2013年6月に「子どもの貧困対策法」が制定されて以降、「子どもの貧困」に関する話題は増えたように思います。「日本の子どもの貧困率は15.7%。約6人に1人が貧困」等といった言葉は、メディアでも頻繁に取り上げられています。
「子どもの貧困」の話題を耳にしたとき、多くの人が驚くと同時に次のような感想を持ちます。
「日本に貧困の子どもなんて本当にいるのか?」
「今も目の前に下校途中の小学生の集団がいるけど、とてもじゃないけど6人に1人も貧困状態の子どもがいるようには思えない。何かの間違いじゃないか?」
しかしながら、「貧困」という言葉の定義について説明をすると、みんな急に納得します。
2つの貧困「絶対的貧困」と「相対的貧困」
貧困には二種類の定義があります。一つは「絶対的貧困」。
これは、生命を維持するために最低限必要な衣食住が満ち足りていない状態のことを指します。例えば、途上国で飢餓で苦しんでいる子どもや、ストリートチルドレン等はこれにあたるといえます。
もう一つの定義は、「相対的貧困」。
これは、その地域や社会において「普通」とされる生活を享受することができない状態のことを言います。
この場合、「貧困」であるか否かは、その人が生きている社会の「普通の生活」との比較によって相対的に判断されます。「貧困」の基準が、その人が生きている国、地域、時代等によって、変化することが「絶対的貧困」との一番の違いです。
最初に述べた「日本の貧困率」は、日本の「相対的貧困率」を指します。詳しい計算式までここでは説明しませんが、日本で相対的貧困状態といわれる所得のレベルは、「4人世帯の可処分所得が250万未満」くらいだとイメージしてください(OECDの基準を適用)。貧困の定義を説明したところ、ある方から次のような感想をいただいたことがあります。
「なるほど。それなら日本の貧困率が15.7%というのもまだ納得できる気がする。」
「つまり、相対的貧困とは絶対的貧困よりもマシな状態のことを指すんだね。」
私は、「それは違う」と言いたい。そんなにこの問題は単純ではありません。
「相対的貧困」は、ときに「絶対的貧困」と同レベルのダメージを人に与えます。
自分一人だけ放課後の予定が真っ白だった
私がこれまでに出会った高校生のお話です。彼は幼いときに両親が離婚し、母親のもとで育てられてきました。母親は十分な所得を得るだけの職に就くことができず、かなり厳しい経済状況の中で育ってきました。
そんな彼は小学校低学年の頃、クラスメートと放課後にみんなで遊ぶ約束をすることが、とても辛かったそうです。楽しい時間のはずなのに、どうしてでしょうか。
クラスの友達と遊ぶ約束をするとき、「この日はスイミング、この日は・・・」といった具合にみんなで放課後の予定を調整します。
彼は経済的な理由で習い事に行くことができませんでした。いつも仲間の中で「自分一人だけ」放課後の予定が真っ白だったそうです。「自分一人だけ、みんなと違う」ということは、彼にとって、とても辛い経験だったそうです。
日本の相対的貧困状態にある子どもたちが、心の中で繰り返す言葉があります。
「なんで、ぼくだけ?」
一つ一つの出来事はほんの小さなことかもしれません。しかしながら、日本の相対的貧困家庭で暮らす子どもたちは、生きていく中で、この言葉を何度も何度も繰り返します。
ある知人のNGO関係の方は、途上国の孤児院で絶対的貧困状態にある子どもたちの支援活動をしています。
その方が、最近日本で相対的貧困状態にある子どもと会ったときの感想が相対的貧困の持つ破壊力の大きさを物語っています。次のような感想をおっしゃいました。
「日本の貧困状態の子どもたちの方が、精神的な落ち込みが大きかった」
「周りのみんなにとっては当たり前の生活が自分だけ享受できない」という状態は、子どもたちに破壊的なダメージを与えます。
そして、「なんで、僕だけ?」を繰り返した子どもたちは、もうその言葉を言わなくなります。その代わりに、ある言葉を繰り返すようになります。それは次のような言葉です。
「どうせ、僕なんて」
「仕組み」と「現場」で子どもたちを支える
貧困家庭の子どもたちの支援にかかわる中で、「どうせ、僕なんて」を繰り返すようになってしまった子どもたちを支えることの難しさと直面しています。
様々な機会を失い続け、「あきらめ感」を持ってしまった子どもたちに対しては、単純な「機会保障」だけでは歯が立たない状況になってしまっています。
関西や東北で「学校外教育バウチャー」の提供を行う私たちチャンス・フォー・チルドレンは、「教育機会の平等」を目標に掲げて活動しています。
(バウチャー利用者をサポートする大学生ボランティア:ブラザーシスター制度)
子どもたちを川上で支え、あきらめてしまう子どもを生まない社会の「仕組み」を作ることが貧困の連鎖を断ち切るうえで重要であることは言うまでもありません。これによって多くの子どもたちを救うことができると信じます。
しかし、一方で、既にあきらめてしまった子どもたちを放っておくわけにはいきません。
彼らを支えるには、「仕組み」だけではなく、やはり「地域」「コミュニティ」といった現場の力が絶対的に必要です。貧困の連鎖を断ち切るためには、「仕組み」と「現場」をいかに連携させていくか?という点が、今後何よりも大切になると考えます。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば アドバイザー、学校法人軽井沢風越学園評議員。著書「体験格差」、共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。
経済的に困難を抱える子ども達の学習機会をご支援ください!
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、日本の子どもの貧困・教育格差という深刻な社会課題に対して「スタディクーポン」という新しい課題解決の手法で挑んでいます。経済的困難を抱えた子どもに、塾や習い事等で利用できる「教育クーポン」を給付することで、子どもたちが未来の展望を描き、夢に向かって学ぶ環境を提供しています。