ひとり親

なぜ、ひとり親は「一日一食」までに困窮しているのか?-預貯金が少ない中、新型コロナで収入減・支出増の追い打ち

新型コロナウィルスの影響により、勤務先の休業や解雇、または勤務時間の減少を余儀なくされ収入が途絶え、ひとり親家庭の経済状況が非常に困窮しています。学校の休校に伴い日中の食費負担も増え、一日1~2食で親子が生活せざるを得ない状況に陥っている家庭もあり、命に関わります。できる限り早く、十分な支援を届けていくために、まず現状を多くの人に知ってもらうことが必要です。

「現在コロナの影響で休校が続き私の稼ぎだけでは厳しく、電気代水道代は支払い猶予をしていただきました。しかし、ガス代に関しては会社に連絡がない為猶予はできないと言われ、今月末日までに支払わないとガスが止められるとのことです。。。政府も言っているのに駄目なことにショックを受けております。給付金もすぐには入らないですし、お金のない者には結局…もう限界です。助けてください。」

「私には一歳の子供がいます。アパートで1人で子供を今まで育てています。保育園に入れず働けないため養育費と児童扶養手当と児童手当で働いてきました。貯金も少ないため保育園が決まったので働こうとしましたが(保育園が)自粛でどこにも雇ってもらえず求職活動中なので自宅で子供を見ています。

働くつもりだったのに働けずお金がもうあまりありません。自分の食事を1日1回にして子供に食材を回している状態です。一歳になりおやつを食べるようになりごはんの量も増え働けない私にとっては少し負担が大きいです。私以外にもたくさん食料を必要としている方はおられると思うのでたくさん食料をくださいとは言いません。本当に少しだけでもいいんです。食料の支援をいただけないでしょうか。」

「ひもじくて 困っています! お米お送りください!」

(以上、しんぐるまざあず・ふぉーらむのメール相談より抜粋)

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響などで生活にお困りのひとり親家庭に、お米や食料など緊急食料支援を行った(認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響などで生活にお困りのひとり親家庭に、お米や食料など緊急食料支援を行った)

新型コロナウィルス感染予防のための3月の一斉休校以来、私たちNPOのもとには多くの相談が寄せられています。電話相談は時間も限られているため、メール相談が多く、3月からの6月5日までの相談は600件を超えました。(2019年度1年では265件だから前年一年分の2倍となる)

悲鳴のような「助けて」の声が相次ぎ、私たちは、まずはお米や食材を支援しました。そして、社会福祉協議会で「緊急小口資金」を借りるように伝え、「住宅確保給付金」の手続きをするよう勧めました。

メール相談のあまりの多さに相談員を増員し、なんとか相談到着後3日以内には対応するよう、頑張り続けました。今回は、その記録であり、そこから見えてきたひとり親家庭の状況です。

収入減が59%、収入が無くなるが11%

3月からの一斉休校を受け、メルマガ会員2,800人にメールマガジンを使い、「新型コロナウィルスの一斉休校などでのひとり親と子どもたちのくらし調査」のアンケートフォームを送り、3月2日~3月5日にかけて232人の回答を得ました。その結果、43%の人が「収入が減る」と答え、5%の人が「収入がなくなる」と答えていました。

続いて、4月2日~5日にも同様にウェブアンケートを実施し、「収入が減る」が48.6%、「収入がなくなる」が6.8%になりました。

そして、緊急事態宣言後の4月17日~19日の食料支援とともに行ったアンケートでは、児童扶養手当受給者のうち、収入減59%、収入無し11%へと増えていました。収入減、あるいはなしの原因は、解雇、勤務時間減、休業でした。

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響~アンケートデータ結果認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響~アンケートデータ結果

過半数が非正規で、預貯金も少ないひとり親

半分以上のシングルマザーは非正規で働いています。パートアルバイト、派遣、契約社員、あるいは請負で雇用すらされていない人も多いのです。一斉休校や保育園閉園自粛要請で仕事ができない人がまず増え、そして、勤め先に休業要請が来て、あるいは自粛して仕事を休んでと言われた人など、「解雇」と言われずに「休んで」と言われ何の保障もないまま、自宅で待機していました。

