学校教員

キラキラしている人だけが素晴らしいわけじゃない-教職員の声を社会に!「School Voice Project」インタビュー⑤

こんにちは。東京都の公立小学校で教員として働いている楠本美央です。

東京都 公立小学校 教諭 楠本美央さん

私は新卒で人材派遣会社に勤め、2年間営業コーディネーターを経験しました。その後教員採用試験を受けて、25歳で教員生活がスタート。今年で12年目となります。

自分の価値観に大きな影響を与えたのは、学生時代に違う学部の仲間とカフェをつくったり、社会人になってからワークショップデザイナー育成プログラムを受けた経験。

それがきっかけとなり、学校では「専門分野の違う人同士で集まり、一緒に何かをつくり上げたり、学んだりすることの面白さ」を児童に伝えることを大切にしてきました。

楠本美央(くすもと みお)
台東区在住の小学校教員 EdcampTAITO実行委員長
早稲田大学在学中に仲間とカフェを作った経験から体験的な学びの重要性を実感。一般企業に勤めた後、教員になる。青学ワークショップデザイナー育成プログラム修了生。ゲストを招いた授業や休日の親子向けワークショップ、先生との対話の場などを開催してきた。コロナ禍(第二子育休中)で耳にした多くの公教育に対する疑問の声をきっかけに、誰もが立場を越えて教育を考えられる地域コミュニティの必要性を感じEdcampTAITOを立ち上げる。継続的に開催することで「街の教育に関わる小さな一歩を踏み出せる場」になることを願う。

「外部の人は批判してくる」。先生たちの価値観を知り、対話の場をつくろうと決意

教員になってから3,4年が経った頃、教育関係の企業で働く知人から「子ども向けのプログラムを開発したから、学校の先生の意見を聞かせてくれないか」という依頼を受けたことがありました。

ちょうどその頃、若手勉強会のグループがあったので、何気なくメンバーにそのことを伝えたら反発を受けてしまったんです。「教員としてできていないところを外部の人に指摘されるんじゃないか」「批判されるために時間をつくるのはもったいない」などと言われてしまいました。

私自身は学校の外の人と繋がることの価値を感じていましたが、他の先生たちにとっては「外部の人は学校の批判をしてくるだろうから繋がりたくない」という思いが強かったんです。それがあまりにも悔しくて、先生と外部の人が対話する時間をつくろうと思って動き出しました。

若手勉強会のグループ

違う意見を持つ先生ともきっと分かり合えると思い、素直な思いを伝えた

「これからの学校を考えよう」というテーマで対話する場を設定し、チラシを作りました。一人ひとりにチラシを手渡しながら、「学校の先生と話したい人が世の中にはいっぱいいます。その声を届けませんか?」と伝えていきました。

そのときに、一番お世話になっていた先生から「初任の先生はこれから学校のことをいろいろと学ばなければいけない。そんな時期に色んな価値観を持った人と出会わせて、初任の先生を惑わすようなことをしていいの?」と言われてしまったんです。

その先生に「何も考えないで学校はこういうものだと思い込んでしまう方が危険なんです!学校がこれまで大事にしてきたことを外部の人に話して、自分の価値観に納得感を持つことの方が大事じゃないですか?外部の人の考えに触れさせずに、学校だけの価値観を刷り込もうなんてだめです!」と泣きながら訴えました。そしたらわかってくれて、その先生も対話の場に来てくれました。

私には、「きっと分かり合える」という感覚があるんです。その先生はとても素敵な方で、若手にしっかり学校のことを教えたいという気持ちがあったからこそ、私にそう言ったんだと思います。お互いが一生懸命だからこそ、すれ違ってしまったのかもしれません。

自分の考えを話し、聴いてもらえることで先生はエンパワーされる

教育に関心のある人同士で意見交換をすると、時に相手を批判するように聞こえてしまうことがあります。けれど、意見があるのはそこに“思い”があるからなんです。お互いが「一緒に考えましょうよ」という気持ちを持てるといいなと思って、対話の場を企画しました。

若手勉強会のグループ

実際にやってみると、「教育に対する価値観を話すのは久しぶりでよかった」「違う分野の人と話すことで、自分の価値観や大切にしているものがわかった」という感想をもらいました。自分のことを話すとそれだけでエンパワーされますし、聴いてもらえると元気が出るんですよね。

