「学校は子どもにとって、どのような場所?」
こう問われたら、あなたはどのように答えますか?
学ぶ場所、生活をする場所、人と関わる場所、友達と遊ぶ場所…。
きっと子どもが求めていることはさまざま。そしてそれは同時に、学校が担っている機能もさまざまである、ということを意味します。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、学校の休校が3月から続いています。多くの学校で5月6日まで、そしてそれは、今後もさらに続く可能性があります。
突然学校がなくなってしまったことの影響は、子どもにとってあまりに大きなもの。
この状況に対して、そしてこれからについて、日々の学校生活を支えている先生たちは、何を感じ、思い、過ごしているのでしょうか。
今回は、今年から新規採用で小学校に着任したAさん(神奈川県内・公立小学校勤務・学級担任)にお話をうかがいました。
別れの寂しさを感じる暇もなかった
編集部:Aさんは、昨年一年は臨時採用で担任をしていて、今年から新規採用で働き始めているんですよね?
Aさん:はい、そうです。昨年は一年生の担任を、新規採用で着任した学校でも一年生の担任になりました。
編集部:3月が休校になって、担任をしていた子どもたちとゆっくりお別れすることも難しかったんじゃないでしょうか。
Aさん:そうですね…3月の下旬に離任式、終業式はテレビ放送という形で実施したのですが、そこで子どもたちとはお別れをしました。
もちろん寂しかったですが、子どもはすぐに帰らなきゃいけないので、あまりしっとりとお別れすることもできず、寂しさを感じる暇もなかった…という感じですね。
一生会えなくなるわけではないし、会える距離にはこれからもいるので、運動会に顔出したら会えるかな、とか。今はそんなことを思っています。
新しいことづくしの4月
編集部:4月からは新しい学校で、新一年生で、新規採用で、このイレギュラーな状況。想像するだけでも大変そうな気がしますが、いかがですか?
Aさん:そうですね…昨年も4月は慌ただしかったのですが、今年は、コロナ対応に追われているといった慌ただしさでした。
子どもとは入学式と、その翌日は会いましたが、まだ関係づくりは全くできていない状態なので、学校が再開したらそこからスタートしていかなきゃな…という感じです。
編集部:新規採用の年は、研修などもたくさんある印象ですが。
Aさん:研修は定期的にありますね。今はすべてオンラインになっています。ただ、研修の連絡は管理職に通知がいくのですが、学校がバタバタしているので気づかず、受講〆切当日に知る、ということもありました(笑)
研修の回数自体が増えているわけではないのですが、受講した確認をとるためにレポートを書いて提出する必要があるので、それがちょっと大変ですね。
編集部:研究会などの実施は、オンラインでは難しそうですね。
Aさん:予定はありますが、まだ実施するかは未定ですね。ただ、実施できる状況になっていたとしても、正直それをやっている余裕はないのでは…?と思っています。
研修に出かけてしまうと、その分、授業ができなくなる。他の先生の授業を入れられない場合もありますし、そうすると自習という形になってしまう。
少しでも授業を進めたほうがいいという気持ちはありますが、研修が免除になることはないと思うので…なんとかがんばります。
今、新任の私ができること
編集部:Aさんは昨年一年の経験がありますが、今年から一年目の先生たちはもっと焦ってしまいそうな気がします。同期の先生っているのですか?
Aさん:同じ学校に同期は何人かいます。目まぐるしい、と言っていますね…。
ただ、いつもの4月より時間ができたことは確かなので、この期間に指導案を書いて、みんなで見せあったり、授業の練習もしてみたりしようか、という話をしています。
授業に向けての準備や練習ができるという意味では、この期間をプラスに捉えています。
編集部:すごく前向きですね。その他、先生たちは今どんな仕事をされているのですか?
Aさん:感染リスクを下げるため、今は出勤する日が決められています。出勤した日は、学年で打ち合わせをしたり、心配な家庭に連絡を入れたり、市の方針で子どもの緊急預かりや校庭の開放はまだ続けているので、それを交互に担当したりですね。
目に見えにくい、子どもへの影響
編集部:緊急預かりは、やはりまだニーズが続いているのですか?
Aさん:もちろん数は多くはないですが。地域の実情的に、共働きも多いですし、様々な家庭環境の子どもも一定数いるので。また、親も子もずっと一緒にいるとストレスがたまってしまう。
どうしても一時的に子どもと離れたいんです…という連絡をもらうこともあり、その場合は仕事などではなくても、受け入れることもあります。
編集部:この状況が長引くことは、確かに心配ですよね。
Aさん:もちろん、コロナに感染することも怖いですが、それと同じくらい家庭内で問題が起きるリスクもあるし、怖いなって。
叱られることが増えたり、ネグレクトに近いような状況が起こったりすると、「自分はダメな子なんだ」と、そのままずっと引きずってしまう可能性もある。子どもの心理面への影響がすごく大きいと思うんです。
緊急預かりの場が、そのような悲しい状況を少しでも防ぐための場になっているとしたら、必要なことじゃないかと。今の状況の中で学校としてできるギリギリのラインで、何とかやっているという感じですね…。もちろん感染予防対策は十分に実施しています。
編集部:心理面への影響は目には見えづらいからこそ、怖いですよね。
授業時間が短くなり、学習内容はどうなる?
編集部:学習面をサポートするために、学校として実施していることはあるのですか?
Aさん:緊急事態宣言が出る前までは、休校期間が20日までだったので、子どもが4月初めに1日だけ登校した日に、20日までの宿題は出しました。
ただそれも5月6日までに延長になったので、急きょその分の宿題を作って、一軒一軒家庭を訪問して届けました。30軒分の家庭に届けるのに、かなり歩きましたね…。
あとは、市としてオンライン授業を配信しているので、それを見て学習を進めている家庭もあるかと思います。
編集部:30軒分に届けるのは大変すぎますね…。休校明けの学習面については、やはり心配ですか?
Aさん:1年生は今までの学習内容がないのでまだいいのですが、他の学年は前年の未履修分があるので、まずそれをどうするのか…という点ですね。
オンライン授業では新しい学年の学習内容を配信しているので、未履修分があるまま、先に進んでしまっている子もいるという状態です。
ちぐはぐな状態もそうですし、子どもに負荷がいかないかが心配ですね。先生側の裁量があるなら、子どもの様子見ながら一部の学習内容を短縮したり、カットしたりもできるのですが。
授業時間は短くなっても全部教えてほしい、という指示だったら、どうにかやらなきゃいけなくなる。でもそれでは子どもがパニックになってしまいそうです。
編集部:子どもたちに学習内容が定着することが、何より大事ですもんね。
この状況から、子どもが学べることは?
編集部:最後にですが、Aさんは今のこの状況に対して、率直に思うことは何でしょうか?
Aさん:自然災害と同じで、自分にはどうにもできないことだと思っています。だから、悪いことは捉えすぎない。今後、このような状況を経験することって、あまりないと思いますし。
子どもは「手洗い、うがいをしないと危ない」ということを、実感できるかもしれない。その前までは「風邪をひいてもいいや、大人がいれば何とかなる」と思っていた子が、自分の身を守る、ということを知る。
大人として、学校としても、有事の際に詰められていない部分について知るきっかけや、働き方を見直すきっかけになるのかなと思っています。
編集部:捉え方次第で、気づきや得るものが多くありますね。Aさん、ありがとうございました。
https://eduwell.jp/article/coronavirus-closed-elementary-school-newly-recruited-teacher-interview-202005
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。