20歳未満の少年・少女が罪を犯してしまった時、家庭裁判所での調査・審判が行われ、処分が決められます。20歳未満の少年・少女の場合、再び罪を犯すことがないように、改善・更生を重視した指導・訓練が行われます。
多くの方は、「少年院に入るんでしょ?」と思われがちですが、罪を犯した全ての少年・少女が少年院で過ごすわけではありません。
児童自立支援施設など少年院とは別の施設に入ることもありますが、多くの場合は、保護観察官及び保護司の指導・監督を受けながら通常の社会生活を送る中で更生を目指していく「保護観察」処分となります。社会内で更生できるかどうかがまず第一であり、それが難しい場合に少年院や児童自立支援施設などの施設内の処遇の処分が行われます。
では、どのような人が保護観察時の指導・監督を行っているのでしょうか?
保護観察は、心理学・教育学・社会学等の専門的知識をもつ国家公務員の保護観察官(全国に約1,000名)、無給の非常勤の国家公務員である保護司(全国に約48,000人)が協働して行います。
保護司は、実質的な民間ボランティアです。様々な研修を受け、本人や家族に対する助言・指導、地域の活動や就労先等に関する情報提供や同行、報告書の作成提出など、一定の時間や労力が必要となります。また、少年・少女の更生に向けた直接の指導・監督を行う責任ある立場でもあります。
日本の罪を犯してしまった非行少年・少女の更生保護は、このような地域ボランティアの篤志家によって支えられているといっても過言ではありません。
保護司の現状
近年、既存の保護司の高齢化や新しい保護司の確保が困難な状況から保護司の減少が進んでいます。
平成16年には49,389名だった保護司は、平成26年には47,194名となり、10年間で約1,500名ほど減少しています。また、60歳以上の占める割合が増加しており、平成27年で平均年齢が64.7歳となり、約8割が60代以上となっています。
保護司を務めている方の職業も時代と共に変わってきており、農林水産業の占める割合が減少し,主婦を含む無職の割合が増加傾向にあることがわかります。
法務省保護局と全国保護司連盟が協力し、全国の地区保護司会の会長を対象に、保護司の確保の状況等に関するアンケート調査では、「10年前と比べて、保護司候補者確保についてどのように感じますか?」という設問では、約6割が「困難になった」と回答しており、都市部では特にこれらの割合が高く、都市部での保護司確保はより困難になっています。
「保護司になってくれるよう依頼して断られたことがありますか?ある場合、どのような理由で断られましたか?」という設問では、84.7%が断れた経験があり、都市部では約9割に達しています。断られた理由としては、「忙しく、時間的余裕がない」という理由で断られた者が7割以上おり、次いで「家族の理解が得られない」「犯罪をした人等に対する指導・援助が不安」「犯罪した人等が来訪してくるのが負担」となっています。
これからの保護司のあり方
保護司の職務内容や責任の重さを考えれば、なかなかボランティアで引き受けることが難しいという反応は、ごく自然な反応だと思います。指導や援助に関する経験がないのは、当たり前のことであり、それに対応した研修やネットワーク・コミュニティによるサポートは、より手厚くしていくことは可能です。
しかしながら、社会全体で格差が広がっている中で、一度、仕事を退職した世代もまた新たに再就職するケースも増えており、負担のかかる保護司のようなボランティアが避けられるのも理解できます。特に都市部で避けられているのは、以前と比べて企業に勤めて働く人が増え、農林水産業や自営業の方に比べて、時間的に制約がある方が増えているのも一因になっていると思います。
今の保護司の仕組みで増員させていくことは、以前とは社会状況が変化しており、かなり困難な状況だと考えられます。今後、地域で特定の方が保護司と一緒に民生委員・児童委員などの役割を兼任しているケースもより一層増えていくでしょう。
「社会内処遇」の新しい担い手を増やしていくためには、できるだけ早い時期に新しい制度設計が必要になってきています。もちろん、少年・少女の更生を行い、再犯率を下げていくために、これまで以上に効果的な仕組みでなくてはなりません。
個人として取り組むことの負担軽減や、再犯率を下げていくための知識や技術を高めて共有していくうえでも、これまでの個人という枠組みではなく、組織や団体に対する連携を図っていくことは重要な視点だと思います。欧米では、罪を犯してしまった少年・少女に対して、民間の非営利団体が行政と連携してサポートやプログラムを提供しているケースは数多くあります。
地域に根付いた形で子どもや若者の教育支援や就労支援に継続的に取り組んでいるNPOや公益社団・財団などの非営利法人と連携することで、「社会内処遇」の理念に基づいた形で新しい担い手を増やしていけるのではないでしょうか?
複雑な問題を抱えているケースに対して個人という切り口では限界があり、様々な支援の専門性をもった組織や団体、ネットワークで解決を図っていくことが、より精度の高い少年・少女の更生にもつながると思います。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。