教育格差

経済状況や家庭・学校等で困難を抱える子が本当に必要としていること-学習や居場所の支援現場から見えたもの

私は、内山田のぞみと申します。父の借金が原因で4歳の時に両親が離婚し、母子家庭で育ちました。

現在は慶應大学の4年生ですが、4月からは一般企業に就職します。自分自身の経験から所得格差による教育格差に問題意識があり、2013年12月からNPO法人キッズドアで塾に通えない中3生の受験指導を中心に学習支援に携わり、1年間のインターンを経て、現在ではスタッフとして働いています。

また、2015年6月からは一般財団法人子どもの貧困対策センターあすのばの理事を務めています。

NPO法人キッズドアの活動で、中学生に対する学習支援を行っている内山田のぞみさん(NPO法人キッズドアの活動で、中学生に対する学習支援を行っている内山田のぞみさん)

現在、私は足立区で経済的困難を抱えていたり、家庭や学校で困りごとを抱えている中学生を対象とした「居場所を兼ねた学習支援事業」のスタッフとして働いています。去年8月から始まった「居場所」は、火曜日を除く週6日、登録した子であればいつでも来ていいところです。

ひとつの部屋がアコーディオンカーテンで仕切られていて、学習ゾーンと居場所ゾーンに区切られています。子どもたちは自習をしたり、トランプで遊んだり、漫画を読んだり、自由に時間を過ごします。最近では、土日にカレーライスやおでんなど、食事の提供も行っています。子どもたちには、「週1回決められた曜日の18時から20時は必ず勉強する」という決まりが設けられており、その曜日には大学生や社会人の学習ボランティアがマンツーマンで勉強を教えています。

「居場所」が開設して5ヶ月が経ち、毎日子どもが10人以上集まってきます。学習・居場所の両方の支援を行う中で、子ども達が必要としていることが見えてきました。学習支援、居場所支援のそれぞれで求められていること、両方の支援に共通して求められていることをお伝えしたいと思います。

学習支援で求められているのは、単に「いま学校で習ってる範囲を教える」ことではない

NPO法人キッズドアでは、親の経済状況などから塾などに通えない中学生・高校生に対して、高校・大学進学のサポートを行っている(NPO法人キッズドアでは、親の経済状況などから塾などに通えない中学生・高校生に対して、高校・大学進学のサポートを行っている)

学習会を通して、またこれまで学習支援に携わってきた経験から、学習支援で重要なのは「いま学校で習っている範囲を教える」ことではないと思います。

学習会では、子どもに教材を持ってきてもらう「持ち込み学習」を行っています。わからないところや、自習したいところを持ってきてもらい、ボランティアがマンツーマンで見ていきます。

たいてい、子どもが「わからない」と持ってくるのはいま習っている範囲の部分です。でも、その子がわからない原因を探ってみると、習っている以前の範囲でつまずいてる場合がほとんどです。例えば、「数学の連立方程式がわからない」と言っている子を指導すると、中学1年生で習う「文字式」や、小学校高学年で習う「分数の計算」でわからなくなっています。

子ども達が持ってくる「わからない」から、どこからわからなくなっているのかを探し出し、そこから遡って指導する必要があります。学校で習っている範囲を教えても、「わからない」から「わかる」には変わりません。学習会では、子どもが持ち込んだ教材をただ教えるだけでない、振り返り学習が求められています。

また、受験を控えた中学3年生には、プラスして進路指導と提出物指導が必要です。

学習会に通ってくる子ども達の多くは、親が高校の情報を持っていません。経済的に厳しい家庭では、親が仕事に追われているため、家庭で進路指導まで手が回りません。子ども達は自分で相応の志望校を見つけなければならないのですが、中学3年生にとっては大変なことです。子どもと一緒に志望校を探してあげることが必要です。

やっとのことで「受験を頑張ろう!」とやる気をだした受験生にのしかかる問題が内申点です。都立高校の入試では通知表の成績(内申点)が点数化され、当日の学力テストとの合計で合否が決まります。

