昨今、様々な課題に直面している学校現場。追い討ちをかけるように新型コロナウイルス感染症への対応も相まって、ゆとりのない状態は続いています。
”教職員の声を見える化するプラットフォームをつくる。”
そんな思いのもと発足した「School Voice Project」。
本プロジェクト発足にあたり、発起人であり普段は教育ファシリテーターとして活動されている武田緑さんにお話を伺いました。本記事は武田さんへのインタビューの中編となります。
多様な学びの場が活発になっていく一方で
-武田さんはこれまで、公教育以外の教育の場を応援したり、紹介したりする活動をされてきていたと思うのですが、今回、公教育の中で変化を生んでいこうとSchool Voice Projectを始められたのは、どういった想いがあったのでしょうか。
フリースクールやオルタナティブスクールなどの多様な学びの場は、今現在、学校文化や仕組みの中で苦しい思いをしている子どもたちを受けとめるためにも必要です。
今後、制度内に位置づいていくことや、予算がきちんと配分されることも必要だと感じますが、全体的に見ると多様な学びの場を広げる流れは年々大きくなっているように感じます。
公教育に携わっていた先生が辞めて、オルタナティブスクールを設立するケースも増えてきています。アクションを起こす人が増えてきた印象ですね。ムードとして、盛り上がってきているというか。
一方で公教育に目を向けてみると、思いのある人たちが現場を去ったり、心を病んだり、複雑に絡み合ったさまざまな課題が山積して、常態化していて。疲弊と窮状が、いよいよ極まっているように感じるんです。
公教育のフィールドの方が、関係者の数は圧倒的に多くて、日本の教育のメインストリームであるとは思うのですが、現状をよりよく変えていくためのムーブメントを担うアクターは、実は少ないのかもしれないと感じます。どうにか現場をまわして目の前の子どもたちを支えるところまでで、多くの教職員はいっぱいいっぱいの現状がありますし。
もちろん、教育運動という意味では、教職員組合や既存の教育研究団体などが取り組まれている部分もあるのですが、、若い教職員の方たちが参画できるプラットフォームは少ないような気がしています。また、どうしても賛成か反対かのどちらかを押し進めるムードになりがちで、より細かな、現場にある葛藤やモヤモヤが伝わっていくことこそ大切なのになぁと感じていました。
-「公教育はなかなか変わらない」「だから新しいものをつくったほうが早い」という流れは確かに感じますね。ある意味、流動性が生まれているというか。
私の周りでも、素敵だな…と思っていた公立の先生が次々に辞めたり、私学に移ったりしています。もちろんそれ自体は本人の選択なので応援しているのですが、こうやって公教育からは人材が流出していくのかと思うと危機感はありますね。制度内外の学校間で、断絶が起きているようにも感じます。
-公教育の中にある、白か黒かではないグラデーションの意見をすくい上げたい、という感じでしょうか。
賛成か反対かだけではなく、学校で働く教職員一人ひとりの思いやストーリーが見えるようにしていきたいです。社会にインパクトを与えられるプラットフォームになるためには、数の力も大切ですが、それだけだとまた分断が進んでしまいます。
本当の意味での理解と共感と支援が、学校現場に注がれる状況をつくるには、小さな声や一人ひとりの微妙な思い・意見を、丁寧に聞くことが欠かせないと思います。また、自分たちが声をあげて、学校教育をよりよく変えていけるんだと思えるプロセスをつくっていくことも、根本的にとても大事だと思っています。
「託すので、武田さんお願いします!」ではなく、現場の教職員の人たちが自分事としてとらえられるように、このプロジェクトの展開の仕方や見せ方を考えていきたいです。
言いたいことを言える機会に
-教職員の方々は学校の中でもいろんな調査に回答する機会も多く、負担に感じられている方もいるかと思います。「フキダシ」もアンケートがメインだと思うのですが、負担感への対応は何か考えられているのでしょうか。
こちらが調べたいことを聞くというよりは、言いたいことを言ってもらう、発信したいことを発信してもらう場をつくる、というスタンスを大切にしたいと思っています。
ただ確かに負担感の部分は気になっていて、このプロジェクトを始める前に周りの先生たちに聞いてみました。その中では、「これ以上アンケートは答えたくない」という声もあれば、「必ずしも答えなきゃいけないアンケートじゃないから負担はあまり感じない」という声もあって。
ユーザー登録したとしても、アンケート内容によっては答えても答えなくても大丈夫なんです。自分で選べる部分が大きいので、そこまで大きな負担とはないのかなと思っています。
-声をあげてもらう、という部分が一番大きな目的ですもんね。
そうですね。私たちのアンケートは、タスクのように課されるものではないので、そう認識してもらえたらと思っています。
あとは、タイムリーに、今起きている時事的な問題に対して意見が言えることに対してはニーズがあると感じています。今、パラリンピックの学校連携観戦プログラムについてプレアンケートを取っているのですが、まだ登録者数がそこまで多くない割には、結構な数が集まっています。
昨年、9月入学についてアンケートを行なったときは、一晩で1,300くらいの回答が集まりました。みんなきっと何か言いたかったんだろうな…と感じました。
数の力で押すのではなく、小さな声も拾えるように
-ちなみに、民間の立場でこういった取り組みをやる意味や意義はどういった点にあるのでしょうか。
「民間」というよりは「市民セクター」として実施する点に意義があると思っています。文部科学省や教育委員会などの行政が実施するアンケートは、基本的には行政に対して意見を述べることは難しい性質のものが多いと思うので。
-確かに、行政のアンケートは意見を聞くというより、実態調査が多いのかもしれないですね。
それはそれで大事だと思います。ただやはり声をあげる機会や、聞いてもらう機会が少ない。だからこそ市民としての集団・コミュニティの力を生かして、発信力をつけていくことは必要だと考えています。
今、この取り組みに賛同してくださっている教職員の方々の反応を見ていると、「声を集めて発信できる」という部分に共感してくださっている人が多いように感じます。なのでまずはユーザー登録を増やして、数の力を活かせるようにしていくことが必要だと考えています。
一方で、単に数の力だけで押していくことはしたくない、とも思っています。これまでの社会運動はどうしても小さな声が埋もれがちだったと思うので、そういった小さな声も拾えるような、対話を大事にするスタンスを保っていきたいです。
集団の中にいる一人ひとりのストーリーを大切にしながら、新しいタイプのムーブメントを作っていけたらなと思っています。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。