シチズンシップ教育

18歳からの選挙権!若者の投票率を上げるために必要なこと-こどものまちから学ぶシチズンシップ教育

こどものまちづくりプログラムで選挙の開票結果をまとめている場面(こどものまちづくりプログラムで選挙の開票結果をまとめている場面)

2015年6月17日に改正公職選挙法が参院本会議で、全会一致で可決し、成立しました。

これによって、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。来年の夏の参院選から適用される見通しで、18歳、19歳の約240万人の若者が新たに有権者となります。

この歴史的な大きな変化に対して、学校教育や社会教育はどのように対応していくのでしょうか?

シチズンシップ教育が担う役割

選挙権年齢を下げたとしても、18歳から20歳までの若者が多く投票するかどうか疑問視する声が上がっています。「若者は意見が反映されないから政治に参加しない」「政策で扱っているテーマに、 若者が直結する問題がないから参加しない」ということにならないように、世界で広がっているのがシチズンシップ(市民性)教育です。

シチズンシップ教育は、「市民としての資質・能力を育成するための教育。他人を尊重すること、個人の権利と責任、人種・文化の多様性の価値など、社会の中で円滑な人間関係を維持するために必要な能力を身につけさせる。」(大辞泉)と説明されています。1990年代以降に欧米諸国を中心に広がり、日本でも2000年以降、文部科学省から指定を受けた学校などがカリキュラムの研究開発を行っていました。

近年では、内閣府の平成25年版子ども・若者白書で「社会の一員として自立し、権利と義務の行使により、社会に積極的に関わろうとする態度を身に付けるため、社会形成・社会参加に関する教育(シティズンシップ教育)を推進することが必要である。」とし、各省庁での取組み状況などを報告しています。

シチズンシップ教育の方法は多様であり、学校教育や社会教育の場で様々な試行錯誤を重ねながら展開されています。

こどものまちづくりプログラムの選挙からわかったこと

私は、ドイツのミュンヘンで行われている「ミニミュンヘン」を参考に8年間かけて、関西やインドネシアなどさまざまな地域、企業とKidsCreativeCity(旧:ミニ大阪)事業を行っています。シチズンシップ教育の一つとして大変に有効なプログラムだと考えています。

今回は、ドイツ・ミニミュンヘンで行われてきた子どもたちによるまちづくりの仕組みから投票率の向上を目指す方法を考えたいと思います。

ドイツ・ミニミュンヘンのまちの様子(ドイツ・ミニミュンヘンのまちの様子)

ミニミュンヘンは、1979年にドイツでスタートし、現在で約35年の歴史があるプログラムです。夏休み期間である8月の3週間だけ誕生する仮設都市で、子どもたちは様々な仕事に就いて働くことで仮想通貨の給与を得られ、様々なお店で通貨を使用して遊ぶことができます。

そこでは、子どもたち自身がまちの住民となり、生活を営み、新たな空間や社会システムを作っていきます。参加できるのは7歳~15歳の子どもたちですが、毎週市長選挙を行い、市長と一緒に数名の議員が選出されます。

ミニミュンヘンは、単なるお店ごっこではなく、毎週、失業者対策や税金の使い道などを子どもたち同士で議論します。毎回テーマになるのは、どうやったらみんなが役割をもって働くことができる町がつくれるのか、という視点です。

ドイツ・ミニミュンヘンのまちの様子(ドイツ・ミニミュンヘンの選挙の様子)

子どもたちはマニフェストを考えた上で、市長選挙を行っていきます。そのような市長選挙はいつも接戦になることが多いです。子どもたちだけのまちを30回以上運営してきた感覚から言うと、選挙の投票率が高くなるための条件は、下記の3つです。

①100人程度の(お互いの顔がわかる程度の)小さなまち:最近伺った文化人類学者のお話から、人類は100人程度のコミュニティであれば相互扶助をより意識し合うことができるそうです。もしかすると、現在のまちは関係者が多すぎて、コミュニティが出来にくくなっているのかもしれません。

②自分たちにとって身近なテーマを扱う:選挙は、議論するテーマが明確でないと投票することが難しくなります。どんなまちにするのか、小学生の子どもたち自身が相手にもわかる言葉で伝えることは大事です。

③未来に意思をもって投票したくなるようなまちであること:自分たちのまちは、自分たちの仕事が創りだしている。それを実感することで子どもたちはより元気に楽しく働いていきます。誰かに必要とされることで、子どもたちはその仕事にやりがいを感じていきます。

単なる選挙権年齢引き下げだけではダメ

前述でミニミュンヘンの選挙についてご紹介しました。では、実際の社会の選挙はどうでしょうか?大人が複雑化し過ぎてしまった自治体や政治の構造自体を変えていかなければ、未来に向けての意思決定は生まれません。

5月に行われた大阪都構想の是非を問う大阪市特別区設置住民投票では、「シルバーデモクラシー」という言葉が盛んに使われました。シルバーデモクラシーとは、有権者のうち、高齢者が占める割合が高いため、高齢者の意見が過剰に政治に反映されやすい状態を示す言葉です。

社会保障費の増大、病院、学校の統廃合、福祉制度の充実など人口減少化社会と高齢化社会を進んでいる日本にとって、これらの問題は若者と高齢者の意見が対立する可能性があります。その際に、有権者の割合の少ない若者の意見が通り難くなってしまうと考えられます。投票率の国際比較などを見ると、そのような傾向は日本だけではなく世界各国でも同じような状況となっているようです。

ドイツの事例を紹介しましたが、日本でも昨今、デモなどを含め若者たちが安保法案について議論を交わしています。自分たちの国の未来を考え、理想の姿を求めた人が一人でも多く投票につながるために、子どもたちの素直なまちづくりから学べることは多くあります。ぜひ、たくさんの大人にこの取組みを見て頂くと共に、シチズンシップ教育の在り方について一緒に考えていきたいと思います。

Author:松浦真
大阪府出身。2007年にNPO法人cobonを設立し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。

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