シチズンシップ教育スウェーデン

若者の投票率80%超のスウェーデンが行う模擬選挙とは?(後編)-学校で政治的なイベントを推奨!生徒の抗議活動も民主主義の一つ

18歳で投票ができるようになり、「政治教育」や「主権者教育」に注目が集まっています。政治的な話題をどのように扱ったら良いかが様々に議論されています。若者参加の先進国のスウェーデンでは、国を挙げて「学校選挙」に取り組んでいます。未成年模擬選挙と同じように、選挙がある時に18歳未満の選挙権のない学校の生徒が選挙を「練習」をすることができます。

2018年6月のスウェーデン視察時に、「学校選挙2018」を実施しているスウェーデン生徒組合の事務所に訪問しました。前編に引き続き、弱冠20歳の事務局の広報部のジュリア(Julia Söderberg)とプロジェクトアシスタントのヘレナ(Helena Olsson)にお話を伺いました。

学校選挙をはじめるための最初の手続き

ヘレナ:学校選挙がどうやって始まるのかについて話します。

最初に学校が学校選挙のホームページに登録をします。その時に登録するのは、生徒たち自身が登録するか、生徒と先生が一緒に登録をするか選ぶことができます。登録する時に先生の名前を絶対に提供する義務はないですが、もしかしたら先生が主導して登録することも起きているかもしれませんが、最低限登録するときに必要なのは生徒の名前です。

だいたいそれぞれの学校で5、6人くらいで登録し、学校選挙を実施しています。事務的な手続きとかだったりを定めている「スターターキット」と選挙の投票の集計方法、投票方法について書いてある「選挙キット」という教材があります。投票用紙が中に入っていて、それを封筒の中に入れて投票箱に入れると、投票になります。

学校選挙をそれぞれやったら、集計結果をこの学校選挙事務局にそれぞれの学校から送ることになっていて、ここで集計して結果を公表します。だから、この学校選挙を担当している生徒たちは、投票結果を9月7日までに送る義務があります。

2014年の学校選挙の結果

ジュリア:こちらは2014年の学校選挙の結果です(上図)。

それぞれの政党の得票率を出していますが、上の太い字が2014年の結果で、括弧が2010年の結果です。今年は、学校選挙の投票結果は、普通の、一般の選挙、9月9日の結果が出たらその夜に出します。一般の選挙の投票所が20時に閉まりますが、投票所が閉まった時点で学校選挙の結果を公表できるということです。

投票結果が公表されたら、それぞれの国の投票率もそうですが、県ごとの結果も表示されます。多くの人が、学校選挙の結果と実際の選挙の結果の違いに興味があるようです。2014年の結果においては、実際の選挙では社会民主党が学校選挙よりも得票率が高くて、緑の党が学校選挙の方で得票率が若干高かったです。若い人たちのほうがより「緑の党」を支持していたということです。

学校選挙の結果が何故(実際の選挙と)違うのかということに興味がある人は多いですが、いろんな要因があって何ともいえませんが、私たちが少なくとも知っていることは、この10年間、初回投票者の投票率は上がり続けているということです。

【執筆者の補足】ある学校における学校選挙の様子はこのような感じです。

スウェーデンの若者の高い投票率は、学校選挙のおかげ?

ヘレナ:だからといって、学校選挙をやったことによる投票率の向上なのかは分かりません。しかし、政府としては学校選挙が若者の政治的な参加を促している場になっているのではないかという見解ではずっとあります。

SNSの発信も強化していて、そうすることで私たちは対象年齢の人たちを巻き込む工夫をしています。インスタグラムでの発信も強化して、ハッシュタグ(#skolval2018)でいろんな人たちとやり取りをしています。

もちろん、自分たちで発信もしていますけど、他の実施団体や準備をしている生徒たちに、学校選挙のことをやっていたら、「できるだけこのハッシュタグを使ってください!」とお願いしています。例えば、投票用紙が届いた時とか、実際に学校で政治のイベントを開催する時にお伝えしています。

学校選挙自体は、投票をメインにやっていますが、学校選挙事務局としては、選挙前後で政治的なイベントをやるように奨励しています。

やってもらっていることとしては、政治家を招いた政治的なディベートやワークショップだったり、講演をしてもらったり、フィールドワークをする場合もあります。それぞれの学校を中心にして国会に行ったりとか、政治家に会いに行ったりとか、どこかに出向くといったことも実施してもらっています。

【執筆者の補足】例えばこんな感じですね。

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生徒主導で学校選挙を企画してもらう

ジュリア:あと投票を集計している時にも、生徒はイベントを企画しています。開票中に、その様子を見るための会(開票を見守る催しをValvakaという)を学校でやってもらうことも勧めています。

学校側の運営主体である5、6人でやってくれるように促しています。学校選挙事務局は、「できるだけやろうね!」とは言うけど、現地で動くわけではありません。もちろん、アドバイスをしたりとか、「こういう方法でやったらいいよ!」と材料提供とかはするけれど、実際にやるのはこの5、6人の生徒たちです。

主体が生徒ですので、活動を頑張るところと頑張らないところで差が出たりもしています。政党青年部の政治家だったりとか、地域ごとの政治家を招くのはすごい簡単です。

高校生が学校選挙をやるけど、18歳の人もいるからその中に来てくださいと誘います。そうすると、政治家としては票を集めることができるので、参加するモチベーションがあるのです。18歳の高校生もいるので、その人は実際の選挙にも参加できるし、学校選挙にも参加できるのです。

一つの政党の政治家を招待したら、政治的な中立性を保たないといけないので、他の政党の政治家も呼ばなければいけないというルールがあります。(※1)校長から承認を得ることもルールですが、大抵の場合はとっています。

高校と中学校の学校選挙の違いとしては、高校の場合は企画は生徒だけでいいですが、中学の場合は企画するグループの中に18歳以上の人がいないといけないと決まっています。中学校の場合は18歳以上の人がいないから、先生たちが入っていることがあります。それ以外は特に変わりません。たぶん中学校の方が先生の関わり度合いが大きいと思います。

※1:スウェーデンは学校で「政治的中立」をどのようにして保っているのか?