「もう生活できない」という相談の人と話していると、緊急小口資金の貸し付け担当者に「勤務先の飲食店を保育園の自粛要請で休んでいるという証明をもらってきてくれれば、申請を受理する」と言われても、その書類を店長が書いてくれず、「強く言えない」という人がいました。理由を聞くと「またシフトに入れてもらいたいからうるさいと思われたくない」ということでした。

勤務先が雇用調整助成金の申請などをしていないことも多いようで、それを働く立場では言い出せない人もいましたし、雇用主に言ってうるさがられてしまった人もいました。しかも、一斉休校による有給保障もない人が多かったのです。このようにパートの弱い立場で働く女性たちが多いということがわかりました。

政府が非正規労働者にも届くようにと意図した休業による保障は、雇用主を通じてのものだったために(本来ならば雇用主は雇用している者の生活の保障を考えねばならないのだが)、4月の中旬にはほとんどひとり親には届かない状況でした。それは、預貯金が少ないひとり親にとってそれは致命的でした。

昼食代や光熱費等の出費増

さらに家計に追い打ちをかけたのが、一斉休校による出費増です。

突然の一斉休校で夏休みのように、親たちは子どもに昼食を用意しなければならなくなりました。しかも、昼食代については文部科学省にもお願いしたのだが、低所得の就学援助受給世帯(準要保護世帯)には就学援助の給食費は戻らず(生活保護世帯には支給)、昼食代補助をしている自治体もわずかであったために、ひとり親世帯などは出費増に苦しみました。

支出は平均でも5,000円から1万円の出費増が39%、1万1円~2万円の出費増が53%に上りました。その内訳は、子どもの昼食代、そして光熱費等でした。子どもが家にいるために昼食代がかかり、さらに光熱費もかかります。

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響~アンケートデータ結果認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ:新型コロナの影響~アンケートデータ結果

食費を減らすために、食事の回数を減らす

収入減と支出増。この二つに追い打ちをかけられたひとり親は、どうやって対処しようとしたのでしょうか?

ひとり親は、まずは食費を減らしました。目を引いたのは、食事の回数を減らして人たちです。

・1日1、2食か、食べない日を作り、風呂や水道も使用しないようしている。
・出かけずにじっとしています。子ども達も私も今は1日一食になりました。
・1日2食の日が多いです。
・今は朝昼兼用と夜ご飯という感じで、1日2食にしています。バランスよりも、お腹がいっぱいになることを優先して、丼物やカレーなどにしています。
・三食ご飯あげられないので、朝は無しで昼、夜の二食ご飯をあげている。
・子どもは、成長期なので、きちんと食べさせたいので、自分の食べる量を減らしたり、自分のごはんを一食抜いたりしている。
・自分のお昼ご飯は飲み物で済ませることがほとんどです。
・自分のご飯は2日に一度にしている。
・自分の食事は子供達の残り物、もしくは食べずにいる。
・自分の食事を抜いて、子供の分にまわす。

この「自分のご飯は2日に一度にしている」と答えた親は、3人の子どもを育てており、5か月の子に母乳をあげている母親であったことを付け加えたいと思います。その後、彼女は激やせしたと驚かれ、乳児は保育園にいくようになったが、保育園で「この子は小さい」と言われた、ということでした。誰にも気づかれず、一歩間違えればいのちの危機にあったと言えます。

シングルマザーサポート団体全国協議会では、全国の支援団体が3月以来、懸命にひとり親の子どもたちを支援してきました。シングルマザーサポート団体全国協議会では、全国の支援団体が3月以来、懸命にひとり親の子どもたちを支援してきました。

