(最終報告会での株式会社セールスフォース・ドットコムの川原均取締役社長兼COOからのご挨拶)
学歴や職歴に関わらず無業や非正規状態にある若者の就労支援を行っている「BizAcademy」というプログラムがあります。
「BizAcademy」は、株式会社セールスフォース・ドットコムの社会貢献部門にあたる「セールスフォース・ドットコム ファンデーション」とNPO法人夢職人の協働で開催する若者就労支援プログラムで、今回は、関東近郊のみならず関西や九州からも応募があり、最終的に11名の若者がプログラムに参加しました。本記事では、今年10月に開催された 「BizAcademy」の様子をレポートいたします。
「世界で最も革新的な企業」が行う若者の就労支援プログラムとは?
セールスフォース・ドットコム社の顧客管理(CRM)システムは、世界No.1シェアを誇り、世界で10万社以上もの企業に導入され、営業やマーケティング、カスタマーサービスなど幅広く企業活動を支援しています。
米Forbes誌にも4年連続「世界で最も革新的な企業」の第1位に選ばれているグローバル企業です。国内でも飛躍的な成長をしており、官民問わずそのサービスを活用している企業・団体・自治体は多くあります。
また、セールスフォース・ドットコム社は、2000年7月には、数百万ドルの資金を有する国際的な非営利団体「セールスフォース・ドットコムファンデーション」を設立し、さらには製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を地域社会に還元する、「1-1-1モデル」を考案しました。
「BizAcademy」は、これから正規雇用を目指している満18歳~34歳の無職・非正規状態にある若者(中卒・高卒・専門卒者、大学既卒者・第二新卒者、フリーター・派遣社員・契約社員、ブランクのある再就職希望者など)を対象とし、これまでの学歴や就労経験は不問の12日間のプログラムです。
プログラム期間中は、基本的なビジネスマナーやITに関する講座、Salesforce管理者研修を受講し、IT業界などで就業に必要な知識や技術を身につけられる内容になっています。また、一人の参加者に対して、数名のセールスフォース・ドットコム社の社員がメンターとなり、プログラム中の相談や将来のキャリアビジョンに向けてアドバイスします。
(CRMシステム・Salesforce管理者研修の受講の様子。エンジニアやプログラマの経験がなくても、経験豊富な講師がわかりやすく指導している。)
12日間のプログラム修了後には、一定期間の間、正規就労に向けたフォローアップを受けることができます。また、セールスフォース・ドットコム社のパートナー企業・非営利団体での実践研修へ参加できる機会があり、営業やシステムエンジニアなど幅広い職種で受け入れの可能性があります。
昨年の実践研修終了後には、正社員として登用されたケースもありました。今年の12日間のプログラムが終了してからまだ一ヶ月経過していませんが、内定を得ている参加者も出てきています。
2015年は対象年齢の幅も広がり、経済状況を考慮して参加手当を支給
今年は、経済的に苦しい状態の方が交通費等での自己負担なく、プログラムに参加できるように、12日間で60,000円の参加手当を支給されることになりました。
これまでにも行政やNPOが様々な形で若者の就労支援に取り組んでいますが、参加手当が支給され、経済上のサポートを受けながら研修を受けられるプログラムはまだ数少なく貴重です
。実際に参加者の感想の中からも「こういったプログラム中は収入がなく、毎日の交通費や食費を工面することが難しいため、これまでもこういったプログラムの参加を断念したことがありました」という声が聞かれました。
また、昨年からの変化として、対象年齢も満29歳までだった年齢を公的な就労支援の枠組みに合わせ、34歳までに広がりました。
プログラム内容も実際の就労へのイメージを膨らませられるように、パートナー企業への直接訪問も行い、昨年実際に就労したBizAcademyの先輩から話を聞くことができるようになりました。
「BizAcademy」を通じて、大きな成長する参加者たち
「自分のことを一番わかっているのが自分とは限らない。失敗より悪いのは挑戦しないこと。」「技術をしっかりと身につけ社会に貢献したい」「IoTで予防医療を実現したい」最終日の報告会での一幕です。初日の彼らの姿からは、まさかそんな言葉が出てくるとは思いもしませんでした。
プログラムの趣旨の通り、過去に不登校・中退やひきこもり等の挫折経験があったり、心身の健康問題などで職歴にブランクがある若者が多く参加しています。就労経験が少なく年齢と共に就労への機会も限られるようになり、なかなか就労に結びつくことが難しくなっており、何十社応募しても面接すら受けられないということが少なくないようです。
そのような状況が続く中で、過去の経験に加えてさらに自信を失い、孤独な就職活動に苦しんでいる多くの若者の姿が容易に想像できます。そんな彼らにとって大きな転換点となったのは、どのような点だったのでしょうか?
(パートナー企業へ直接訪問し、実際の職場を見学したり、事業の話をお伺いできる)
「BizAcademy」の何が参加者に影響を与えているのか?
プログラム中の状況や最終報告会の発表を聞いていると、参加者に影響を与えている要素は、主に3つあったように思います。
一つは、同様の経験を持つ仲間の存在です。過去に何らかの障害にぶつかり苦しんだ経験がある者同士だからこそ、分かり合えることがあります。
プログラムの中でも何か上手くいかないことなどがあれば、互いに助け合い励まし合っていた姿はとても印象的でした。最終報告会でも仲間への感謝の言葉を何度も繰り返していました。「久しぶりに学校のクラスのような雰囲気を感じられて良かった」という感想もあり、プログラムの終わった後に参加者で集まり、食事に出かけたりもしていたようです。
二つ目は、社員メンターの存在です。カウンセラーなどの専門家とは異なるちょっと年上の先輩からの話は、親しみやすく参加者にとても心に響くようです。
セールスフォース・ドットコムというトップクラスのビジネスパーソンとのコミュニケーションから学ぶ点が非常に多かったようです。最終報告会では、我が子を見守るような社員メンターの姿がたびたび見受けられました。上下関係でもない横の関係でもない斜めの関係は、彼らにとっての一つの心の拠り所になったように思いました。
三つ目は、プログラム内容・環境です。東京駅からすぐの丸の内にある美しいデザインに囲まれたセールスフォース・ドットコム社の東京オフィスで研修は行われ、指導を行う講師もビジネスの最前線で活躍している方ばかりです。
研修では、クラウドサービスやIoTというIT業界の最先端の内容をわかりやすく学ぶことができます。もちろん、未知の分野で難しく感じる点もあったと思います。しかしながら、一流の環境の中で、一流の講師から学んだことは、彼らの自尊心に大きな影響を与えたと思います。
アメリカの社会起業家として世界的に著名なビル・ストリックランド氏が「ビッドウェル・トレーニングセンター」という地元企業と連携した革新的な職業訓練を行っています。(あなたには夢がある 小さなアトリエから始まったスラム街の奇跡)厳しい環境に置かれた彼らにこそ、一流の環境が必要だという発想は、正にBizAcademyにも通ずるように感じました。
IT分野は、将来的に成長が見込める業界でありながら、慢性的な人材不足となっており、正規雇用を目指している若者がこのようなプログラムでITスキルを身につけることは、正規就業につながるステップになります。企業側にとっても若者側にとってもWin-Winのプログラムです。
これまでの行政やNPOが行ってきた若者就労支援とは、異なる新たな価値を生み出すプログラムとして今後の展開が楽しみです。
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。