メンタルヘルス

事故でも病気でもない!若者の死因の第一位が「自殺」という国-子どもや若者を行き詰まらせないために必要なこと

9月10日は、世界保健機関 (WHO)が制定した「世界自殺予防デー」です。厚生労働省でも9月10日~16日までを「自殺予防週間」と定め、啓発活動を行っています。夏休みが終わりに近づくと「18歳以下の自殺は、夏休み明けの9月1日にもっとも多い」という話題が多く報じられるようになり、注意喚起がされるようになりました。

9月1日は、新学期のスタートとして捉えられていますが、地域によっては、8月下旬には夏休みを終えて、9月に入る前にはすでに新学期がスタートしている学校もあります。2018年度からは、新たに「キッズウィーク」がはじまることを考えると、今後はより一層、夏休みの終了日が拡散し、データ上も分散して分かり難くなっていくと推察されます。

15歳~39歳までの死因の第一位は「自殺」

平成29年版自殺対策白書によれば、19歳以下の自殺者数は、平成27年554人、平成28年520人となっています。

死因順位別に見ると、15歳~39歳の死因の第一位は、交通事故や病気でもなく、自殺となっています。男性だけに関して言えば、10歳~44歳までの死因の第一位が自殺となっています。

「子ども・若者育成支援推進法」以来、39歳までを若者として位置づけていることを考えれば、「日本の若者の死因の第一位は自殺」と言っても過言ではありません。自殺の原因としては、健康問題、経済・生活問題、家庭や仕事・学校での問題などが上位に挙げられています。

(平成29年版自殺対策白書:平成27年における死因順位別にみた年齢階級・死亡率・構成割合)

同じく平成29年版自殺対策白書によれば、他の先進国における15歳~34歳の死因上位となっている「事故」と「自殺」の死亡率を比較すると、下記の図の通り日本が異常な状態となっていることは明らかです。このような状況が何年も続いている日本の自殺の問題は、個人の問題ではなく、社会・仕組みとしての問題があるということです。

平成29年版自殺対策白書:先進国の年齢階級別死亡率・15歳~34歳、死因の上位3位(平成29年版自殺対策白書:先進国の年齢階級別死亡率・15歳~34歳、死因の上位3位)

「学校へ行かないこと」=「逃げている」ではない

9月1日の自殺の増加について、8月下旬には様々なコメントが報じられていました。中でも「自殺するくらいなら逃げて」というメッセージがよく見られました。そもそも学校へ行かないことは、「逃げている」ということなのでしょうか?

そのようなネガティブな捉えられ方をしていること自体が不可解です。「新しい別の道を選択しよう・進もう」というべきです。「学校へ行かないこと」=「逃げている」というレッテルを貼られれば、思春期頃の当事者は、「学校に行かない」という選択をより一層取り難くなります。

子どもが学校へ行き、教育を受けることは「権利」であり、「義務」ではありません。「教育を受けさせる義務」は大人側にあり、大人が子どもに対して教育を受けられる環境や機会を作っていかなければならないということです。

9月1日の自殺の増加については、子どもが安全で安心して教育を受けられる環境や機会を提供できていない大人側の怠慢だというべきことです。

分散型の居場所・コミュニティ作りが必要

「自ら命を絶つ」というあってはならない行動に至るには、一人ひとりに様々な理由や背景があるはずですが、共通して言えることは、本人にとって「それ以外に選択の余地がなかった」という状況だったということです。

子どもたちの世界は、大部分が「家庭」と「学校」という2つの居場所・コミュニティで成り立っています。どちらか一方の居場所・コミュニティで、心身に危害を受けるような状況になれば、その影響は大きなものとなります。

年齢を重ねていくごとに、小学校・中学校の時の友達、地元の友達など段々とつながりやコミュニティの輪が広がっていきますが、基本的に子どもは大人よりもつながりが少なく、所属しているコミュニティが少ないので、八方塞がりにも陥りやすいのです。

金融投資の分野では、分散型投資という手法があります。特定の資産(株、債権など)だけではなく、値動きの傾向が異なる複数の資産で運用することで、どこかが悪い状況になっても、別の資産がそれを補って支えていくことができる方法です。居場所・コミュニティにも同じことが言えます。

どんな居場所・コミュニティにも、良い時も悪い時があります。どこかが悪い状況になった時に、「あっちがダメならこっちへ」と別の居場所・コミュニティを選択できる状況が必要です。当然、その居場所・コミュニティが少数であるよりも、多様に分散していた方が良いのです。

一つのつながりを一本の線として考えれば、つながりが多いほど細かい網目ができ、丈夫なネットができます。これこそが子どもや若者を支える心のセーフティーネットになります。いくつも心の拠り所を持っている子どもや若者は、様々な出来事に対しても、心身が安定しやすいと言えます。

「いざ!」という時ではなく、「日常」こそが何よりも重要

近年、子どもの教育に関して学校や家庭ばかりに、その責任を押し付けるような話が散見されます。授業や部活動などで長時間に渡って学校に拘束すること、親や先生以外に、気軽に話ができる大人が身のまわりにいないことは、特定の居場所・コミュニティに子どもを留めていることに他なりません。

限られた居場所・コミュニティの中で、自分を無理やり合わせながら息苦しくなっていくのはごく自然なことです。

子どもが行き詰まってから「頼ってね!」と言われても、関係性すらない大人を頼れるわけがありません。「もっと広い世界があるよ!」と言うのであれば、普段からそのような世界に触れさせておかなければ、単なる慰めにしか感じないでしょう。

日常生活の中で、学校や家庭以外にも、いざと言う時に頼ることができる、そして、世界観を広げてくれる居場所・コミュニティを多く築いていけるように、場や機会を設けていくことが大切です。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。
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