こども食堂自然体験教育格差

夏休みに拡大する子どもの栄養・教育・体験の格差とは?-学校がない期間に、日常の問題がより一層顕著になる

夏休みの海水浴

子どもの頃、家族旅行やサマーキャンプ、地域の夏祭りや花火大会など、たくさんのイベントがある夏休みを楽しみにしていた方も多いと思います。夏休みは、1ヶ月ほどの長期休みに、普段は出来ない様々な経験ができる期間です。

一方で、子どもたちの日常を支えている学校が休みになることで、給食の代わりに昼食の用意が必要になったり、学習や体験などにも費用がかかる期間でもあります。子どもにかけられる費用や時間が限定されている低所得家庭にとっては、大きな負担になります。

一定の所得がある家庭は、夏休みに様々な機会を設けられることを考えると、夏休みという期間が子どもたちの格差を広げる機会にもなりかねない状況になっています。

給食の有無で生じる「栄養格差」

新潟県立大の村山伸子教授らが東日本の4県19校の小学5年生を対象に行った調査によれば、低所得者層の子どもは、中所得者層の子どもと比べて、魚介類や野菜の摂取量が少なく、成長に必要なタンパク質や鉄分などの栄養面で格差があることがわかっています。

差は主に給食のない日に生まれ、給食のある日は解消するか、わずかな差に縮まったとしています。低所得家庭では、朝食を食べていない、インスタント食品やお菓子などで食事を済ませているケースも多く、栄養バランスに配慮している給食で支えられています。

世帯の経済状態と子どもの食生活との関連に関する研究世帯の経済状態と子どもの食生活との関連に関する研究

全国各地で「子ども食堂」が広がっていますが、朝日新聞社が2016年に公表した調査では、月数回というところ7割以上で、週5日以上行っているのはわずかでした。家庭に対して、フードバンクなどによる食品の提供があったとしても、給食の栄養バランスを考慮した形で調理し、子どもたちの毎日の食事を支援していくことは、とても難しい状況です。

家庭学習や夏期講習等の有無で生じる「教育格差」

ベネッセコーポレーションが2017年7月に公表した「夏休みの宿題調査」では、宿題の種類によって割合は異なるものの、過半数~約8割程度の親が助言・指導を行っていたとなっています。全く大人の助言・指導がない中で、はじめから子どもだけで学習を進めていくことができる子は少数です。

ベネッセコーポレーション「夏休みの宿題調査」ベネッセコーポレーション「夏休みの宿題調査」

小学生の早い時期から学習習慣を身につけていくことは、その後の学力の変化にも影響を及ぼします。(貧困状態の子どもに立ちはだかる「10歳・小4の壁」)小学校高学年からは学習塾で行っている夏期講習への参加も増え、復習・予習、受験に関する勉強を行っています。学童などでは、一定時間の学習時間を設け、宿題の指導を行っているところも多くあります。

家庭でのサポートが難しく、塾や学童などでのサポートもない状況では、夏休みに学習の差が生まれてきてしまうことは明らかです。

家族旅行・お出かけやサマーキャンプ等の有無で生じる「体験格差」

東京都が2017年に公表した「子供の生活実態調査」では、小学 5 年生と中学 2 年生の保護者に、過去 1 年間において、「海水浴に行く」「博物館・科学館・美術館などに行く」「キャンプやバーベキューに行く」「スポーツ観戦や劇場に行く」「遊園地やテーマパークに行く」といった子どもとの体験があったかを調査しています。

下記の結果を見ると、金銭的な理由や時間的な制約から体験に明確な差が生じていることがわかります。

東京都福祉保健局少子社会対策部計画課「子供の生活実態調査」東京都福祉保健局少子社会対策部計画課「子供の生活実態調査」

企業やNPOなどでも、イベントや合宿・キャンプなど、夏休みに様々な体験ができる機会を提供していますが、保護者の引率や参加費用が必要なものも多く、必然的に選択肢も限られます。

市区町村の自治体や地域組織で行っている無料・安価なイベントや合宿・キャンプなどもありますが、人手や費用の面から継続・拡大して実施していくことは難しく、以前に比べるとその数や規模は縮小しています。

全ての子どもたちが充実した夏休みを過ごせるように

子どもたちの成長にとって、様々な側面で学校が重要な場となっており、夏休みはその機能が停止している期間とも捉えられます。結果として、栄養、教育、体験などの側面で、費用や時間に制約の多い低所得家庭ほど、影響を受けやすい状況になっています。これは、夏休みだけの話ではありませんが、学校の長期休みに影響がより顕著に現れています。

市区町村の自治体や団体が運営している「子ども食堂」「無料塾」「教育バウチャー・クーポン」など、様々な形で低所得家庭の子どもたちを支える取り組みが行われていますが、まだまだ継続・発展的な動きが必要です。通年での継続的な取り組みが難しい場合には、まずは長期休みに短期集中で取り組んでみることも効果的だと考えられます。

夏休みが終わった後に、家庭の状況に関わらず、楽しい思い出があり、一回りも二回りも大きく成長できた長期休みだったと言えるように、官民問わず連携・協力を進めながら子どもたちのために動いていく必要があります。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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