子どもの貧困政治・制度

「子供の未来応援国民運動」の現状を発起人に聞いてみた!-今の「子どもの貧困」対策で解決に向かうのか?

山科醍醐こどものひろば・理事長の村井琢哉

2015年4月に政府主導の国民運動の「子供の未来応援国民運動」が発足しました。発足当初より、「国民運動」を政府が打ち出すことや、子どもの貧困対策にあてられる財源に「基金」を設置し、「寄付」で取り組むといった姿勢に賛否両論の多くの意見が寄せられました。

今回は、「子供の未来応援国民運動」の発起人のお一人であり、京都府山科区を中心に子どもの貧困対策事業に取り組んできた山科醍醐こどものひろば・理事長の村井琢哉さんから「子供の未来応援国民運動」の現状をお伺いしました。

子供の未来応援国民運動

現在の「子供の未来応援国民運動」は、子どもの貧困問題を広く啓発することと、支援体制の構築、またその支援に分野を超えたつながりを作り、官公民問わず、国や社会全体で解決に向かうべく取り組む運動として立ち上げられています。

特徴的な取り組みとしては、啓発と子どもの貧困問題に対する政策・施策・実践事例などを紹介・検索できるホームページと、批判の的にもなっている「子供の未来応援基金」の設置です。

「子どもの貧困」対策の全体像がわかりやすくなった

まだまだ不十分ではありますが、ホームページでは、各自治体でどのような支援が受けられるのかなど、状況にあわせた現状の支援メニューの検索ができます。

また、支援団体のニーズと企業等のサービスや支援をつなぐというマッチング機能、すでに全国で行われている民間の実践事例など調べることができ、今の支援者や研究者のような方には役立ちそうです。

一方で、実際に「啓発」につながるかという点では、一般の方がこのホームページを閲覧する可能性は低く、あまり効果がないと思います。

これまで、2013年に成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律」や2014年の「子供の貧困対策に関する大綱」などでは、数値目標などが盛り込まれず、従来の各子ども・子育て・教育施策を拡充させる形で、いくつかの方向性が示されてきました。

各省庁の役割分担のようになっていた対策内容からすると、このホームページに掲載されている政策の全体像などはわかりやすくなったと思います。ぜひ、一度、政策紹介のページを見てください。

子供の未来応援国民運動

政策の内容などをそれぞれ触れるのは別の機会にしたいと思いますが、実践現場の方々の多くが自分たちの事業の部分だけで子どもの貧困問題を語ることが多いため、全体像が掴みやすくなったことは一歩前進です。

しかし、子どもの貧困問題の全容をとらえる実態調査などが、各省庁、各自治体ではじまったばかりであり、これまでの各調査結果も踏まえた問題の総量を掴むのはこれからです。

そもそも「子供の貧困対策に関する大綱」でもまず実態をとらえるところが最初の目標であり、ここはしっかりと調査にすることで、啓発のための基盤ができると考えられます。

「税」で行う支援、「寄付」で行う支援

今回の国民運動のもうひとつの特徴である「子供の未来応援基金」。「子どもの貧困問題を税分配として社会で保障せず、国民からの寄付で対応しようという考えは大問題だ」という意見が多く見受けられます。これはもっともな意見です。

国民運動の発起人メンバーからもその点については、すでに指摘が挙がっています。政策の方向性としても、従来の社会保障として取り組んできた各手当の見直しなども項目にも挙がっています。これからも検討が進められ、実際の対策予算がつくかどうかの議論が進んでいくと思われます。

一方で、今回の基金は、社会保障の充実に充てる予算を確保するものではありません。ホームページでも示されている通り、この基金で募集する寄付については、実際に使途が指定されています。

子供の未来応援国民運動

大きくは、「未来応援ネットワーク事業」と「子供の生きる力を育むモデル拠点事業」の2つです。

事務局を民間団体の日本財団が担い、その寄付の受け皿にもなります。このような民間団体へ集まった寄付を、「手当」のような現金給付型の支援に使うことは現実的に難しく、あくまで、事業助成や奨学金のようなものにしか活用できないでしょう。

そして、国民に寄付を募るという意味では、「国、政府としてどこまでやるのか?」という成果目標(数字含む)であったり、予算という形での実際の「覚悟」がないことには動き出すことは困難です。

実態調査が進むにつれ、必要な対策予算の総量も見通しがつくと思います。各地域、各個別ニーズには、民間の寄付などで応えられても、貧困の総量を減らすことはできません。

その意味では、少なくとも現金給付の有効性は高いと思います。その金額が十分ではなかったとしても、少しでもそこに国、政府が取り組むことで、実際の国民運動も動くのではないでしょうか?

そして、民間に基金を設置し、寄付という財源を用いることで、地域、分野、方法などもアレンジしやすく、個別のニーズに応えられる柔軟な仕組みとしていけるのではないでしょうか?

「子供の未来応援国民運動」を市民の運動へ

安保法制の決議の動きの中で、SEALDsが注目を集めています。今の社会が抱えている問題に対して、その構造の変革を求めて国民自身がアクションを起こしていかないといけない時代です。しかし、この「子供の未来応援国民運動」は、その今の社会を政治的側面で運営する政府が主導となったものです。これは「一億総活躍」という動きでも同様であり、現在、子供の未来応援国民運動は、その中に含まれています。

これら国民運動も基金も体裁は、民間との連携・協働ではあっても実質的に政府主導であり、真の意味において国民運動とは言えないのです。なぜならば、仮に今の政府に問題があったとしても、問題がある主体が起こす運動では改善していかないからです。

その点においても、「運動の主体はだれなのか?」あらためて問い直し、国民側、市民側にその運動の主体を移していく必要があると思います。もちろん、官公民それぞれ立場を超えて取り組まなければいけない運動ではあります。そして、この国民運動や「子供の貧困対策に関する大綱」で謳われている政策は、まだまだキャッチフレーズであり、具体性を帯びた対策は不十分です。

その意味では、改めてここに示された方針に対し、国民が声を上げ、より良い政策を実現させていくための運動をしていく必要があるのだと思います。今が完成形ではなく、みなさんの声で完成させていくことが大切なのだと思います。

子どもの貧困が話題になる一方で、今夏は藤田孝典氏が発刊した「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書)」が大きなブームとなっています。子どもから高齢者まで、どの世代も貧困を抱える日本社会において、国民が政府や社会にできる運動をしていかなければ、「未来」はないのだと思います。

Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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