本ウェブマガジン2014年7月号に掲載された『家庭や学校に居場所を失くし、孤立する「難民高校生」-難民生活から売春・性的搾取や違法労働などの犯罪へ』の記事を受けて、女子高校生サポートセンターColaboが主催する「夜の街歩きスタディーツアー」に参加してみた。
実際に街を歩きながら「難民高校生」の実態を学ぶことができるというこのツアー、果たしてどんな実態を目の当たりにすることになるのか。ツアーの様子を2回に渡ってお送りするシリーズ第1回目。ツアーに参加した本ウェブマガジン編集部・石井のレポートです。
普通の街中に危険な世界への入り口がある
女子高生という肩書きから卒業して早十数年…。当時の私は朝早くからお弁当を作り、空手部で朝練をし、授業を受けながら早弁をし、放課後は部活動。終わったら友達と行きつけのパン屋でおやつを食べながらおしゃべりして帰る…という平和で平凡な日常を送っていた。新宿に近かったため、部活がない日は新宿や渋谷に繰り出して友達とウィンドウショッピングをすることもあったが、毎晩家に帰って自分の布団ですやすやと眠っていた。
9月のとある日曜日、新宿駅に集合。
「夜の街歩きスタディーツアー」の案内役は女子高校生サポートセンターColabo代表理事・仁藤さんと、キャリアカウンセラーの稲葉さん。
今回は私と同じ団体に所属するボランティアスタッフの20~30代の精鋭とともに参加したが、開催した中では一番若い年代だそう。今までの参加者は50代くらいの高校教諭など、教育現場に携わる人が多かったとのこと。若い世代にも目を向けてもらえることは貴重だという話だった。
お二人によると、夜の街には、少女たちを誘うスカウトたちが何人もいるという。参加者たちは私も含めてそんなにいるとはわからないどころか、この時点ではスカウトと客引きの区別もつかない。説明を聞きながら、歌舞伎町の方へ向かっていくが、向かう途中の道にもスカウトがおり、ちょうど女子高校生と思われる少女に声をかけていた。
少女はついていく様子もなかったので、その様子を遠巻きに見ながらスカウトされやすい少女について説明を受ける。
一人で制服でキャリーケースを引いて歩いている子などが対象となりやすいという。キャリーケースを引く少女の中には、その中に洋服や日常品などを入れて、 夜な夜な街中を渡り歩いている子もいるのだとか。今まで、制服でキャリーケースを引いている子は「コスプレかなにかするのかな?」という風にしか思ってな かったので、早速「なるほどそういうことだったのか」と新たな気づきがあった。
また、自分がスカウトだとしたらどんな子に声をかけるかを考えながら歩いてみて下さい、と促された。そんな風に少女たちを見ながら街を歩いたことなどないので、戸惑いつつも実践してみることに。
しかし、最初はやはり見えない。仁藤さんや稲葉さんがところどころで立ち止まり解説をしてくれるのだが、私の目には入ってこないことも、やはりお二人の目には留まるようで、「そんなシーン全然見えてなかった!」ということがたくさんあった。そんな風にして、いよいよ歌舞伎町へと入っていく。
「知っている」と「知らない」の違い
仁藤さんのお話では、入口のあたりは規制が入り、今は客引き等がいないとのこと。 確かに、以前来たときに比べて歩きやすく、客引きしている人はまったくいなかった。「客引きがいないだけで道ってスッキリするな~」と思いながら歩いていた。しかし、中には2人の女子高生がガールズバーのチラシを配っている様子も伺えた。
また、繁華街やホテル街では、フルスモークの車が停まっているのを見かける。それについて仁藤さんから再び説明があった。「時には、これから売買される少女が乗っていたりもします。行き場のない少女を車の中で待機させて、仕事のときだけその場に連れて行き働かせている、という手口もあるんです。スモークの車を見る度に『もしやこの中に女の子いないよね!?』と心配してしまいます。」と。
何も知らないと「車が停まっているな」くらいにしか思わないが、視点を変えると同じ道を歩いているだけでも得られる情報が変わってくる。実態を知らないことで気づけることに気づけず、知っているだけで気づけることは増えるのだなとあらためて実感したときだった。
街には、夜の求人情報紙も数多く設置されており、働けるところはないかと自ら求人チラシを取りに来る少女もいるという。歌舞伎町の入り口だけでも視点を変えるだけで今まで知らなかった世界をだいぶ知ることができる。
