自閉症の子どもへの療育支援を行っている「NPO法人ADDS」。“保護者を一番の専門家に”というモットーのもと、家庭で療育を行うためのサポートをするプログラムを中心に、事業を運営している。
そんなADDSに勤務している、一人の男性がいる。彼の名前は加藤孝央さん。荻窪事業所の責任者を務めている。“NPO”という非営利の組織で、かつ女性が多い業界で加藤さんが働く理由とは-。前編に引き続き、インタビューを通して、そのルーツを探っていった。
支援の限界?それでも、できることをやり続ける
ADDSに入社してから4年と2か月が経過した。加藤さんの仕事は、多岐に渡る。入社当初から行っている療育支援に加えて、保護者さんや学生を対象とした研修の企画や運営、広報担当としての日常的な情報発信、施設管理責任者としての施設管理の業務など。
研修業務の中で、ADDSに通っている保護者さんが月に1回任意で参加する「集合研修」というプログラムがある。講義形式で療育の知識の補足をしたり、保護者さんが家庭で実践している療育を、実際にやって見せてもらい、互いにフィードバックし合う。
その中で、“先輩ママ”と呼ばれる、療育プログラムを終えた保護者さんに来てもらい、自身の体験を踏まえて話をしてもらう時間がある。診断を受けてからの出来事、子どもの変化、家庭での支援の分担など、当事者のリアルな話を聞くことが目的だ。
ある先輩ママに、来てもらったときの出来事。体験談を話してもらい、最後に一言を伝える場面で、その先輩ママは涙を見せたという。その方は、通所している間はとても前向きに気丈にふるまっていた。子どもも、通所し始めてから1年間で目覚ましい成長を遂げていた。それでもこんなに苦しさを抱えていたなんて-。
加藤さんはその姿を見て、とても考えさせられたという。「子どもが変化している」という事実があっても、その保護者さんにしかわからない、悩みや苦しみがある。気丈にふるまうその裏側で、泣きたい気持ちを抱えているのかもしれない。
“支援の限界”
そんな言葉が頭に浮かんだが、それでも今できることをやり続けるしかない。
ADDSで大事にしていることは、家庭での支援を継続してもらうこと。通所している1年間の間で、保護者さんに子どもの好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、苦手なことを理解してもらい、その子に合った療育の方法を見つけること。正に“子どもの専門家”となり、プログラム終了後も、家庭で療育を実践し、必要があれば専門機関につながっていけるように。
他の子とつい比べてしまう気持ちも受け止めつつも、保護者さんには「その子として」できるようになっていることに目を向けられるようになってほしい。そう加藤さんは話していた。
一つの“チーム”として子どもの成長を支える
様々な業務を担当し、多忙な毎日を送っている加藤さんだが、その表情はとても明るい。
「人を楽しませてなんぼだと思うんですよね」
子どもの良いところ、出来るようになったことをほめていく。ADDSの療育は、いかに子どもたちを「楽しい」という気持ちにさせるかどうかがキーだ。そのためには、大人も楽しみながら子どもたちと関わる必要がある。ADDSの職場では、「スタッフも楽しく働こう!」という雰囲気を大切にしている。
加藤さん自身は、入社したばかりの頃、子どもたちのことを上手くほめられなかった。療育に使うおもちゃを取り出す時に、手が震えることもあったという。それでも継続して現場を担当する中で、子どもたちの楽しい時間を作ることができるようになってきた。
「保護者さんと共に、子どもを支援していくことによって得られるチーム感」
それが今の仕事のやりがい。療育機関の先生だけが頑張るのではない、保護者だけが頑張るのも違う。両者が協力・連携して、一つの“チーム”として子どもの成長を支えていくこと。
ある一定期間の間に、子どもも保護者もポジティブに変化していく姿を見ることができる。“笑顔”が少しずつ増えていく。それが何とも嬉しく、明るい気持ちになる。
ADDSでは、お子さんによって療育の課題を変えている。つまりはオーダーメイドで、その子に一番合った療育の方法を実践している。
「ターゲットとなる行動を教えるルートは無数にある、今後の目標として、どんな子どもに対しても最善の方法を選べるようなスキルを身に着けていきたい」と加藤さんは話していた。
(子どもに合わせた療育ができるように、多種多様なおもちゃが用意されている)
“NPO”で働くということ
ADDS全体としては、現在実施している療育のプログラムを、外部の機関にも提供していくことを検討している。公的な教育センターや民間の事業所などにプログラムを広め、より多くの子どもや保護者に、適切な療育を届けていくことを目指す。そのための調査研究にも力を入れている。
組織を大きくすることを目指すのではなく、価値あるものを広げていくこと、課題を解決していくこと。まさに“NPO”の使命達成に向けて突き進んでいると感じられた。
「NPOで生きるって何だろう?」
そんなことをよく考えた。株式会社であれば、このまま勤続していけば「係長」「部長」という役職に就く選択肢もあるかもしれないが、ここでは役職に関する明確なビジョンは見えない。整えられていない部分、これから整えていく必要がある部分も多い。しかし、非営利の現場で働く中で、少しずつ“社会を変えたい”という気持ちが芽生えてきたという。
日々のルーティーンワークも重要。しかしそれだけではなく、「社会に働きかける“何か”は生み出し続けるというスタンスで働いていきたい」と加藤さんは話していた。
“チーム”で子どもの成長を支えていく。
ADDSでの加藤さんの挑戦は、これからも続いていく。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。