学校教員

新任教員が語る悩み!学校の教育現場のリアル(第二話)-膨大な量の「ルール」や「マニュアル」に困惑

新たに教員として採用された新採教員が1年間の条件附採用期間後に、精神疾患を理由として依願退職した者は、病気を理由とした依願退職者のうち8~9割となっており、増加傾向にあります。今、どのような問題が学校現場で起こっているのでしょうか?

職員室

今回の連載記事では、実際に新卒で首都圏の公立小学校に勤務経験があり、心身ともに不調となった過酷な勤務を経験しているAさんからお話をお伺いしています。

これまでの記事に引き続き、学校現場の「リアル」な実情をお伝えします。

後から気がつく学校独自のルール

編集部:「4月」という時期が子どもたちにとっても重要な「黄金期」でありながら、一年間でも一番の繁忙期であること、子どもにとっても精神的に不安定になりやすいこと、などのお話を伺いました。その他に、新学期初めの時期で、Aさんが困ったことはありますか?

Aさん:困ったと言えば、学校のあらゆる場面における膨大な量の「ルール」や「マニュアル」の存在でしょうか。過去の反省からこれが最善だと決められたルールやマニュアルは、確かに必要ですし、学校の教育方針を教員間で共通理解することは重要ですが、守らなくてはならない縛りがありすぎると感じていました。

編集部:それは、学校の「校則」や「規則」とは違うものなのですか?

Aさん:そうですね、そこまで正式なものではないのですが、その学校独自のルールというのでしょうか。例えば、私の勤めていた学校には、「休み時間の過ごし方のルール」がありました。それは、雨の日で校庭が使用できない場合に、「各学級に支給されているトランプに限って使用することができる」というものでした。

編集部:そのルールだけを聞くと、そんなに困ることはないように思うのですが。

Aさん:外遊びを推奨しているために、晴れた日には使用できないんです。もし晴れた日に子どもが使用していたら、毅然と指導しなくてはいけません。でも相手は子どもですから、晴れていることを分かっていても、遊びたい気持ちになることがあります。もし、新卒で入ってきて、このルールの存在を知らない中、子どもが晴れの日にトランプで遊んでいたらどうしますか?

編集部:トランプで遊ぶこと自体は危ないことではないですし、そのまま特に止めないですね。

Aさん:そうですよね。私も、「晴れてるけど、たまには室内で遊びたいこともあるよな」とスルーしてしまいました。でもその後にルールの存在を知り、子どもに指導した時に、「前はいいって言ったのにどうして今日はダメなのか?」と言われてしまいました。

例としてはとても些細ですが、子どもとの信頼関係で成り立つ教育現場では、こうしたミスは致命的です。子どもが教師への不信感を抱くことに繋がってしまいます。

編集部:なるほど。信頼関係を築きたい時期だからこそ、そうしたミスは防ぎたいところですね。それらの「ルール」は、事前に教えてもらえないのですか?

Aさん:膨大にあるので、事前に全て把握することは不可能だと思います。実際に学校生活を初めてみて、「これはこういうルールだったのか!」と気づくことがとても多かったです。大人の理由で決めているものが多いので、子どもはそのルールを守らなければいけない理由が、わからない場合もあるのでは、と思っていました。

編集部:よく理由がわからないルールほど、守りたくないものはないですよね。相手が子どもでも、きちんと説明できることをルールにしたいですよね。

Aさん:そうですね。あとは、私たちが子どもの頃と現在とで、いわゆる「常識」が異なっていることも、新卒教員が困惑をしてしまう原因の一つでしょうか。

編集部:「常識」ですか。例えば、どんなことがありますか?

校庭

自分が子どもの頃とは異なる「常識」

Aさん:「校庭の使い方」ですね。私たちが子どもの頃って、雪が積もると校庭で雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして遊びましたよね。しかし、現在の学校では、雪の積もった校庭に入ることは禁止されているのが常識です。

編集部:外遊びを推奨しているのに、雪遊びは禁止なんですね(笑)なぜですか?

Aさん:雪が積もった校庭はぬかるんでいます。足を踏み入れると、足跡がついたままの状態で乾き、校庭にでこぼこができてしまいます。以前こうしてできたでこぼこに躓き、大けがをしてしまった事例があってから、安全対策として禁止とするようになったそうです。

編集部:なるほど。安全管理上の観点からわからなくはないですが、「一律禁止」にしなくても、工夫すれば遊ぶことができるような…。まあ「一律禁止」の方が楽なのでしょうけど。

Aさん:そうですね。ただ、子どもたちはあまり納得が行っていないようでした。私も初めはこの常識を知らなかったので、危うく「校庭で雪合戦しよう!」なんて呼びかけてしまうところでした。

「なぜ、そのルールがあるのか」という背景や理由も理解する

編集部:ルールやマニュアルとうまく活用しながら、子どもたちと学校生活を送るコツなどはありますか?

Aさん:学校にあるルールやマニュアルは、学校独自で文書にまとめられたものが恐らくあると思うので、なるべく早く手に入れ、頭に入れる努力をした方がいいです。とはいえ、膨大な量なので、完全に覚えることは難しいと思いますが・・・。細かなことでも周りの先生に確認することも一つの手です。

ルールやマニュアルを一度完璧に覚えれば良いというわけではなく、変更や見直しをする必要があります。ルールやマニュアルの作成や見直しの会議や作業にも、多くの業務時間が割かれています。毎年前年度の反省をもとに、職員会議などで話し合い、作り変えられていくからです。

編集部:Aさん自身は、これらのルールやマニュアルは、学校現場にとって必要だと思いますか?

Aさん:難しい質問ですね。ただ、子どもへの指導をする立場として、円滑に学級・学校運営を進めていく上で、一定のルールやマニュアルは必要だと思います。大事だと思うのは、「なぜ、そのルールがあるのか」という背景や理由まで知った上で指導できることがベストだと思います。

ありがとうございました。次回も引き続き、教員一年目にスポットをあててお話を伺っていきたいと思います。

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Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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