普通の女子高校生を巻き込んでいく手口とは
街には、少女たちが無料で休憩できる場所や、インターネットが利用できたり、飲み食いできるところがいたるところにあるらしい。そういうところへ行き場のない少女たちを誘い、そこから売春や違法な仕事に女子高生が勧誘されることもあるそうだ。悪いことはいくらでも考えつくなと感心すらしたが、普通の女子高 校生でも裏の世界に引きずりこんでいくような仕組みが出来上がっていることに恐怖を覚える。
そういうお店の前をいくつか通り過ぎたが、こうして通り過ぎている間にも女子高校生たちが被害に合っていないことを願うしかできないのがもどかしくなってくる。
区役所の表の方に回って歩を進めるが、なんと、区役所が閉まった後に目の前の広場で平然とスカウトが行われていた。「新宿区役所はなにをやってるんだ!」とは思わないが、そんなところで悪びれる様子もなくそういった行為が行われていることにこの街の闇を感じる…。
ある通りでは、一人の少女が女子高生を売りにしたお店のチラシを配っていた。話によると、16歳の高校生で、お店のアルバイトを始めて3か月くらい。自分が危険な街で、危険の可能性がある仕事をしているとはわかっていない、普通の高校生だった。
女子高校生たちの事情を知り尽くしているスカウトマン
スカウトたちは、お金や生活費に困っている女の子の居場所を知っている。仁藤さんのお話の中では、「そんなところにまでスカウトがいて、そんなポイントを つけ狙ってくるのか!」と驚く例もあった。(詳しくは本ツアーにて。)スカウトは少女たちを大量に囲っており、いかに自分の意思で働かせていくかを日々考えているため、少女たちが魅力的に思うポイントを押さえて声をかけていくことに長けているらしい。
まだまだ正常な判断がつかない女子高校生たちを甘い言葉で誘っていくことは、スカウトにとっては簡単なことのようだ。スカウトは、生活には特段困っていなくても、単純に趣味などで必要だから「もっとお金が欲しい」という少女を勧誘する手口も持っている。悪い大人たちに声をかけられる前に、そういう少女たち を正しく救える方法はどういうことが考えられるだろうか。
『気づいてくれてありがとう』と言う少女たち
夜回りをしながら女子高校生たちと関わりを持つ仁藤さんからは、次から次へと「こんな被害にあった子もいて…」と、彼女たちの周りで起こっている具体的な出来事が語られる。生々しい話を冷静に語る仁藤さんを見ながら、この世界ではそういうことが日常で、自分はずい分平和なところで生活できていたのだなぁと 思った。
元コマ劇場の辺りに戻ってくると、そこに座り込んでいる若そうな女の子がいた。仁藤さんは心配そうに話しかけるも、話を聞いたら22歳だったとか。そんな一場面もあったが、仁藤さんはそういう人を見かけたらためらいもなく声をかけている。
話の中で印象的だったのは、話かけると少女は『気づいてくれてありがとう』と言う、ということ。夜中に街中で座り込んでいても、行く当てもなくて『どうし よう』と思って泣きそうなときも、街行く人はみんな素通りで気づかない、誰も自分を助けてくれる人はいないんだという心情の中で誰かに声をかけてもらえることは、本人たちにとったらとても大きな事なのだそう。
もしかしたら今までそういう少女たち何十人、何百人と自分もすれ違っていたかもしれない。街に出ている高校生なんて、大した悩みもなくて遊んで楽しくしているだけだと思っていたが、全然違う子もいるのだということがわかってきた。仁藤さんは「そういう少女を見かけたらぜひ話しかけて欲しい」と言う。
しかし中には、マンガ喫茶などに入る直前の少女に声をかけて、「うちの店なら無料でマンガも読めるしネットもできるよ」といって誘い込むスカウトもいるの だとか。そこへ行くと店内では自由に過ごすことができるが、客から指名されたら一緒に店外へ出かけてあとは客次第、というシステムのお店らしい。人身売買そのもののようなお店が歌舞伎町のとても気軽なところにあるのだから驚きだ。
再び駅の近くまで戻ってきて、ここで夜の歌舞伎町の街歩きツアーは終了。
ここをツアーの地として選んでいるのは、女子高生がよく遊びにいく場所でありながら、性被害や人身取引に巻き込まれるケースが多発している場所だからとのこと。この後、女子高生が堂々と商品化されているという秋葉原へ移動していく。
本記事は、石井敦子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。