対話の場には校長先生や副校長先生も来てくれて、学校の先生と外部の人が20人ずつくらい集まりました。長期休暇の期間も使いながら、合計5回の対話の場を設けました。

遠くにいるかっこいい人だけでなく、自分の身近にいる人の良さにも気づいて欲しい

学校では外部の人を呼んで授業をしてもらったり、一緒に授業をつくったりもしてきました。「どんな内容にしたら講師の方の魅力が伝わって、子どもたちが生き生きするだろう?」と考えることが好きなんです。いろんな人を学校に招くことで、子どもたちに出会いのきっかけを与えたいなと思っています。

一方で、モヤモヤした気持ちもあります。「これからは仕事を選ぶだけじゃなくて、自分で仕事をつくっていく時代なんだ」と子どもたちに伝えたいと思って、自分で事業を起こしている人を講師として呼ぶことが何度かありました。みんな、キラキラしていてかっこいい。

でもそういう人だけが素晴らしいとは思って欲しくないんです。自分の親や近所に住んでいる人だって、みんな一生懸命生きてる。

私自身は、友達から「みんな美央ちゃんみたいな先生だったらいいのに」と言われることがあります。そう言ってもらえるのは、私がいろんな発信や活動をしているからなんだと思います。

でも、職員室で私の隣に座っているベテランの先生だって、すごく素敵な人です。勉強熱心で、子どもたちみんなを夢中にさせてしまうくらいの授業をする実力がある。その先生は、それをみんなに褒めて欲しいなんて思っていなくて、外に向けて発信もしていません。

目立つ人や声を上げる人はかっこよく見えるけど、そうではない人の良さにも目を向けて欲しい。それは子どもたちだけではなくて、周りの大人たちにも伝えたいことです。

自分ごととして教育を考えてもらうために開催したイベント「Edcamp TAITO」

2年前から産休育休に入り、地域住民としていろんな保護者の声を聞くようになりました。多くの人が学校に対する不信感を持っていたり諦めを感じていることを知って、自分が暮らす地域で教育を考えるイベント「Edcamp TAITO」を開催することにしました。

Edcamp TAITO

学校が変わらなければいけない部分はあるけれど、そこに対して批判したり、「自分が住んでいる地域の教育はだめだ」と諦めてしまうのではなくて、当事者として自分に何ができるかを考えるきっかけになればいいなと。

イベントの最後には、一人ひとりに決意を書いてもらったのですが、そこに「子どもと一緒にジェラート屋さんをやる」と書いてくれた方がいました。もともとジェラート屋さんをやることは予定していたのですが、イベントに参加したことで、「欲しい環境は自分で作る事ができる。」「私にもやれる事がある。」と子どもを巻き込む覚悟が持てたと言ってくれました。実際に、看板づくりを地域の子どもたちにお願いしたりしながら準備を進めていました。

そんな風に具体的に何かが起こるきっかけになったらいいし、そうならなくても、来てくれた人が自分の身近なことに対してちょっと視点を変えられるきっかけになればいいなと思っています。

Edcamp TAITO

価値観の違う人同士でも、お互いの良さに目を向けていく

今年4月からは、現場に復帰して担任を受け持っています。産休育休中には「多様性が大事だ」という話をよく耳にしました。「学校は多様性がない」と言われたりすることもあるけれど、公立小学校の教室には多様性があることに現場に復帰してから気づいたんです。

学校は、いろんな価値観を持ち、育ってきた環境もそれぞれが持っている特性も違う子どもたちが集まる場所です。唯一の共通点は同い年だということ。「多様性が大事だ」という価値観も一致していない人が集まる中で、それぞれが気持ちよく暮らすにはどうしたらいいかを考えられる場だと思っています。

それは先生に対しても同じで、学校はもっとその先生が自分らしくいられるような環境になって欲しいです。SNSなどに自分の意見を書き込むことへのハードルは高いと思いますが、School Voice Project が運営するアンケートサイト「フキダシ」(※2021年9月末リリース予定)は、気軽に書き込めるような雰囲気をつくって、多くの先生が一歩を踏み出すきっかけになったらいいなと思います。

先生同士が隣の先生にスポットを当てるような対話が生まれたり、地域住民や保護者が目の前の人の良さを見ようとする文化が生まれると、いい意味で先生は肩の力が抜けるのではないかなと思います。

東京都 公立小学校 教諭 楠本美央さん

(取材・文:建石尚子)

Author:School Voice Project
「School Voice project」では、学校をよくしていくためのヒントが詰まっている「現場の教職員の声」をアンケートを通して「見える化」し、各学校で参考にできるかたちで発信したり、メディアや教育行政(文科省や教育委員会)に届ける活動に取り組んでいます。
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