こども食堂

「子ども食堂=貧困対策」ではない!子ども食堂の現状とジレンマとは?-地域の多世代交流拠点としての子ども食堂

2021年12月22日に、子ども食堂の支援を行っている認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)が1年ぶりに各地域ネットワーク等と共に最新の調査結果を公表しました。

調査は、2021年10月15日から12月15日の期間に、全国の自治体や社会福祉協議会、支援団体などを通じて、Webアンケートまたは質問票で行われました。

本記事では、2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査の結果をレポートし、子ども食堂の現状と課題について考えます。

子ども食堂でカレーを食べている子どもたち
(コロナ禍の子ども食堂の様子/写真:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)

子ども食堂は年々増加するも、コロナ禍で増加率は鈍化

2018年から行われている調査以降、子ども食堂の数は、増加を続けており、全国で6,000箇所を超えました。一方前年からの増加率で見ると、2019年は62.64%、2020年は33.40%、2021年は21.10%と、新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、鈍化していることがわかりました。

2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査
(2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査結果から編集部が作成)

都道府県別にみると、もっとも箇所数が多いのは、東京都(747箇所)、次いで大阪府(470箇所)、兵庫県(373箇所)。前年比では、1位東京は変わらず、昨年3位の⼤阪と5位の兵庫が箇所数を⼤きく増加させ、順位を上げました。逆に、もっとも箇所数が少ないのは、富山県(24箇所)、秋田県(25箇所)、島根県(25箇所)でした。

校区実施率(小学校区での子ども食堂の有無)、人口比(人工10 万人あたりの子ども食堂数)では、沖縄県、滋賀県、鳥取県が上位になっており、県内での子ども食堂の活動の活発さがうかがえます。

「子ども食堂=貧困対策」ではなく、子どもや大人の多世代交流の場

今回の調査結果を発表する際、「むすびえ」が強調したのが、子ども食堂について、「『貧困対策』と書かないで。スティグマをつけないでください。」という点です。

「スティグマ」とは、主に社会学や心理学で用いられる言葉で、特定の集団に所属している人や、その人が持つ特徴に対して、偏見や差別につながるような否定的な見方や扱いをすることです。(例.子ども食堂に来ている子ども=貧しい子ども)

国や自治体が子ども食堂を「子どもの貧困対策」の一つとして位置づけており、多くのメディアで困窮家庭の子どもを支援することがクローズアップされています。子ども食堂が全国に広がった一つの経緯となっていることは間違いありません。

しかしながら、子ども食堂への参加条件に関する質問では、「子どもの参加に限っている」(4%)、「生活困窮家庭(生活保護・非課税世帯など)に限っている」(5%)、「ひとり親家庭(児童扶養手当受給世帯など)に限っている」(5.9%)となっています。

多くの子ども食堂は、参加条件はなく、誰でも参加できる形式となっています。つまり、子どもでなくでも、貧困状態になくても参加できます。困窮家庭の子どもの支援というわけではなく、地域・まちづくりの一環として、子どもや大人の多世代交流の場として運営されています。

2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査
(2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査より図表を引用)

また、農林水産省が2018年に公表した調査によれば、開催頻度は、月に1、2回が73%で、毎日開催しているところは約3.3%となっており、「場所」というよりは、「イベント」として捉えた方が実態に合っていると言えます。

今回の調査からも子ども食堂は、貧困の子どもを支援するためのものではなく、多世代交流拠点としての「地域のみんな食堂」となっていることがわかります。

「むすびえ」では、2021年9月からFacebook Japan社(現在、META社)と連携し、子ども食堂は「貧しい子どもだけが行く場所だ」といった誤ったラベル(イメージ)を払拭し、「子どもの貧困対策だけではなく、多世代交流が行われる地域に開かれた居場所」であるということを伝えていく「Re-labelingプロジェクト」にも取り組んでいます。

貧困対策としての子ども食堂が共感を呼んできた背景も

子ども食堂で親子が食事をしている様子
(コロナ以前の子ども食堂の様子/写真:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)

子ども食堂は、2012年に東京都大田区にある小さな八百屋さんの取り組みからはじまったとされています。その後、すでに地域で何らかの子どもの居場所づくり(学習支援やプレーパークなど)に取り組んでいた団体等が活動の一環として食事の提供も行うようになって広がっていきました。

その頃は、貧困の子どもの支援という見方は現在よりも少なく、学校外の子どもたちの居場所づくりの一環として、「学習」や「体験・遊び」と並んで「食」を通じた活動として捉えられていました。当時から子ども食堂の取り組みをしていた方からすると、子ども食堂が貧困対策というよりも、多世代交流や子どもの居場所づくりという認識が強かったと思われます。

子ども食堂の役割と機能
(2021年全国箇所数調査及び第1回全国こども食堂実態調査より図表を引用)

次第に政府やマスメディアでも「子どもの貧困」問題が取り上げられるようになり、その文脈の中で子ども食堂の取り組みが注目を浴びました。それを目にし、共感した方が新たに貧困の子どもの支援を目的とする子ども食堂をはじめていったと考えられます。

子ども食堂の課題として、「本当に支援が必要な子どもが来ているかどうか」という話がよく取り上げられていますが、あくまでも子どもの貧困対策は、子ども食堂が取り組んでいることの”one of them”であると言えます。

子ども食堂が抱えるジレンマとは?

コロナ禍の子ども食堂で食事を提供する様子
(コロナ禍の子ども食堂の様子/写真:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)

調査結果からわかる通り多くの人が子ども食堂に対して持っているイメージと実態は乖離しています。「子ども食堂=貧困対策」ではないというメッセージは、支援が必要な子どもを子ども食堂から遠ざけないためにも、大切なメッセージです。

しかしながら一方で、子ども食堂が子どもの貧困対策をうたうことで、多くの共感が集まり、子ども食堂の活動が各地で広がり、様々な支援や寄付が集まっていることも事実です。みんなで楽しむ多世代交流のイベントでは、貧困対策よりも「緊急性」や「重要性」が低く感じられ、支援や寄付が集まりにくくなってしまう可能性があります。

実態に合った形で「子ども食堂=貧困対策」ではないというメッセージを伝えながら、運営を続けるための様々な支援や寄付を継続して集めていくことは難しく、子ども食堂が抱えるジレンマと言えます。

困窮家庭の子どもや親子に限定した食のサポートは、フードバンク子ども宅食Table for Kidsなど利用条件を定めて行っている支援があり、「困窮家庭の子どもや親子を支えたい」という方は、確実に支援を必要とする子どもや親子に届けられる取り組みに、寄付や支援を検討した方が適切かもしれません。

子ども食堂が「地域のみんな食堂」としてこれからも継続していくためには、子どもと大人の多世代交流の場の重要性・必要性が広く一般に認識される必要があります。そのためには、貧困対策という側面ではなく、各地にある子ども食堂が持つ多様な価値を伝えていくことが大切ではないかと思います。

<参照記事>
認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ:「地域みんなの食堂」となった「こども食堂」 コロナ禍でも増え続け、6,000箇所を超える。
Meta:SDGs週間にあわせ、利用者一人ひとりのSDGsアクションの「自分事化」を促す『SDGs診断』とコミュニティ共創『Re-labelingプロジェクト』を発表

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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