(特定非営利活動法人サンカクシャ 代表理事 荒井佑介さん・左)
シェアハウス立ち上げのきっかけは、ある若者からの深夜の電話
2020年7月のある夜、以前より支援していた若者からの電話に出ると、
「今、〇〇(東京郊外)の飲食店で働いているんですが、今晩、お客さんが来ないと仕事をクビになり、寮を追い出されてしまいます。今から来れませんか?」
と切実な声が聞こえてきました。
深夜で場所が遠かったためすぐには行くことができず、翌日に会って話をすると、コロナの影響で寮付きの仕事を解雇され、行き場がなくなってしまったという状況でした。
2019年5月に若者支援NPOサンカクシャを立ち上げて居場所の運営をしていたのですが、この若者からの電話がきっかけになり、住まいを失った若者向けのシェアハウスを運営することになりました。当時、ちょうど知り合いの不動産会社が格安で物件を紹介してくれて、居場所として借りようと考えていたのですが、部屋が複数あったため、そこをシェアハウスにして住まいを提供することにしたのです。
急増する住まいへのニーズ
この若者のように寮付きの仕事をしていたもののコロナで仕事と住まいを同時に失った若者、外出自粛で家族と一緒にいることが耐えられずに家を飛び出した若者などが次々と入居し、5名の定員はすぐに埋まって行きました。
その後、シェアハウスを増やし、現在は3箇所(男性向け2・女性向け1)合計16室で運営しています。また、今年度より賃貸アパートを5室借りて個室のシェルターとして提供しています。近いうちにシェアハウスを1件増やし、この後も増やしていきたいと思っています。
というのも、2022年末ごろから帰る家のない若者からの相談が前年度の2倍以上に急増しており、シェアハウスは満室で待機者がいる状態が続いているからです。
(シェアハウスのダイニングルーム)
(シェアハウスの居室)
家を失い、ネットカフェなどで過ごしていたものの、所持金数百円、身分証もなく、スマホも料金滞納で使えないという状態になって、やっと私たちにつながる若者が多くいます。そのような若者が自力で住まいや仕事を得て安定した生活を手にすることはほぼ不可能です。
サンカクシャにつながった若者たちの声
では、なぜ若者がホームレス状態に陥ってしまうのか、どんな経緯を経てサンカクシャのようなNPOにつながるのか。
私たちがサンカクシャのシェアハウスに居住する若者を対象に行ったアンケートおよびインタビュー調査の結果*1から2つのケースを紹介したいと思います。
*1:「シェアハウスを利用した若者に対するアンケート・インタビュー調査レポート」(2023年3月)
Aさん(22歳)のケース
幼少期に両親が離婚し、父親と暮らしていた。父親からの暴力が絶えず、児童相談所に通報され3回ほど一時保護された。小学生の頃に父親が病気を患い生活保護を受けた。家事などをしなければならなかったが、うまくできずによく怒られた。頼れる大人や機関はなかった。
大学に進学したが中退。日雇いのバイトなどでお金が少し貯まったので家を出た。近くの公園で寝泊まりしていたが警察がいたためここにはいられないと思い、地元を離れる。
しばらく友人の家やネットカフェで寝泊まりした後に、関東近郊のあるシェアハウスを見つけて仕事も提供できると言われたので入居する。そこは劣悪な環境で逃げ出そうとしたら見張りがいた。ツイッターでサンカクシャを見つけて連絡をとり、何とか逃げ出してサンカクシャにたどり着いた。
親に通報される心配があったので行政の支援は受けたくなかった。
幼少期に家族から守ってくれるところがあれば良かったと思う。
(シェアハウスの居住者とゲームで交流する荒井さん・右)
Bさん(24歳)のケース
一人っ子で母親から怒鳴られることが多く怖かった。怒られたくなくて、反抗せずに耐えてきた。
幼い頃から人とのコミュニケーションが苦手で、ずっと孤独だった。1人で何とかしなければならないと思って生きてきた。悲しいくらいつながりがなかった。大学時代にカウンセラーに相談に行ったが、卒業後はつながりが無くなった。
就活は、何度かエントリーしたが、面接が怖くて行けなかった。卒業後、人と接する必要がない工場でのアルバイトをしていた。それ以外は外出しない生活だったが、このままではまずいと思って家を出た。
東京都の若者応援プロジェクトのYouTube動画を観て、若者サポートステーション(サポステ)*2 とサンカクシャを知ってつながった。
ずっと自分一人でやってきたが、自分の辛さや悩みを誰かに言えたことで救われた。加えて、サンカクキチ(サンカクシャ運営の居場所)のような居場所があることで孤独感が少なくなった。嬉しかった。
