学校教員

「教師不足」の実態は、低賃金で不安定な非正規雇用の「リンサイ」不足-文科省の「教師不足」に関する実態調査に見る臨時的任用教員のあり方

教室で黒板に文字を書く日本人女性教師

2022年1月31日、文部科学省による「『教師不足』に関する実態調査」(以下、実態調査)の結果が公表されました。この調査は、主に67都道府県と指定都市教育委員会を対象に行われた調査です。

それによると、令和3年始業式時点で不足していた教師の数は、小中学校・特別支援学校・高等学校合わせて2,558人で、教師不足が発生している学校の数は1,897校でした。また、本来担任ではない職務の教師が学級担任を代替しているケースは、小学校では474件ありました。

不足している人数は現場で補い合う必要があり、教師が疲弊していく状況が想像できます。一方で「教師不足」という言葉でまとめてしまうことで、見えにくくなっている現状があるようにも思います。

本記事では実態調査を踏まえながら、「教師不足」の現状について整理していきたいと思います。

「教師」不足=「臨時的任用教員等の講師」不足

そもそも「教師不足」とはどのような状態なのでしょうか?実態調査には、以下のように記載されています。

臨時的任用教員等の講師の確保ができず、実際に学校に配置されている教師の数が、各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教師の数(配当数)を満たしておらず欠員が生じる状態を指す。

「臨時的任用教員等の講師の確保ができない」「それにより欠員が生じる状態」を指しています。つまり端的に述べると、非正規雇用の「臨時的任用教員等の講師」が足りていない状態であると言えます。

学校教員の雇用形態別内訳を見てみると、小学校の教員総数のうち正規教員の割合は約87%、臨時的任用教員は約11%、非常勤講師は約1.5%でした。また、学級担任の雇用形態別内訳を見てみると、正規教員が担っている割合は約88%、臨時的任用教員は約11%でした。1割を占める臨時的任用教員の存在は、現場で重要な存在であると言えます。

学校教員の雇用形態別内訳
(文部科学省:「教師不足」に関する実態調査)

不足は全国一律ではなく、地域によるバラつきがある

都道府県市別の不足状況を見てみるとバラつきがあります。小学校を見てみると、山形、群馬、東京、新潟、和歌山、山口では不足は0です。一方同じ関東でも、例えば千葉では91人が84校で、埼玉では67人が55校で不足しています。しかし「千葉市」「さいたま市」だけを見ると不足は0です。都道府県ごと、さらに自治体ごとに不足状況が異なる実態が見えてきます。


(文部科学省:「教師不足」に関する実態調査)


(文部科学省:「教師不足」に関する実態調査)

民間の企業等であれば、人手が不足したり、応募者数が少ない場合は、正規雇用も含めた待遇の改善を検討するでしょう。なぜ、学校は正規教員の採用数を増やさないのかという疑問が湧いてきます。

どの地域でも義務教育に必要な教員数が確保できるように、教員の給与は都道府県(約1/3は国庫負担金)から支払われています。しかしそれぞれの地域で少子化が進む中、将来的に必要となる教員の調整が図りやすいように、正規ではない臨時的任用教員の雇用を重要視しているのではないかと考えられます。

臨時的任用教員の不足する原因とは?

実態調査の中で「教師不足」の要因を、「臨時的任用教員のなり手不足」という観点で捉えて整理された部分がありました。

それによると教師不足の要因は、「講師登録名簿登載希望者数の減少」と「採用試験に合格し正規教員に採用された臨時的任用教員等の増加による講師名簿登録者の減少」が、66自治体中61自治体で最も多い割合でした。つまり”臨時的任用教員としての採用を待つ人数が減った”ということです。

「教師不足」の要因 ②臨時的任用教員のなり手不足

講師登録者数の増加に向けた各自治体の取り組み例として、下記のような紹介がありました。

自治体独自にポスターやチラシ、リーフレット、HP、メディア、民間求人サイト等を活用した広報活動を行っている。また、自治体独自の人材バンクの設置や、教員採用試験において1次選考から講師登録名簿の案内を行ったり、講師経験を有する者への特別選考を行っている自治体もある。

「講師登録者数を増やす」という観点からすると、確かに有効なのかもしれません。しかしその前に、「講師登録者数が減った=臨時的任用教員としての採用を待つ人数が減った」のはなぜなのか、という点について考える必要があるように思います。

「臨時的任用教員」はどのような存在か

「リンサイ」とも呼ばれている「臨時的任用教員」とはどういった教員を指すのでしょうか。地方公務員第22条の3第1項では、以下のように記載されています。

人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿(第二十一条の四第四項において読み替えて準用する第二十一条第一項に規定する昇任候補者名簿を含む。)がないときは、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、任命権者は、人事委員会の承認を得て、当該臨時的任用を六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。(地方公務員第22条の3第1項)

多くの学校では、産休や育休、病休で欠員が発生した際に採用される教員を指すことが多いようです。「6か月を超えない期間で更新できる、再度の更新はできない」ということは、最長で勤務期間は1年ということになります。

欠員が生じた際に配置される教員なので、勤務時間や勤務内容は他の正規教員と同じになります。学級担任を受け持つこともあれば、部活の顧問をすることもあるでしょう。しかし、正規教員ではなくあくまで臨時のため、新卒の場合であっても研修などはなく、いきなり勤務がスタートします。

また、原則的に1年しか勤務できないため、昇給することはほとんどありません。1年後は退職という形になり退職金が支払われるようですが、1年間の勤務に対する退職金のため大きな額にはなりません。「臨時的任用教員」を続ける場合は、「採用されては一年で退職」を繰り返すことになります。

民間では、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換される無期転換のルールなどが整備される中、単年度で契約終了とする形での雇用は、とても不安定な働き方であると言えます。

教師不足の根本的な問題に目を向けるべき

「教師不足」により、疲弊している現場があることは間違いありません。しかし「じゃあ、今の条件のままで臨時的任用教員になる人をもっと増やそう!」という方向性では、根本的な解決にならないと思います。

臨時的任用教員で教師不足の穴埋めをしようとする方向性は、問題をより深刻化させているように感じます。正規教員とは異なる待遇であるにも関わらず、臨時的任用教員に対して、同じ立場、同じ勤務内容が求められていること自体が問題です。

今後、学校教員の負担を軽減していくための教員加配も検討が進むと考えられます。また、教員自身が知識や技術を習得・向上させていくためにも、短期的な臨時的任用という形では限界があります。

まず第一に正規教員での増員が検討されるべきであり、そのためには国の財政面での拡充も不可欠です。そのうえで、臨時的任用教員に対して、給与面などの待遇や労働環境等の改善を図る必要があります。

また、現在の法律(地方公務員法第22条の3第5項)によると、「臨時的任用は、正式任用に際して、いかなる優先権をも与えるものではない。」とあります。つまり臨時的任用で働いても、正規任用にはつながらない、ということを意味しています。

正規教員と同じように働きながら試験勉強をして、正規任用を目指すのは並大抵のことではありません。複数年度で雇用契約ができるようにしたり、臨時的任用から正規任用へとつながるような仕組み作りが、最低限必要なのではないでしょうか?

教師が不足することにより、一番の影響を被るのは子どもたちです。

子どもたちが安心して毎日の学校生活を送っていけるように、「教師不足」が根本的な解決に向かうことを願うばかりです。

<参照元>
文部科学省:令和4年1月31日「教師不足」に関する実態調査

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子・岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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