ここまで2回にわたって、高卒就職・採用に関する可能性と問題点について論じてきました。そして、新たな時代における高卒就職の考え方として、「高卒プロフェッショナルキャリア(以下、高卒プロキャリア)」という新しい考え方についてふれました。
今回の記事では、その高卒プロキャリアという新しい時代の高卒就職を可能とするために必要な改善点をお伝えしたいと思います。
優れたプロフェッショナルを育てるうえで、高卒と大卒は関係ない!
高卒プロキャリアとは、「高校を卒業後、働くことを選択し、仕事とともに人間性・社会性・職務能力の成長を志向し、真のプロフェッショナルをめざす道」と定義しています。
単に、技術を身につける作業員としてとどめるのではなく、幅広い視点で考えられるプロとして育てていくという考えです。「高卒=専門職・一般職」「大卒=総合職」という古い考えをさっさと捨て去るところからはじまります。
専門性をもって自立する人を「木」に例えれば、スキルや技能・専門知識は「枝や葉」の部分にすぎません。それらを支える人としてのあり方、すなわち「根」となる人間性や、どう周りの人や社会とつながっていくか、「幹」の部分となる社会性が育たないと、優れたプロフェッショナルにはなれません。
すなわち、人間性、社会性、そして職務能力の3要素をどう育てていくかが鍵で、この課題は大卒・高卒に限りません。
就職はゴールではなく、そこからどのような機会や環境で育てていくか、が問われています。そして、優れたプロフェッショナルが育つ会社が、時代の変化にあわせた、高い付加価値をつけたサービスや物を提供でき、成長し続けられる会社となります。
では、どうやったらこれまでの古い「高卒就職」を、新しい時代の「高卒プロキャリア」へと変化させていけるのでしょうか?
3つの点を改善することで、高卒プロキャリアが確実に育つ
高卒プロキャリアが育っていく環境をつくるためには、3つの点で、今の高卒就職・採用・育成のあり方を変えていくことです。これらが、それぞれの地域で産学連携により実現できれば、高卒で働くことを積極的に選ぶ若者が増え、意欲的な若者たちを採用、育成できるようになります。
1.高校におけるインターンシップ等の「探索的体験」の機会の提供
「探索的体験」とは、様々な人に出会ったり、社会の現場に参加したりするなかで、自分のやりたいことや社会の様々な現実や課題にふれる機会です。若者が「やりたいことがない」のは当たり前で、それは社会そのものを知らないから。知らないものは選べないし、体験してみなければ面白さもわからない。当たり前です。
進路に関するいろんな本を読んだり映像をみたりしても、それはあくまでも窓から外を眺めているようなもの。実感をともなう体験の充実が、なによりも現状は足りていません。これは高校だけの問題ではなく、子どもの頃からの体験の貧弱さが進路を選択する力を失わせているのです。現状で18歳で進路が決められないのは、年齢が若いからではなく、体験の蓄積が足りないからです。
具体的に行うこととしては、高校生に、地域の企業などが、コーディネート団体と連携もしくは体制をつくって、実践的な「インターンシップ」等の社会体験の機会を提供していくことがあげられます。
高校生たちは、身近にある企業の、深いプロの世界に触れるだけで、みずみずしい感性で面白いと感じてくれます。
高校3年間で1度といわず、2度、3度と、関心をもった分野に数日間参加できる環境ができれば、高校生たちは、面白い分野をみつけ、早くそのプロの世界に入りたいと思う若者が増えてくるはずです。身近な企業とつながる機会の充実が、改革のフロントラインです。
愛知県では、インターンシップの普及がめざましく、公立、私立あわせて34校2,200名以上が参加するまでになってきました。
(総合建設会社にてインターンシップに取り組む高校生。:NPO法人アスクネット マイチャレンジインターンシップ)
2.高校生の就職活動の充実と支援体制の強化
就職か進学かをきめる際の指導や、就職希望者に対するガイダンスの体制が教員・学校任せになっている点を改善する必要があります。具体的には、必要に応じてキャリアカウンセラーを派遣するなどして支援することが必要です。
高卒採用の「一人一社制」の弊害が話題となってきましたが、この仕組みが生まれたのは、就職指導する体制が教員の現場任せで貧弱なため、それぞれの生徒が、何社も受けられる状況に高校のカリキュラム的にも対応できないのです。体制が整ってこれば、もう少し幅を広げた就職活動の可能性も生まれます。
また、進学校などは、就職を希望する生徒がいない前提で体制が組まれており、その中で就職希望者は放っておかれるか、大学進学するように説得されます。求人票も送られてこず、就職活動そのものが成り立ちません。どんな学校にいても、就職活動に前向きに取り組めるよう、ネットワーク型の支援体制を組むなど改善の余地はまだまだ大きくあります。
