりやることがあれば疲れるのは当然です。従来であれば、そんな疲れを癒すのは家庭であったかもしれません。しかし、家庭でも宿題や習い事、明日の準備、スマホなどで友達とのやりとりなど「やること」が多いのが現状です。疲れたと言っても「宿題したの?」と言うように、先にしなければいけないと注意されることもあります。

もちろん、親は子どもが困らないため、しっかりして欲しいからこそ、注意したり、やるべきこととして指示をするわけですが、それが子どもにとっては「何かをしなければ、そこにいてはいけないような状況」を作り出してしまいます。さらには、食事や入浴、就寝もすべきことになってしまいます。はたしてそのような状況で「休まる」のでしょうか?

第1の居場所、第2の居場所とよく言われている家庭や学校が、何かをしなければ、そこにいることを許されない場になっている現状では、「何もしなくてもよい」「そのままでよい」というような「休む・回復する」する時間が減っています。

そのような状況で、地域が子どもの第3の居場所を作ろうとします。ここで子どもが求めるのは「何かをする場」なのか、「休んで回復する場」なのか、みなさんが関わる子ども達と話しながら考えてみて頂けると嬉しいです。

個人的には地域で改めて作る場だからこそ、「休んで回復する場」を意識して欲しいと思います。

スタッフミーティング(子どもの居場所づくりの取り組みへの意見交換をする筆者)

「何かする場」と「居たくなる場」

高齢世代の方の暮らしには、「今日行く所」と「今日の用事」が大切だと伺うことがあります。立場として「何かをさせられる」ということがあまりなくなった方だからこそ、「休む場」よりも「何かをする場」が大事ということだと思います。

しかし、基本的に大人から「何かをする場」を与えられている子どもにとっては、「休む場」の方がバランスが良いのだと思います。何よりも「やることがないとそこにいてはいけない」というのは、「何かをする場」は「居づらい場」であるかもしれません。そのような子どもには、「居たくなる場」「居るだけでよい場」という視点も大事だと思います。

そのような「居たくなる場」は、「することが決まっている場」と比べると居たくなるポイントが多様であるため、一箇所にたくさんより、ある程度の範囲に、小規模でも多様な場がたくさんある方が良いと思います。

その時に大人は、子どもたちのどこに応えられるのかを考えて、形にしてほしいと思います。そして、活動をはじめてからも何度も子どもたちの声を聞き、より良い居場所を目指して欲しいと思います。

「問題が起きること」は、問題ではない

2018年3月に京都市の子どもの居場所づくりアドバイザー事業の一貫で作成した子どもの居場所づくりのすゝめ」では活動をはじめる際に7つのポイントをご紹介しています。順番というよりはそれぞれ7つをことあるごとに確認してほしい、立ち返ってほしいポイントでもあります。

京都市子どもの居場所づくりのすゝめ(京都市子どもの居場所づくりのすゝめ)

もちろん、細かなことをあげればキリがありません。ポイントをチェックリストとしてしまうとチェック項目が細分化されていくだけで、完璧な状態になるまではじめられません。そんな形でできた場ができたとしても、必ずしも子どもたちにとって求めている場になるわけではありません。

ある程度のポイントが定まり、方向性が見えれば、あとはそこで過ごす子どもたちと、その場、その活動について前向きな意見の交流を活動ごと、関わりごとに重ねることが大事です。「問題が起きること」は、問題ではありません。

いろんな人が出会うのですから「ズレ」はあるのは当然です。そのズレに大人達がどのように向き合うのかという姿勢が重要です。結局、力のある人がやりたことを実現する場なのか、子どもたちが「居たくなる場」になるように子どもたちの声に耳を傾け、共に作る場なのか、常に意識してほしいと思います。

Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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