ヘレナ:生徒組合の個人会員になると、学校において影響力を持てるようなったり、生徒組合における理事の選出の投票権を得ることが可能です。

地域の政治家を招いてやる政治の討論会は、事前に学校の生徒たちに何のトピックに興味があるかを聞いておいて、それこそ給食を無料にすべきかとか、どんな学内の活動や、スポーツをしたらいいかとかなど、どんな話題に生徒が興味があるのかを聞いて、討論大会を開きます。

自分の将来を考えてもらって、16歳とか17歳の人たちにこれから18歳になったときに、どんな事柄に自分は興味を持つと思いますかと質問をして、考えてもらうのです。大学生になると学費や、一人暮らしのための住居などが身近な話題となるので、参加している生徒たちの近い将来の生活を想像してもらい、関連する話題を話すのです。

学校選挙は政治の「中立」をどう保つ?

ジュリア:学校選挙自体は中立を保つので、どこの政治色がつくということは特にありません。むしろ民主主義を教える機会であると理解をしてもらっています。学校で学校選挙の開催を断る理由としては、学校に来る政党によっては、生徒が政党に対する抗議活動が起きてしまうことを恐れているからです。

学校は選択制で自由に生徒たちが学校を選べるわけで、加えて、生徒数が多ければ多いほど国からの助成金をもらえることになっています(もちろん、学費はかかりません)。それで何が起きるかというと、生徒が自由に商品を買うようにして学校を選ぶわけです。だからそれでも、そういう騒動が起きたりすると、学校の評判が下がるので、学校側がやりたがらないということはあるかもしれません。

生徒の抗議活動も民主主義のひとつの「当たり前」の方法

ヘレナ:私たちとしては、そういう抗議活動も民主主義の行動のやり方で、「当たり前のことだから悪くはないよ!」と声をかけます。民主主義的な考え方としては、一つの主張があってそれを排除するのではなくて、こういう考え方もあれば、こういう考え方もある、その状態が民主主義なのだからそれで良いではないかと言います。

他に断る理由としては、極端な主義主張をする政党があって、そこが勢力を拡大していて国会で議席をとっていることに対して、怖気づいている生徒たちが増えていることが影響していることです。

校長が、生徒たちがその政党に反対して抗議活動をすることを恐れているのです。そういうことが起きたらメディアが取り上げて、学校の評判が落ちることを危惧しているのです。

生徒たちが学校選挙をやりたいのに、先生が反対した例が一件ありましたが、実際に理由は良く分からなかったです。学校教育庁とか弁護士とかに相談した結果、最終的に決めるのは校長であると助言を受けました。

児玉さん(視察参加者):選挙する時にディベートとかして生徒からいろんな意見が出ると思うのですが、意見をどこかにまとめていたりしないのですか?

ジュリア:政治家は、(生徒と話すことは)投票に直結すると思っており、できるだけ声を聞こうとしていると思います。そのあとに実際に何年も投票していくわけだから、結構大事な機会だと思って生徒に接していると思います。

スウェーデンの「民主主義」とは何か?

櫻田さん(視察参加者):(学校選挙の)一番の目的がスウェーデンの民主主義を学ぶことだと思うのですが、そもそも「民主主義」についてどのように捉えていますか?

ヘレナ:個人的に思うのは、すべての人の投票が大事だということです。投票に限らず、自分の周囲で起きていることだったり、自分の人生で起きていることが大事にされたり尊重されたりしていることが民主主義ではないでしょうか。

スウェーデンの民主主義で重要な役割を果たしているのは市民社会です。市民社会が広まることが民主主義が機能することであるので、そのためには自由に団体や、組織を作ることができている必要があります。

その時にそれぞれ組織に参加している、障害とか社会的・経済的な背景を問わずあらゆる人たちの声が尊重されて反映されていくことで、市民社会ができるのです。その市民社会の、結果として民主主義ができるのではないでしょうか。

若者だからこその価値とは何か

櫻田さん(視察参加者):スウェーデンでは若者を資源として捉えているけれど、若者だからこその価値とはどんな部分だと思いますか?

ジュリア:よくいわれるのが「若者には将来がある」「明日がある」という文句ですが、私はそうではなくて、若者は今その目の前に存在して、今を生きているのだということです。だから、今、生きている自分たちの身の回りのことを変えていけるようになっていかないといけないのです。

私たちとしては生徒がいる学校や、学校生活を変えていける仕組みとして生徒会を支援していくことを大事にしています。14歳だからといって学校選挙の運営ができないとみなすのではなくて、「できる」という期待を最初からしています。

民主主義は市民一人ひとりが積極的な参画をしないとまわりません。そういう意味で、こういう学校選挙の機会を通じて参加する方法を教えていく必要があるのです。

※元の記事:スウェーデンの模擬選挙の究極の目的とは?「学校選挙」事務局に聞いてみた

Author:両角達平
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の研究機関と大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。著書に「若者からはじまる民主主義-スウェーデンの若者政策」。
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