貯蓄がなければ、わずかの収入減で窮迫

新型コロナで1~2か月仕事に行けないということは、貯金があり、失業給付や有給休暇がある働き手にとってはそれほど深刻な影響は与えません。しかし、貯金もわずかで、非正規雇用で失業給付、有給補償、雇用調整助成金も入らないような人にとっては命に直結します。

平成28年度全国ひとり親世帯等調査によると、預貯金が50万円以下の人が39.7%。さらに北海道ひとり親家庭生活実態調査(2018)では貯蓄がないと答えた母子世帯は35.4%となっています。貯蓄がなければ、わずかの収入減で窮迫してしまうのです。

であれば、新型コロナ期のひとり親世帯への支援が必要であるとともに、平時のひとり親の状況を改善するための方策、賃金の格差を縮小、ひとり親への児童扶養手当などの拡充や当事者の声を生かした改善などが一層求められることになります。あるいは、生活保護が受けやすくなるような支援と制度改正も必要です。

共助と公助、その両方が必要

おそらく、雇用が非正規のひとり親に戻るのは一番最後になります。1年以上かかるのかもしれないという声も聞こえてきます。そこまで私たちは何をすべきなのか?

現在、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの会員数は3月末で3100人だった会員数は、5月末に5,000人を超え、増加し続けています。メディアに取り上げられるたびに増えるメール相談と会員。

ひとたび、一斉に食品支援の募集をかければ1500世帯でも収まり切れない応募がきます。その人たちに毎月食品支援をし続けるのでしょうか。しかし、支援しないわけにはいかないような訴えがきます。ありがたいことに寄付もいただきつつ、走りながら何が最もひとり親の支援として有効なのかを考え続けている日々なのです。

しかし、民間の支援には限界がある。今、共助の仕組みがもてはやされています。サッカー選手の長友基金もありがたいし、前澤基金も話題となった。そうした共助が活性化していくことは歓迎なのです。

しかしながら、やはり共助は「つなぎ」であり、公助は必要です。

政府にひとり親への支援をしてもらいたい。そう思って、5月には国会の各党の議員のみなさん、そして、政府へ働きかけ、たくさんの議員のみなさんが骨身を惜しまず動いてくれました。限りある財源の中で、なんとひとり親への臨時特別給付金が支給されることが決まりました。

児童扶養手当受給者等に一律5万円、第二子以降の加算額は3万円(遺族年金、障害年金受給者で同等の所得の人も対象となった)。そして、家計急変世帯にはさらに5万円を申請により支出します。1,365億円の予算で行われることになりました。

厚生労働省:ひとり親世帯臨時特別給付金について(厚生労働省:ひとり親世帯臨時特別給付金について)

セーフティネットを張りなおす努力

4月頃、激増する相談を前にこの状況について、誰も知らないことに怒りが湧いてきてました。命にかかわることが起きているのに、なぜ、みんなは呑気なのだろうと。

しかし、考えれば想像できるとはいえ、やはり生の声を聴かなければ、わからない。そう悟ってからはたくさんの人に伝えることを心がけています。残念ながら日本社会においては、こうした脆弱な人々の生存の権利を守るセーフティネットが破れており、弱いのです。

だがそれをなんとかしようと動いている人々もいます。そのことに期待をかけながら、走っているところなのです。一日に一度の食事という文字を見て衝撃を受けない人はいません。であるなら、今の社会のセーフティネットを張りなおす努力を、共に広げていきたいのです。

さらに、コロナの収束に向かう時期だからこそ言いたいのですが、ひとり親の親たちは、そして、子どもたちはただ弱者であるわけではありません。多くの人は仕事に就いていたし、また今も働いています。

しかし、新型コロナにより社会が必要とする職種も変わっていくでしょう。そうした転換にも追いついていくことが必要です。ひとり親が取り残されずに、安定した仕事に就けるためには、何が必要なのか考えるのが次の課題です。

Author:赤石千衣子
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生きくらせる社会をめざして活動中。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参考人。社会福祉士。国家資格キャリアコンサルタント。東京都ひとり親家庭の自立支援計画策定委員。全国の講演多数。

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