児童虐待・マルトリートメント

子ども虐待のない社会をつくるために(後編)-体罰は傷害・暴行。子どもを所有物化する危険。

2019年7月23日に、さわかみ投信株式会社(東京都千代田区)において、公益財団法人お金をまわそう基金・特定非営利活動法人タイガーマスク基金が主催し、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが協力し、「子ども虐待のない社会をつくるために~子どもの権利と体罰禁止」と題したセミナーが行われました。

子どもの権利の普及・啓発を目的とした「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」に賛同する団体から3名が登壇し、初めは川上園子氏による講演、後半は登壇者3名によるパネルディスカッションが実施されました。

本記事では、セミナーの内容をレポートとして紹介いたします。前編、中編に引き続き、後編では、川上園子氏(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部部長)、安藤哲也氏(NPO法人タイガーマスク基金 代表理事)、高祖常子氏(タイガーマスク基金 理事)によるパネルディスカッションの内容をお伝えいたします。

子ども虐待のない社会をつくるために~子どもの権利と体罰禁止

暴力が許される、許されないの違いは?

高祖氏:今日、電車の中で「人をぶっちゃだめなんだよ」というメッセージが載った広告を見たんですね。それは、乗客同士の暴力や、駅員さんに対しての暴力を止める内容だったのですが、公共の場所での暴力はダメということは当たり前になっているのに、家の中で親から子どもへ、学校の中で先生から生徒への暴力は、まだ見逃されている感じがあると思います。子どもだからと言って、暴力を受けて当たり前という社会を変えていきたいです。

安藤氏:私が中学生の時、もう40年くらい前ですが、体罰は当たり前に横行していました。意見表明もできないし、自由も認められない。卓球部に入ろうと思ったのですが、坊主にしないと入部させないと言われて、辞めるしかなかったです。

川上氏:会社などの組織で、疑似的な親子関係を作ってしまうことはよく見られますね。従順なうちはかわいがって、反旗を翻すと途端に攻撃をしたり、虐げたり。疑似親子関係の中での暴力は許される、という風潮は、日本社会の中ではあると思います。

高祖常子氏:タイガーマスク基金 理事(高祖常子氏:タイガーマスク基金・理事)

子どもが声を上げられるようになるために

高祖氏:海外で体罰禁止を法制化した国では、同時に「子どもの意見を聴く」ということも整備してきていますが、その辺りは日本ではこれからですね。子ども自身が声をあげることが、まだ難しい。子どもは他の家庭のことを知らないので、殴られたり怒鳴られたりするのは自分が悪いからだ、と思ってしまうことは、よくあると思います。

川上氏:直近で大切なのは、子どもたちがSOSを言えるチャンネルを増やしてあげることですね。ダイヤルでもLINEでもいいですが、信頼できる大人を見つけられる環境を整えることが、とても重要です。もちろん、SOSを出せない子どもたちもいると思うので、それに対して何ができるのか?は悩ましいですが…

安藤氏:小さいころから「周りに迷惑をかけるな」と言われて育つと、SOSは出しにくくなりますよね。人に迷惑をかけずに生きている人なんていないのだから、迷惑をお互いに受け入れて、失敗しても立ち直れるような社会を作っていくことが、とても重要だと考えます。

安藤哲也氏:NPO法人タイガーマスク基金 代表理事(安藤哲也氏:NPO法人タイガーマスク基金・代表理事)

一人ひとりの違いや考え方を尊重すること

高祖氏:日本の教育は少々画一的なところがありますよね。学校の中ではみんなと違うことを言うとターゲットになってしまったり、いじめにあったり、子育てでは兄弟同士や同年齢の友だちと比べてしまったり。みんなで力を合わせて一緒に取り組む素晴らしさももちろん大事ですが、一人ひとりいろんな意見があることを認めて、尊重できるようになってほしいです。

川上氏:ヨーロッパでは「個」がはっきりしていますよね。一人ひとりが「一人の人間だ」という考え方が、醸成されています。個として、言うべきことは言うし、譲れないものも持っている。それはわがままとは違います。

安藤氏:あなたはかけがえのないあなたであって、世界に一人しかいないあなたなんだよ、ということを、子育てをする中で子どもに伝えてほしいと、講座などではよく話しています。生まれてきてよかったんだという自尊感情、自己肯定感があることが原点です。

それが十分でない状態で「迷惑をかけるな」が始まってしまうからよくない。もっと子どもの自尊感情が育まれるような子育てができるように、男女ともに親なる人を支援するプログラムは必要だと考えます。

川上園子氏:公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部部長(川上園子氏:公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 国内事業部部長)

子どもが所有物化してしまうのはなぜ?

高祖氏:今は「教育虐待」なんて言葉もありますが、親が子どものためを思う気持ちはわかりますが、それが強くなりすぎて、威圧的な態度や暴言を吐いてしまうなど、コントロール型で育てようとしてしまうことがまだまだありますよね。コルチャック氏の言葉にもあった通り、子どもは小さくても一人の人間であるということを、改めて強く認識する必要があると思います。

川上氏:子どもだけが所有物とされていたわけではないですよね。長い歴史を見ると、かつて人権を持っていたのは成人男性だけで、女性も最近までは所有物として扱われていました。奴隷や召使とされてきた人々もそうです。

成人男性が主(あるじ)で、後は所有物という考え方が転換されたのは、「全ての人に同じ権利がある」「私はあなたの所有物ではない」という、それぞれの当事者の闘いの結果です。所有物から自己決定をもつ一人の人間であることを認められるようになったという歴史の中で、最後に残ってしまっているのが子どもなんだと思います。

安藤氏:明治以降の家父長制ですよね。民法で規定されたので、それでよしとされてしまった。家墓を守る成人男子がすべてを支配し、女性も子どもも従うしかなく、自己表明権もなかった、ということがずっと続いてしまったんですよね。

子ども虐待のない社会をつくるために~子どもの権利と体罰禁止

日本でも体罰禁止が当たり前の社会が実現されるのか?

川上氏:先ほども言った通り、ヨーロッパでは「個」が確立していますし、欧州人権裁判所など、地域で人権をよくしていこう、という考え方が実際に機能しており、体罰禁止を後押ししています。地域人権機構は、東アジアにはないんですよね。

体罰について、環境的な難しさはありますが、法律で明示的に禁止すること、加えて啓発キャンペーンをしっかり行えば、「体罰は禁止になったんだな」という認知度は確実に上がると思います。そのために予算や人員を割けるかどうか、政府の本気度が試されていると感じますね。

高祖氏:東京都では、国よりも早く条例として体罰禁止をスタートさせています。先日、ある区の児童相談所の方がおっしゃっていましたが、条例があることで虐待の通告があった際、「子どもを叩いたり殴ることはダメですよ」と、家庭の中に入りやすくなったと。

それまでは、「家のしつけに口を出すな」と言われていたところが、支援につなげやすくなったということでした。都の条例のみならず、来年度から国が体罰禁止を実施するインパクトは、かなり大きいと思います。

安藤氏:「体罰」という言葉がまずおかしいと思うんですよね。ストレートに言えば、「傷害」「暴行」ですよ。体罰という言葉を使っているから、「悪いことをしたから罰を受けて当然だ」と自己解釈して、容認してしまう人が6割くらいいるのだと思います。「体罰という言葉を変えよう」というアドボカシーが必要になってくると考えます。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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