教育格差

スタディクーポンで子どもの教育格差を解消する(前編)-課題を社会に発信し、共感と支援の輪を広げる

2014年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されてから、早5年半が経過した。

この法律が制定されたことの影響は大きく、「日本に貧困の子どもなんているの?」という状態から、少しずつ課題が認知され、対策も進められるようになってきている。

「子どもの貧困」というキーワードを全く耳にしたことがない人は、今や少ないかもしれないが、世間的な認知が進む前から、この課題に取り組み続けている団体がある。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)。CFCは、経済的な困難を抱える子どもたちに、塾や習い事、体験活動等で利用できるスタディクーポンを提供する事業を展開しながら、家庭の経済格差による子どもの教育格差を解消し、貧困の世代間連鎖を断ち切ることを目指している。

CFCの東京事務局で広報担当として勤務している山本雅(やまもとみやび)さんに、今回はお話を伺った。笑顔が素敵で、聡明な印象。学ぶことが好きで、働きながら通信制の大学にも通っている。

CFCが目指すところと山本さんがここで働く理由。その重なる部分はどこだろうか?

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの山本雅さん

“格差”はどうして生まれるんだろう?

山本さんは大学院時代、アフリカにあるウガンダの初等教育の研究に携わっていた。貧しい地域でも学力の高い学校、低い学校があり、学校要因としてどのような理由で格差が出ているのか。直接現地に行って、校長先生や学校の先生にヒアリングしながら、調査研究を進めていた。

CFCの仕事にもつながる“格差”の問題。この問題に興味をもち大学院で学ぶようになったのは、一つのきっかけがあった。

「もともとはものすごく勉強嫌いな子どもだったんです」

働きながら通信制の大学に通っている今の姿からは想像ができないが、山本さんは高校生くらいまで勉強が好きではなかった。「学校に行きたくない」と思うこともしばしば。勉強の仕方や、する意味もよくわからなかった。

そんな折に、アフガニスタンの戦争がひどくなった。山本さんが高校2年生の時だった。

「ニュースで見て、学校に行きたいのに行けない人がいて、私は行きたくないのに行かなきゃいけなくて。その事実が人類不平等だなあと。学校に行きたくない私よりも、行きたい人が行った方がいいはずなのに、なんで逆転してるんだろう?と、純粋な疑問をもちましたね」

生まれる場所、生育環境により発生する格差の問題。子どもは選んで生まれてくることはできないからこそ、その事実はあまりに不平等である。

「なんでだろう?」とシンプルに疑問を感じたこと。それは今の山本さんにつながる一つの原体験であった。

ウガンダでは、小学校の先生と教育省の職員の会議に参加させてもらった(ウガンダでは、小学校の先生と教育省の職員の会議に参加させてもらった)

「こんな大人になりたい」そう思わせてくれた大人との出会い

全く勉強しなかった子ども時代から、急遽、勉強し始めた高校時代。しかし、長らく勉強をやってこなかったことで、どうやって勉強をしたら良いのかよくわからない。

そんな時に支えになってくれたのが、塾で出会った2人の先生だった。

「一人は現国の先生。学校の成績はとても悪かったんですが、その塾の先生に教えてもらったら成績が一気に上がったんです。それまでは嫌いだった現国が、こんなにおもしろいと思うなんて思ってもいなかった。もう一人は英語の先生。めちゃくちゃ厳しいんですがその中にも愛があって。大学受験に失敗した時に、『あなたがどれだけがんばったか知ってるよ』と言ってくれて、その言葉にすごく救われました」

「こんな大人になりたい」と思えた存在。それは山本さんにとって、とても大きな出会いだった。

勉強も、嫌い嫌いと思っていたが、やってみると案外おもしろい。「自分も意外とやればできるやん」そう思って、自分への自信もついた。

塾の先生と出会い、勉強に打ちこむことで少しずつ変わる自分を実感する。“教育”という分野に興味をもつようになったのは、この頃だった。

本気で取り組める仕事を見つけたい

大学、大学院時代を経て、山本さんの中で「教育」と「国際」という二つの軸が大きくなっていた。

新卒で入社した企業は、海外のお客さんを相手とするような金融機関。教育の仕事への興味もありつつ、「まずは広い社会を見ることができるような仕事がしたい」と、この仕事を選んだ。

国際的な仕事ができるおもしろさ、時に数百億円という案件に関わる緊張感。やりがいも大きく、人間関係にも恵まれ、仕事は楽しかった。

一方、心のどこかにあるのは教育に関する仕事への想い。自分を変えてくれた塾の先生の姿が、ふと思い浮かぶ。

今の仕事は楽しく、やりがいもあるが、本気で取り組んでいる上司の姿に、「自分はここまで熱くなれないな」と、ギャップを感じてしまったことも確かだった。

「本気で取り組める仕事がしたい」

教育の仕事への興味が少しずつ膨れるが、学校の先生のような対人支援の仕事より、昔から変わらず、格差といった社会学的な側面から教育を捉えることに興味がある。

そんな時、たまたま友人がCFCの活動説明会に誘ってくれた。

「初めて活動説明会に参加して、“相対的貧困”の説明を聞いた時に、思わず泣いてしまったんです。以前、家族が病気になってしんどい時期もあったので、『どうして自分だけ?』という相対的貧困の辛さは、少しわかる気がして。そういうやるせない感じを、何とかどうにかできないかなって」