学習会に通ってくる子ども達は、内申点が低い傾向にあります。その内申点を上げるために、提出物を出すことを徹底させています。仕事が忙しい親は、子どもの提出物を把握できる時間がありません。学校の提出物を出したかどうかを確認することは受験対策につながります。

居場所支援で求められているのは、「心から安心できる場所」と「人とのつながり」

足立区の「居場所を兼ねた学習支援事業」で中学生の指導を行う内山田のぞみさん(足立区の「居場所を兼ねた学習支援事業」で中学生の指導を行う内山田のぞみさん)

学習会以外の日に、居場所目的で来る子どもが増えてきました。アニメの話題で盛り上がったり、ゲームをしたり、軽食を食べたり、悩みごとを相談したりと様々です。最近の「居場所」の流行はトランプの「大富豪」というゲームで、中学生もボランティアの大学生や社会人も本気で勝負しています。

居場所に来る生徒は、学校にあまり馴染めてなかったり、自宅に帰りたくなかったりと何かしらのモヤモヤを抱えている子が多くいます。その子たちにとって、必要なのは「心から安心できる場所」と「人とのつながり」です。

中学生にとってのコミュニティのほとんどは、家庭か学校です。家庭でも学校でも、なにかしらのモヤモヤを抱えている子は心から安心できる場所がありません。そんな子ども達にとって、家庭でもない学校でもない居場所は、自分の素をだせる心から安心できる場所になりつつあるのではないかと思います。

居場所で子ども達は様々なことをして時間を過ごしますが、みんな人とのつながりを求めているように感じます。違う学校の違う学年の生徒が、居場所内で友達になって遊んでいます。いろんな悩み事を、スタッフに打ち明けてくれることもあります。

経済的に厳しい家庭では「関係性の貧困」に陥りやすいと言われています。

少しでも生活の糧を得るために、ダブルワーク、トリプルワークをして夜遅くまで働いていたり、そうでなくても親が仕事に追われていることが多く、子どもと一緒にゆっくりご飯を食べたり、学校であったことをゆっくり話したりする時間があまりありません。隣近所の付き合いばかりでなく、子どもにかかわる時間が極端に少ないなどの親子の関係性も貧困状態になっているのが現状です。

「自分のことを見てくれている人がいない・心配してくれる人がいない」と子どもが感じることも少なくありません。同世代の友達や、大人のボランティアと遊んだり話したりすることで、社会的なつながりができます。居場所支援はそんな関係性の貧困を是正できる場所になるだろうと感じます。

学習会の場面でも、居場所の場面でも、子ども達が最も必要としているのは、「寄り添ってくれる人の存在」です。

学習会と居場所を併設しているからこそ、難しいこともたくさんあります。

自習に来た受験を控えたある中学3年生が、先ほどの「大富豪」の誘いにのってしまいます。学習会の時間中に居場所で盛り上がりすぎてうるさくなることもあります。でも、可能性も見つかり始めています。居場所利用をしにきた中学3年生が、下級生に勉強を教えてくれたりしています。居場所で上級生がお兄さんお姉さん代わりをしてくれて、下級生と一緒に遊んでくれています。

これまで学習会と居場所のそれぞれで子どもたちが求めていることを書いてきましたが、いま、経済的に厳しかったり家庭や学校で困りごとを抱えたりしている子ども達が1番求めているのは「寄り添ってくれる人の存在」なのではないかと考えています。

学習会で、振り返り学習や進路指導をするにはその子の現状をしっかりみなければなりません。それは、とても根気がいることでその子に寄り添わなければわからないことです。居場所でも、寄り添ってくれる人がいなければ、心から安心する場所をつくることはできません。「子どもに寄り添うこと」が、子どもの貧困を是正していく上で必要だと思います。

中学3年生は、もう受験まであとわずかとなっています。私がこの足立区の「居場所を兼ねた学習支援事業」に関われるのも、あとわずかです。残りの期間、学習会でも居場所でも、思いっきり子どもに寄り添って一緒に成長していけたらいいなと思います。

Author:内山田のぞみ
慶應義塾大学環境情報学部4年、NPO法人キッズドア・スタッフ、一般財団法人子どもの貧困対策センターあすのば・理事
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