新たに教員として採用された新採教員が1年間の条件附採用期間後に、精神疾患を理由として依願退職した者は、病気を理由とした依願退職者のうち8~9割となっており、増加傾向にあります。今、どのような問題が学校現場で起こっているのでしょうか?
今回の連載記事では、実際に新卒で首都圏の公立小学校に勤務経験があり、心身ともに不調となった過酷な勤務を経験しているAさんからお話をお伺いしています。
これまでの記事に引き続き、学校現場の「リアル」な実情をお伝えします。
「通知表・成績表」をつける学期末の繁忙期
編集部:これまでのお話を聞いて、4月という時期が教員にとって、特に新規採用された教員にとって、最も忙しい時期だということはわかりました。その他に、学校教員にとって大変な時期やタイミングはありますか?
Aさん:そうですね、基本的には毎日が繁忙期ですが、運動会、学芸会、入学式や卒業式など、学校行事の前後は、特に学校全体が慌ただしいですね。それ以外のタイミングだと、学期末の「評価」を行う時期ですね。
編集部:「評価」ですか。夏休みや冬休みの前にもらっていた「通知表」のことですか?
Aさん:はい、そうです。「通知表」、学校によっては「成績表」とも言いますね。私が勤めていた学校では「成績表」と呼んでいました。編集部さんは、成績表をもらうことは楽しみでしたか?
編集部:私はあまり勉強が得意ではなかったので、成績表をもらう時は、どちらかというと毎回ドキドキしていましたね。(笑)
Aさん:そうでしたか(笑)私の学級でも、楽しみにしている子、そうではない子、どちらもいました。保護者の方にとっては、わが子の様子を知ることができる機会となるので、比較的楽しみにしている方が多いですが、それを作成する業務は、とても時間がかかるんです。
編集部:そうなんですね。成績表は子どものときにもらった以来なので記憶が曖昧なのですが、そもそもどのようなことが記載されているんでしたっけ?
Aさん:成績表では、各教科の各観点について、まずABC評価をつけます。それに加えて、学校生活の態度や姿勢などについても評価し、最終的には一人ひとりに対してのコメントを書きます。
編集部:学力の面と、生活の面の両方から評価をするということですね。各教科の評価は、どのように行うのですか?
Aさん:小学校の各教科の評価は、テストの点数メインではつけないことになっています。あくまで日々の授業そのものにねらいがあるので、そのねらいに対して一人ひとりがどのように取り組み、どの程度理解したのか?を細かくチェックする必要があります。例えば、発言、ノート、授業中の様子などを見ていきます。テストは、評価の参考となる根拠の一つですね。
評価には、日々の記録の積み重ねが必要
編集部:なるほど、評価の観点がテストだけではない、というのは逆に難しそうですね。学習への取り組みの様子を、細かく見ておく必要があるということですね。生活面の評価についてはどうですか?
Aさん:生活面の評価を行う上でも、当然根拠が必要となります。こちらも、何となく書くわけにはいきません。普段から子どもたちの様子をよく捉え、詳細に記録を残しておく必要があります。
編集部:学習面も、生活面も、日々の記録が重要ということですね。ただ少し思ったのですが、先生は毎日子どもたちと過ごし、様子を見ていますよね。そこまで細かく記録に残さなくても、毎日の様子を見ていれば評価を書けそうな気がするのですが…
Aさん:考えてみてください。毎日一緒に過ごしているのは30人以上の子どもたちです。評価は「相対評価」ではなく「絶対評価」なので、一人ひとりの成長を一年間の中で追って、評価をしていく必要があります。30人一人ひとりの成長を的確に把握し、評価をするというのは、思っている以上に難しいことです。
編集部:なるほど、絶対評価ですね。確かに比較対象がその子自身というのは、その子の日々の様子や成長を丁寧に把握していないと、評価はできないですね。
Aさん:そうなんです。子どもの行動や発言、様子など様々な面から評価をしなくてはならないので、曖昧な記憶では到底対応できないんです。いざ、成績表を作ろうと思った時、日々の積み重ねた記録が無いと本当に困ってしまいます。
編集部:日々の記録を積み重ねが、最終的に的確な評価をすることにつながるのですね。それにしても、毎日の記録を書くことはとても大変そうですね。
Aさん:そうですね。もちろん、時間はかかりますが、日々の記録はできるだけ行うことをお勧めします。もちろん、学期末の評価のためということもあるのですが、記録をすることで、学習も生活面も、子どもたち一人ひとりの様子を思い起こすきっかけになるんです。
一日過ごしていても、うっかりほとんど声をかけていない子がいたことに、気づくこともありました。また、子どもを褒めたことを思い出して記録することで、その子の良さを再確認できることもありました。
編集部:なるほど、テストでは測れない部分は、主観的で曖昧になりやすい部分だからこそ、言語化して、客観的に評価ができる形にすることが大事なのですね。それが子どもたちへの丁寧な指導へとつながっていくのかなと、お話を聞いていて感じました。
ありがとうございました。また次回も引き続き、お話を伺っていきたいと思います。
Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。