また、国立大学なら進学できるけど、ダメだったら就職というような両にらみの進路選択も家庭の経済状況上は十分ありですが、多くの学校では許されていません。柔軟な就職支援体制の構築が必須です。
また、働くという選択をすることは、大学を諦めることでない、ということも伝えるべきです。必要と感じたとき、より深い専門性を学びたいと思った時に使えるよう大切にとっておく、ぐらいの感覚で十分です。社会に出たあと、学びたいと思った時に学べる環境は十分に揃っています。
3.高卒就職者が育つ環境改善と高卒・大卒の垣根のない評価制度
高卒就職者が、就職後に成長できる環境をつくることです。高卒採用をしている中小企業の多くはOJT中心に加え、上の先輩との年齢が離れていたりして指導体制は貧弱です。また、狭い人間関係で行き詰まったり、大学にいく友達らが楽しそうにしている話をきくことが、働き始めて苦しくなってきた時期と重なったりすることが、離職の原因になることもあります。
ここで考えるべきは、働くことは「学び」と「成長」の環境です。働くことそのものを成長過程ととらえて育つ環境を見直しましょう。いま大学でも、長期実践型のインターンシップを単位に組み込んで、リアルな現場で働くことを組み込むようになりました。同じ年齢ぐらいの、実際に働きはじめた高卒社員が育たないのは、育てる視点が狭いからです。
一つの会社だけでは必要な成長環境はつくれない点を改善するために、高卒で働き始めた社員らが、企業の枠をこえて学び合う「高卒プロキャリア研修」も提案しています。OJTに偏りやすい高卒の成長環境を改善し、人間性、社会性を育てる中身を提供するのです。
しっかりとした研修体制をくむことで、早期離職の防止のみならず、現場で技術を培い、広い視点でものを考えられる社員が育ちます。高卒の初任給は、年齢が若い分だけ大卒より安くできるため、その浮いた分を、効果的な研修とコーチング体制にあてることができます。
働く若者からみれば、大学の友人でない、同期の他の会社で頑張っている仲間とのつながりも生まれ、違う視点でものがみられる環境になります。大事なことは、それぞれの現場にあるプロフェッショナルの意味に向き合う環境をつくることです。4年程度のカリキュラムを組んで作り上げていきましょう。
そして、もうひとつ大事なことは、こうして能力を高めた高卒社員を、きちんと社内で評価し、高卒・大卒の垣根をつくらず給与やポジションを与えることです。
大卒に比べて4年早く仕事に就いて経験値を高めているわけですから、大卒新入社員よりずっと能力が高くなっているのが普通です。高卒社員も、この段階まできて、高卒で働き始めた自分の選択を、肯定的にみられるようになります。
愛知では、この高卒プロキャリア研修を、先行的に小規模で実施しましたが、とてもいい反応を得ています。
・この研修をやって、ビジネスマナーを学ぶと同時に、同期の仲間ができてよかったです。
・自分と同じ高卒者でも、それぞれ違う悩みがあり、人によって違う解決策があるというのを改めて実感した。
・社会人というのは職能性だけでなれたと思いがちだけど、実際は人間性、社会性が大事というのがとても印象に残りました。
(今年度はじめた「高卒プロキャリア研修」。高卒1~3年目の社員を集めて研修を実施。)
2022年4月1日 18歳成人時代へ
2022年4月1日、18歳は成人となります。大人として、社会に踏み出す一歩が、「なんとなく」、「とりあえず」とか「しかたなく」で消極的選択をするのが「普通」の状況のままでよいのでしょうか?それが「大人」の選択といえるのでしょうか?
「18歳では社会のことを何も知らず、わからないので仕方ない。自分もそうだったし。」などと、自らの昭和時代をコピーし続けては、日本はこれから没落するのみです。
18歳成人時代では、高校を卒業する際の進路選択の質を高める、すなわち主体的選択にしていくことが必須です。その質を高めるためにも「働く」ことをもっと身近にする必要があるのです。
折しも、つい最近、神戸大学が、「自己で進路選択をすることが幸福度を高め、高卒とか大卒の学歴は相関がなかった」という1万人規模の調査の結果を発表していました。
つまり、誰かの価値観にのせられて流されたり、先送りするのではなく、しっかりと自己選択ができる社会が幸福度の向上につながるわけです。”SOCIETY5.0”といわれる変化の激しい時代には、高卒で働き始める際の若さと素直さは、素早い適応力となり「武器」です。
多くの企業が、高卒で働き始めることの価値に早く気づき、体制を整えてくれることを願っています。