三ッ輪ホールディングスグループで電力小売プラットフォーム事業を展開するイーネットワークシステムズ(ENS)と認定NPO法人夢職人とのコラボレーションから生まれた「カケハシ電気」。従来の電気よりも安価に利用できるのはもちろん、子どもの支援や環境にも貢献できるソーシャルグッドな電力サービスです。
今回、「カケハシ電気」に関わる三ッ輪ホールディングス・代表の尾日向氏、ENS・取締役の大澤氏、夢職人・理事長の岩切氏の特別対談が行われました。本記事では、三者の対談を通じて、「カケハシ電気」の寄付先となっている「Table for Kids」の取り組みや、今回の連携がはじまるまでの経緯などについてお伝えします。
認定NPO法人夢職人 理事長 岩切準 氏(中央)
三ッ輪ホールディングス株式会社 代表取締役社長 尾日向竹信 氏(右)
新しい食の支援「Table for Kids」とは?
―まずは、夢職人さんの現在の活動について教えてください。
岩切:私達は17年間にわたって異年齢集団で、なおかつハンズオンで、「学校外での多様な体験の場」を提供してきました。ですが、コロナ禍に入ってからこれらの活動が感染予防対策上、すべてNGとなってしまったんです。
では、自分たちのアセットをどこに振り分けるべきか。つながりのある百数十人の地域や団体、企業の方々にお会いして、いま一度現場で何が起こっているのかヒアリングした結果、コロナ禍で経済的な打撃を受けている家庭が急増していることがわかりました。
尾日向:そこに対して行政や民間企業は、具体的にどんなアプローチをしていたんですか?
岩切:コロナ禍の特徴のひとつでもあるのですが、これまでやってきた支援がことごとく通用しないんです。たとえば「子ども食堂」ですね。みんなで集まれなくなったし、運営スタッフの中には重症化リスクが高い年齢層の方も多い。もちろん、高齢者以外のスタッフにも感染リスクがあります。だったらお弁当を届けてはどうか、という動きがありましたが、どうしても食中毒の問題がついてまわります。
それなら、と食材を直接渡す支援が立ち上がるも、賞味期限の観点から渡せるのは腐りにくい乾麺などの炭水化物が中心になってしまう…という課題がありました。
大澤:コロナ禍は誰も経験したことがありませんからね。
岩切:そこで私達は「点」ではなく「面」でできる支援、かつ継続可能な方法論を考えました。支援を受ける家庭がどういう形なら受けやすいか、ということをリサーチして辿り着いた食の支援が「Table for Kids」です。今、夢職人では「Table for Kids」と感染症対策を行いながらの教育事業を並行して展開しています。
―具体的にはどのような支援なんですか?
岩切:個人や企業からのご寄付を原資に、経済的に困窮している子育て家庭にポイントを付与します。そのポイントを協力加盟店で使えるという仕組みです。お店の支払いに使用されたポイントは、夢職人が翌月には現金に換金します。これで経済的に困っている親子に早く確実に食の支援が行える。同時に街のお店の活性化にもつながります。
QRコード決済なので周囲の目も気にしなくて済むし、何よりお店やメニューが選べて、できたての料理が楽しめる。現在、協力加盟店は、江東区・墨田区・中央区で31店舗となり、飲食店・弁当惣菜店・精米店などで利用ができます。また、支援家庭は96家庭まで増えました。(※2021年10月のインタビュー時点の数値)
尾日向:募集開始されて、締切前には定員となってしまいましたね。
岩切:大変多くの応募をいただいており、審査・選考を行ったうえで支援する家庭を決定しています。実際にご利用いただく家庭の95%から「生活の役に立っている」という評価をいただいています。使いやすさが一番の利点として受け入れられているのではないでしょうか。
そしてもう一つ、支援対象が子どもだけでないという点。親の貧困は自己責任論にされてしまいがちですが、それは違う。誰もが不可抗力によって、経済的に困窮する可能性があるんです。
それに、子どもだけを支援すると、子どもは親にものすごく遠慮ながら食べなくちゃいけなくなります。自分だけ食べて親は食べていない、その状況を子どもがどう思うのかを考えたら、世帯ごと支援しなければ意味がないことは明らかです。
ー「学校では学べない体験の場」を提供する取組みと「Table for Kids」とはどういった結びつきがあるのでしょうか?どう関係してくるのか、非常に興味深いところです。
岩切:体験活動事業はわれわれがはじめた17年前に比べて市場化が進みました。スポーツクラブや旅行会社、学童なども進出していますからね。その中でわれわれのポジショニングをあらためて考えたとき、NPOとして、子どもの教育に対する意識や所得が高くない家庭へのアプローチはどうだろうかと。
様々な調査研究からも、経済面の格差が体験格差につながり、その後の学習意欲や将来への期待感に影響を及ぼしていることも明らかになっています。ところが一番難しいのが、そういった家庭にどうアクセスするかという問題でした。この点にどこのNPOも苦戦していた。
尾日向:なるほど、それで食の支援から?