もともとは海外の貧困問題に目を向けていたが、国内にもこれだけ貧困と呼ばれる子どもたちがいる。そのことも衝撃だった。

「自分がやりたいこと、やらなければいけないことは、これではないか?」と、そんな気持ちになった。

活動説明会をきっかけに社会人ボランティアとして携わり始め、2014年12月に正式な職員となり、現在に至る。

定期的に開催している活動説明会では、日本の子どもの貧困・教育格差の現状を学ぶことができる(定期的に開催している活動説明会では、日本の子どもの貧困・教育格差の現状を学ぶことができる)

広報は「誰に、どのようなメッセージを届けるか」が重要

山本さんは現在、広報の担当をしている。寄付者への報告物の作成、団体のWebサイトの運営や改善、企業とのチャリティ企画の広報媒体作成など、広報全般の業務に携わる。寄付を原資としているCFCにとって、広報が担う役割は大きい。

「前の仕事は広報に関係していたわけではないし、初めは手探りで大変でしたね。Webサイトをダウンさせてしまったりとか、失敗もいろいろしました。いろんな人にフィードバックをもらいながら、自己流ではあるけど、仕事を回せるようになってきたとは思います」

営利企業であれば、広報にお金をかけて、何年かかけてコストを回収していく、というやり方もできるが、NPOの場合はもともと豊富に資金があるわけではない。

CFCでは寄付金が原資となっているため、使途にも制限があり、いかに少ないコストで発信力を高められるかが重要となってくる。

“子どもの貧困”という見えにくい課題を、どうやって社会に発信していくか。どうしたらこの課題に共感し、支援してくれる仲間を増やせるのか。

「広報については、語れるほどではないですが、『誰にどのようなメッセージを届けるか』はすごく意識しています。寄付者さんによっても、一人ひとり響くメッセージは違うと思うので。発信ありきではなく、受け手を意識することが、全ての起点になっています」

毎年多くの子ども、ご家庭からクーポン利用希望の申し込みをもらっているが、全員に応えられていないのが現状でもある。希望をもって申し込んできてくれた人たちに対して、少しでも早く支援を届けたい。

そのために広報、ファンドレイジング担当者としてできることは、たくさんある。

「もっともっとがんばらなきゃいけない」

そう山本さんは話していた。

スタッフ募集:チャンス・フォー・チルドレン

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン

チャンス・フォー・チルドレンでは、ファンドレイザー、マーケティング・広報担当のスタッフを募集しています。現在のスタッフは、異業種・未経験からのスタートしています。興味関心のある方は、下記の「スタッフ募集の詳細」からご連絡ください。

スタッフ募集の詳細

団体名 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン
職種 ファンドレイザー、マーケティング・広報
雇用形態 契約社員
給与 月給23万円~(年齢、経験を考慮し、社内規定に基づく)
※昇格・昇給あり
【モデル年収】
例1:28歳(役職なし・入社1年目)
月給24.5万円
年収イメージ385万円(賞与含む/別途、時間外勤務手当・交通費実費支給)例2:35歳(マネージャー職・入社5年目)
月給32.3万円
年収イメージ508万円(賞与含む/別途、時間外勤務手当・交通費実費支給)
福利厚生 ・賞与年2回(6月、12月)
・時間外勤務手当
・扶養手当
・社会保険完備(健康保険・厚生年金・雇用保険)
・交通費支給(上限あり)
業務内容 下記のような仕事をチームメンバーの一員として取り組んでいただきます。
・ファンドレイジング施策の立案(マーケティング)
・講演イベントの企画運営
・寄付者とのコミュニケーション(法人・個人)
・WEBサイトやSNSの管理、情報発信
・広報媒体の制作(年次報告書、寄付募集チラシ等)
・その他、法人の管理業務、事務局業務全般
期待する成果 下記のような仕事をチームメンバーの一員として取り組んでいただきます。
・ファンドレイジング施策の立案(マーケティング)
・講演イベントの企画運営
・寄付者とのコミュニケーション(法人・個人)
・WEBサイトやSNSの管理、情報発信
・広報媒体の制作(年次報告書、寄付募集チラシ等)
・その他、法人の管理業務、事務局業務全般
勤務地 東京都江東区亀戸6-56-17 稲畠ビル3F
最寄駅:JR総武線亀戸駅から徒歩2分
勤務時間 10:00~19:00(休憩1時間)
※ただし、勤務時間は希望に応じて調整可能です。
休日休暇 週休2日制(土・日)、祝日休み
※土曜・日曜に出勤の必要がある場合は別の曜日に振替
※有給休暇、夏季休暇、年末年始休暇有
応募資格 20代、30代の方を優先します。
※ただし、スキル・経験等により、上記に該当しない場合も応募できる可能性があります。
求める人材像 ・子どもの教育格差解消というミッションに共感する方
・社内外の方と円滑にコミュニケーションをとれる方(営業経験者歓迎)
・企画書や提案書を作成する基礎的なスキルを持っている方(基礎的なPCスキルは必須)
・自ら業務を組み立て、遂行できる方
・こつこつと地道な仕事ができる方
・チームで仕事をするのが好きな方【こんな人は向いていない】
・混沌としたところや決まっていない中で物事を動かすのが嫌な方
・地道な仕事を継続することが苦手な方
採用予定数 1名
選考プロセス ・書類選考(履歴書、エントリーシート)
・面接選考(採用担当者、代表者等)
※面接選考は3回程度行います。

スタッフ募集の詳細

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報をご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。

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