*2:働くことに悩みを抱えている15~49歳までを対象に、就労に向けた支援を行う機関。厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績がある民間団体などが運営。
(シェアハウスの居住者と一緒に食事をする荒井さん・中央)
多くの若者に共通しているのは、幼少期から家庭環境に問題を抱え、学校や行政の支援でも解決されなかった経験を経て、大人を信用できなくなっていることです。そのため、10代後半以降、家を追い出されたり自らの決断で家を出て自力で何とか頑張ろうとした結果、困窮状態に陥り、SNSやネット上の情報を通じてようやく支援につながるのです。
行政やNPOなどの支援につながる場合のみでなく、困窮した若者から搾取する貧困ビジネスを行う組織や、反社会的勢力に近い大人たちにつながってしまうケースも多くあります。むしろそのような大人たちはSNS上で積極的に若者にアプローチしているため、よりつながりやすい現状があります。
より早い段階で支援につながる仕組みづくりを
前述の調査では、サンカクシャとつながる前に、行政の支援につながっていた若者は回答者の約半数でした。半数以上の若者が行政の支援につながらなかった理由には、そもそも支援の存在を知らなかったり、知っていても何をどう相談すれば良いのかわからないということがあります。
(2023年3月「シェアハウスを利用した若者に対するアンケート・インタビュー調査レポート」」より抜粋)
(2023年3月「シェアハウスを利用した若者に対するアンケート・インタビュー調査レポート」」より抜粋)
これまでの学校等での経験から、公的機関に対する信頼がなかったり、抵抗感が強い場合もあります。また、自分が支援を受ける存在になりたくないという複雑な心境を持っている若者もいます。
サンカクシャのシェアハウスに入居した若者の中にも、積極的に「支援」を求めていたのではなく、安く生活できる住まいとしてシェアハウスを探していて、たまたまネット検索を通じてサンカクシャに出会ったという若者がいます。
「全部失ってからではなくて、そのもうひとつ手前で何かサポートがあったら違ったのかもしれない。」
若者へのインタビューの中で出てきた言葉ですが、我々大人たちや社会の責任について考えさせられます。若者がインターネットやSNSで情報を探している現在、官民を問わず、支援側がよりわかりやすく見つけやすい形で情報を提供して、より早い段階で支援につながりやすい仕組みを作る必要があります。
安心・安全な住まいをスタート地点に、再出発をサポート
「安心していられる場所ができたので、やっとこれからのことを考える気持ちの余裕ができました。」
これは、シェアハウスに入居したある若者に、今後どうしたいかと聞いた際の返答です。
サンカクシャでは、家を失い困窮している若者に、まず安心・安全に過ごせる場所としてシェアハウスや個室のシェルターを提供します。そしてそこをスタート地点として自立へのサポートをしていきます。
(シェアハウスでスタッフと一緒に当番決めをしている様子)
これまで過酷な環境下で様々な機会を奪われ、生きる気力が低下している若者に寄り添い、生活リズムや精神的な面での安定をはかり、社会的な経験を積みながら自立できるようにしていく支援は、数年という長期にわたります。また、なかなか一筋縄では行かないため、多くのコストがかかります。
次回は、サンカクシャの支援の具体的な中身や大事にしていること、公的な支援の現状、民間のNPO団体として直面している課題などについてお伝えしたいと思います。
特定非営利活動法人サンカクシャ・代表理事。1989年埼玉県出身。大学生時代からホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を多く見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。サンカクシャでは、15歳から25歳前後までの親や身近な大人を頼れない若者の「居場所」「住まい」「仕事」の3つをメインの支援として実施している。
親や身近な大人を頼れない若者をご支援ください!
人が生きていく上で、安心できる人とのつながりが欠かせません。それを獲得するための「居場所づくり」。また、生きていく上で必要なお金をどのように稼ぐか、どのように生きていきたいかも含めた「仕事のサポート」。そもそも、住まいすら失う若者も近年増えているため、生きていく基盤となる「住まいのサポート」。サンカクシャでは、これらを通じて、若者が生き抜いていけるように活動しています。ぜひ、若者の「いま」と「これから」を寄付でご支援ください。