シチズンシップ教育スウェーデン

若者の投票率80%超のスウェーデンが行う模擬選挙とは?(前編)-国や学校がサポートし、生徒が主導で行う「学校選挙」

18歳で投票ができるようになり、「政治教育」や「主権者教育」に注目が集まっています。政治的な話題をどのように扱ったら良いかが様々に議論されています。

それというのもこれまで日本は戦後、文科省による69年通達を皮切りに教育と政治をわける教育の「脱政治化」が起きてしまい、飲み会のタブーの話題として「政治・宗教・野球」といわれるくらいに生活や教育から「政治」がなくなってしまったからです。

その結果、何が起きているかというと、先進国の中でもだんとつで低い選挙投票率に、社会参加の意識といっても言い過ぎではないでしょう。

さて、そんな目を覆いたくなる状況ではありますが、国内で若い世代の市民性を育む取り組みとして「未成年模擬選挙」というものがあります。

未成年模擬選挙:有権者ではない、未来の有権者である20歳未満が、実際の選挙にあわせて実際の立候補者・政党に対して投票する。実際の選挙結果との比較や、投票理由などを議員に届ける。(未成年模擬選挙ホームページ

その名の通り、模擬の選挙を選挙権のない生徒のために実施するのです。そうして練習することで、実際の選挙で投票をする18歳になったときに学校で習ったように自分で投票するために、何をしたらいいかということがわかるのです。これまでに延べ200校、4.5万人を超える未来の有権者が参加しているとのことです。

同じような取り組みが、ここ若者参加の先進国、スウェーデンにもあるのです。その名もSkolval 2018、つまり「学校選挙2018」です。未成年模擬選挙と同じように、選挙がある時に18歳未満の選挙権のない学校の生徒が、選挙の「練習」をすることができます。

実は、4年前に未成年模擬選挙の代表である林大介さんとともに、現地へ見にいきました。(※1)2018年6月のスウェーデン視察時に、「学校選挙2018」を実施しているスウェーデン生徒組合の事務所で、この取り組みのお話を聞くことができました。

※1:なぜスウェーデンの若者の投票率は高いのか

スウェーデンではどのように学校での模擬選挙を実施しているのか?

先方は、事務局の広報部のジュリア(Julia Söderberg)とプロジェクトアシスタントのヘレナ(Helena Olsson)です。弱冠20歳の2人に話を聞きました。

こちらの訪問側はYEC〈若者エンパワメント委員会〉の大学生らと(こちらの訪問側はYEC〈若者エンパワメント委員会〉の大学生らと)

Skolval 2018 「学校選挙2018 」とは何か?

ジュリア:学校選挙とはまず何かということを話します。学校選挙とは、中学校(基礎学校の高等部)と高校でやっている模擬選挙です。

それぞれの学校で活動していて、参加費も一切かからないし、私たちはそのための教材を提供しています。ほとんど実際の総選挙と同じ方法でやりますが、一番大きな違いとしては、ここでの投票は実際の選挙の投票には換算されないということです。

一番の目的としては、スウェーデンの民主主義について学ぶということです。生徒自身が生徒のために自分たちの手によってこの活動をすることを大事にしているということです。

1960年代から続く学校選挙の歴史

ヘレナ:結構歴史が長いので、簡単にこれまでの歩みを説明します。

1960年代に最初の学校選挙を実施しました。その時の学校選挙は、国などの公的機関がやっていたのではなくて、それぞれの学校が自分たちで、生徒と先生で勝手にやっていました。

1998年になって初めて国を挙げてやるようになって、その時に国全体での投票結果も集めるようになりました。これができるようになったのは、国のいくつかの機関とテレビ局が一緒に共同でやることになったからです。この時で既に370校が参加していました。

2002年になってから若者市民社会庁が手伝ってくれるようになりました。その時からこの生徒組合が責任を持って事業実施主体としてやることになりました。それから4年ごとに選挙があるので、2006年、2010年、2014年の選挙で学校選挙をやってきました。2018年に今年はなったので、今回が生徒組合が学校選挙をやる三回目の選挙になります。

学校選挙はどのように実施されるのか?