岩切:おっしゃる通りです。食への興味関心はもちやすく、そこでつながりを持ち、ご家庭の状況を把握していく。食の支援からはじまるので関係性も育みやすく、アンケートなどにも協力的にご回答いただきやすいです。
そこで子どもがストレスフルな環境にいるとか、不登校だということが明確になれば手が打てる。「Table for Kids」を通じて、こちらからお困りの家庭を訪ねていけるわけです。今は食の支援が中心ですが、今後は体験活動に招待したり、他団体と連携した教育支援へと展開できるのではないかと戦略的に考えています。
尾日向:経済的に困窮している家庭と、食というチャネルでつながっていく。そこから教育含め、いろんな提案を通じて子どもの将来を明るく照らすわけですね。今、現在の経済格差が子どもたちの格差につながらない社会をつくっていこうと。なるほど…このアプローチはNPOに限らず一般企業でも有効ですね。
SDGsへの取り組みの第一歩になる「カケハシ電気」
―この「Table for Kids」に寄付するひとつのチャネルがカケハシ電気になるんですね。
大澤:「カケハシ電気」は、ENSが提供する電力小売プラットフォームを利用するのですが、ご契約者様の電気料金が安くなるだけでなく、電気代の1%~5%にENSがさらに0.5%~2%上乗せして「Table for Kids」に寄付します。
また、「グリーンプラン」をご選択いただくと、J-クレジットという環境価値を付加することで実質CO2フリーの電気を使えるというメリットもあります。
岩切:「Table for Kids」は規模の拡大も大切ですが持続性が大きな鍵を握っているプロジェクトです。そのためには寄付のチャネルは多ければ多いほどいい。個人のお客様はもちろん、法人のお客様も大歓迎です。
法人であれば、SDGsの取り組みの一つとして手軽にはじめることができ、電気代のコストを下げることにもつながります。災害支援のように大きな金額を一時的に拠出するのと違って、比較的稟議も通りやすいのではないでしょうか。
尾日向:エネルギー事業者として、個人のご家庭の場合「光熱費の単価が下がる」という切り口での感応度は実はあまり高くないと感じています。価格よりも「何らかの貢献ができる」とか「『想い』に原資をつかってくれる電力事業者に申し込みたい」という層に向けて、「カケハシ電気」はまさに「『Table for Kids』の取組みに対する共感」が訴求力になるわけです。
大澤:最近、SDGsとかカーボンニュートラルとか、マーケティング用語として拡大していこうという事業者が目立ちますよね。それ自体は悪いことではないのですが、本質的に困っている人、社会課題のあるところにアプローチできている事業者はそれほどいないのではないでしょうか。「カケハシ電気」はそこがクリアになっているという点で大きなアドバンテージを誇るサービスだと思っています。
「カケハシ電気」のコラボレーションのきっかけは?
ーENSからのアプローチを受けた時に私たちにどういう印象をお持ちでしたか?
岩切:歴史あるエネルギー企業グループだということもあり、なかなかスピーディに物事が進みにくそう、というのが正直なところでした(笑)。それまでにもいくつかの新電力系の会社さんからお声がけをいただいたのですが、電気を扱うということは責任が大きい。やるならそれ相応の体制が整っていて信頼できる事業者が見つかったときだな、と感じていたんです。
大澤:当初のイメージと違って、当社に歴史があること、LPガスという社会インフラでの実績を有していることもプラスに働いたということでしょうか?。
岩切:もちろんです。一方である程度のスピード感がないと、プロジェクトとしてスタートした後にいきなりトーンダウンしてしまうこともありますからね。社風を見極めるポイントとして、私は三ッ輪グループの求人をものすごくチェックしました。
尾日向:求人ですか?
岩切:求人にはその会社がどういう人を集めようとしているのかが明確に書かれています。三ッ輪グループの求人は、創業80年以上の会社とは思えないほどベンチャーでアグレッシブな内容で、先入観を180度覆されました。
これまでのアセットを活かして新しい時代に必要なことをどんどん形にしていく姿勢が見えて、間違いなく「新たな価値を創造」していく決意を持った会社なんだと感じました。
尾日向:うちの社員全員を評価していただけているみたいで、すごくうれしいです。
岩切:結局、コミュニケーションって人対人じゃないですか。会社ですから異動だって当然あるでしょう。でも人が変わってもカルチャーが引き継がれていけば大丈夫だと思っているんです。
三ッ輪グループの求人からはカルチャーを重視することが伝わってきましたし、これなら長くお付き合いできる、信頼できる事業者だろうと判断して、「ぜひとも提携しましょう!」という話になりました。
みなさんの想いの”カケハシ”になりたい
―サービスをリリースしてから感じることはありますか?
岩切:「Table for Kids」でつながっているお店にカケハシ電気の話をすると「こんなプランがあるんだね」と非常に喜ばれますね。これまでの新電力系サービスって安くなる以外の指標があまりなかったみたいで。
電気代が高騰するタイミングにSDGsへの関心の高まりが重なって、お得に社会貢献できるなら、とみなさんものすごくポジティブに検討してくださいます。
尾日向:これまで無色だった電気に色が付いてきたんですよね。新電力事業者が600社を超えたいま、価格だけでなく環境という軸もあれば安定供給という軸もある。いろんな評価軸がある中、独自性をいかにわかりやすく伝えていくか。
そういう意味ではエネルギー事業者だけで色をつけるのではなく、組ませてもらう団体の個性や、その取り組みが何に繋がっていくのかを見せられるのは非常に意味があることだと思いますね。
大澤:当面の目標としてはサービスを磨き上げながら、より多くの人に使ってもらうこと。共感マーケットを広げていきたいんですよね。尾日向が言う通り、いま世の中にはいろんな新電力のいろんなプランがあります。その中でカケハシ電気を知ってもらう。
あわせて日本では「寄付」という概念自体があまり根付いていないので、それを広めていくこともひとつの課題といえるでしょう。寄付の文化が広がることはSDGsにもつながると思いますし。
岩切:そういったみなさんの想いの架け橋になりたくて、「カケハシ電気」という名称にしました。
契約してくださる方の思いをしっかりと汲んで、経済的な事情を抱えたご家庭の支援につなげていく。その架け橋としてのサービスに育てていきたいです。
―本日はお忙しい中ありがとうございました!