ソーシャルキャピタルが高いと認識している子どもは、抑うつが低く、QoLが高いことということが、弘前大学大学院医学研究科附属・子どものこころの発達研究センター(青森県弘前市)の研究グループが行った共同研究の分析結果からわかりました。
子どものこころの発達研究センターの研究グループでは、2018年9月に小学4年生から中学3年生の子ども8,184人を対象に、ソーシャルキャピタルと抑うつ、QoLに関する調査を実施しました。データの解析は、回答に不備のない7,709人を対象に行っています。
「ソーシャルキャピタル」(Social capital)は、社会関係資本と言われ、物的資本 (フィジカルキャピタル) や人的資本 (ヒューマンキャピタル) などと並ぶ概念とされています。「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義されています。
「QoL」は、Quality of life(クオリティ オブ ライフ)の略語となり、心身の健康や人間関係などを含めた「生活の質」を示すものとされています。
学校、安全感、地域の3つの指標からソーシャルキャピタルを測定
今回の研究では、ソーシャルキャピタルを以下の3つの指標で測定し、それぞれの項目に対して、「3点:そうだ」、「2点:知らない・よくわからない」、「1点:そうでない」のいずれかで回答を求めています。
得点が高いほど子どもが認識しているソーシャルキャピタルが高いことを意味します。
回答を解析した結果、上記の全ての指標で、ソーシャルキャピタルが高い子どもは、抑うつが低く、QoLが高いことが明らかになりました。
学校のソーシャルキャピタルの向上が、子どものメンタルヘルス問題の予防に
ソーシャルキャピタルの指標の中でも「学校」の要因の関連が最も強いことが示され、子どものメンタルヘルスにとって、「安全感」や「地域」といった要因よりも「学校」に関連するソーシャルキャピタルが重要であることが示唆されました。
これは、先生やクラスメイトなどに対して助けを求めやすい雰囲気のある学校や安全感の高い学校に在籍している子どものメンタルヘルスの問題が少ないことを示すものだとしています。
また、小学校と中学校におけるソーシャルキャピタルと抑うつ、QoLの関連を調べたところ、学校の「安全感」と抑うつの関連は中学生よりも小学生の方が強いことが明らかになりました。
これは、小学生は中学生よりも社会環境の影響をより受けやすいためだと考えられ、小学生は学校全体の安全感をより考慮した方がメンタルヘルスにとって良いことを示唆するものだとしています。
研究グループは、今回の研究結果から子どもたちが通う学校のソーシャルキャピタルを高めることが子どもたちのメンタルヘルスの問題を予防することにつながる可能性があるとしています。
<参照記事>
・弘前大学:ソーシャルキャピタルが高い学校に通う子どもは 抑うつが低く、QoLが高い(医学研究科附属子どものこころの発達研究センター)
本記事は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。