ジュリア:運営の方法について話します。

国からの要請で、学校、生徒組合としてやってもらいたいのは毎回、4年に一度ある総選挙の時とEU選挙(欧州議会の議員を決める選挙)です。EU選挙は来年、2019年にあります。スウェーデン政府が予算を決めて、その額がすべてこの学校選挙につきます。

スウェーデン政府が方針を決めて、「それに従ってやってくださいね!」というのを、若者政策を管轄するスウェーデン若者市民社会庁に「やってください!」とお願いするということです。スウェーデン若者市民社会庁が、実際に現場でどこが学校選挙をやるのかを選ぶ事業の責任主体の省庁です。その下に今、私たちがいるということです。

「私たち」というのは、生徒組合の他に3組織が事業実施体として選ばれているからです。他にも、選挙管理委員会と学校教育庁が共同実施政府機関となっています。図示するとこのようになります。(※2)

学校選挙はどのように実施されるのか?

※2:2015年11月11日:「御用生徒会」が本物の生徒会になる方法~スウェーデン生徒会組合の取り組み~

学校選挙の予算は?

ヘレナ:予算規模としては、スウェーデン政府は約6,000万円ほどを若者市民社会庁に渡して、そこから約3,600万円くらいがこの若者団体におりてきます。若者市民社会庁だけじゃなくて、選挙管理委員会とも一緒に仕事をしています。選挙管理委員会と一緒にやっているから、実際の選挙に使われている用紙だったり、投票用紙を教材として使います。

もう一つ、一緒に仕事をしている省庁に学校教育庁があり、学校や校長との連絡を助けてもらったり、学校の法律に沿って実施できるように手伝ってもらっています。

学校選挙を実際にする生徒の数はどのくらい?

ジュリア:数字について話します。

2014年、50万人の生徒が投票する権利を持っていました。中学生と高校生で学校選挙に参加することができたのが50万人。1,800校が学校選挙を実施する登録をして、その結果、50万人の13歳から18歳の子ども・若者の77.5%が学校選挙に参加しました。実際のスウェーデンの総選挙の投票率は85%なので、それと比べたら、なかなか投票率も高いですよね。

実際の選挙ではスウェーデンは18歳から投票でき、18歳の人を「初回投票者」というのですが、その人たちの投票率は83%でした。投票するのは義務ではありません。学校選挙も拡大していて、今年は2,000校が目標で今のところ(総選挙時の3ヶ月前で)1,300校が実施の登録をしています。

8月の初旬までにまず登録を済ませてもらって、8月27日から9月7日の間に、生徒たちが投票する日を設定してもらいます。本物の選挙の投票日は9月9日だから、それより前の期間に学校選挙をやってもらうということです。来年は、EU選挙で同じように学校選挙をやります。

学校選挙の究極の目的は何か?

ヘレナ:目的について話します。

私たちとしては、選挙が公正・公平であることを大事にしています。つまり、投票は守秘義務があり、匿名であるべきであるし、学校の授業の一コマとしてやるのではなくて、ボランティアで(自発的に)参加してもらうということです。

このように、公正・公平な選挙をやるためには、学校選挙の担当者がそれぞれの学校について、実際にこの教材のとおりに実施しているかをチェックします。この教材の方では、「こういう手順でやりましょう!」というのが明確に書かれています。そのようにモニタリングをしています。

この学校選挙を通じて、スウェーデンの民主主義がどう機能しているのかを理解すること、そういう教育的な目的もあります。学校選挙をやって単に投票用紙、票を投票箱に入れるだけではなくて、それ以上の政治的な議論を活性化することにつながることを目的にしています。

ですので、できるだけ生徒たちが自分たちで刺激しあい、自分たちの手によってそういう討論の場や学校選挙を開催できるようにすることを目的にしています。学校選挙自体も楽しくやることも大事にしています。楽しければ楽しいほど、生徒たち自身も自分たちでやってくれるんじゃないかと思っています。

学校選挙を実施するのは生徒自身

ジュリア:最初にも話したとおり、生徒自身が学校選挙を実施するのです。だから、生徒たちがいつやるか、先生たちとどうやってやるか、先生たちと何をするのかも決めます。

それを私たちがサポートするために、必要な教材を送ったり、ウェブページで情報発信をしているということです。それぞれの学校の生徒組合に加盟している生徒会や、社会科の先生と連絡をとるのも生徒たちがやります。

学校選挙事務局がすべての学校にメールを送って、電話をして、社会科の先生に連絡をとることは最初にやりますが。私たち自身が生徒会に直接連絡をとることもできます。他にやっているのは、障がいをもった生徒たちへの支援です。あと、経済的、社会的に困難な状況にある生徒にもサポートをしています。

例えばインスタグラムでは開票作業の方法のビデオを公開しています。

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※元の記事:スウェーデンの模擬選挙の究極の目的とは?「学校選挙」事務局に聞いてみた

Author:両角達平
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の研究機関と大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。著書に「若者からはじまる民主主義-スウェーデンの若者政策」。
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